家族が他府県などに離れて暮らしていると、介護時の心配ごとも多いですよね。事前に備えておきたいことなどを専門家に聞きました。
イラスト/オカモトチアキ
〝遠距離介護〟のほか さまざまな選択肢が
1人暮らしの高齢者や高齢夫婦世帯が増えている昨今。いざというとき、どこでどう介護するか悩む人も多いのでは。
「選択肢としてよく挙がるのは、子が実家に戻る〝Uターン〟や、親に子の家または近くに住んでもらう〝呼び寄せ〟です。しかし、そうしたくても、家庭や仕事の都合で同居が難しい場合も。そんなときは〝遠距離介護〟も検討してみては」
そう教えてくれたのは、京都府地域包括・在宅介護支援センター協議会の川北雄一郎さん。
「親は介護サービスを活用しながら住み慣れた家で過ごすことができ、子は定期的に帰省して親の生活をサポートします。
子が転職したり、お互いに転居したりなどせずにすむ一方で、緊急時にすぐ駆けつけられない点には注意を。距離や通う頻度にもよりますが、交通費や移動時間、通信費など、直接的な介護以外の負担があることも考慮しておきたいですね」
ちょうどよい〝距離感〟を探して
「親の判断能力や身体能力が衰えて常に介助が必要になると、通いの頻度が増え、遠距離介護の負担も増えていきます。途中で同居や施設介護に切り替えることもできるので、親の健康状態を踏まえて、都度、介護の方向性を家族で話し合いましょう」と川北さん。
「最初から同居や施設介護を選ぶ人もいますが、大切なのは、その方法が家族にとって精神的・物理的にちょうどよい〝距離感〟かどうかだと思います。
どんなに親子関係が良好でも、介護が始まって環境が変わったらストレスゼロというわけにはいきません。家族の関係やライフスタイルは多様化しているので『介護はこうあるべき』という固定観念にとらわれないようにしたいですね。介護に正解はありませんから、当事者である自分たちの思いを大切にしてください」
下記に、選択肢となる介護方法の特徴をまとめました。
\ 選択肢は大きく分けて三つ /
●遠距離介護
親、子がそれぞれの生活を維持したまま介護を行います。適度に距離を置くことで双方のストレス緩和にも。緊急時の対応が難しいため、周囲と協力体制を築くことがポイントです。交通費、通信費などの負担もあります。
●呼び寄せ/Uターン
親または子が引っ越し、同居・近居で介護を行います。そばでサポートできますが、仕事や人間関係、生活習慣といった変化が大きく、改めて環境を整える必要があります。
●施設介護
親または子が住む地域の施設で介護を行います。主な介護をプロに任せることができますが、金銭面や入所までの待機期間の対策が課題に。
離れているからこそ早めの備えを 地域とのつながりもカギに
実際に遠距離介護を行うとき、何に気をつければよいのでしょうか?
「まず、早めに介護に関心を持ち、情報収集することです。離れていると親の容体の変化に気づくのが遅れたり、各種手続きに時間がかかることが。介護サービスを利用したくてもすぐ使えないことがあるので、もしもに備えて知識を増やし、ゆとりをもって準備したいですね」と川北さん。
また、家族だけで抱え込まないよう、地域コミュニティーに頼ることが大切とか。
「そばでサポートできない分、近所の人や親の友人、地域組織、医療機関などと協力し、見守りの体制を整えましょう。
親からのアプローチも大切です。近くに頼れる家族がいない人ほど、孤立は避け、元気なうちに地域のイベントなどに参加して知り合いを増やして。日頃から地域包括支援センターに生活の困りごとを相談したり、地域の介護予防教室を利用したりするのもいいですね。各種窓口と接点を持っておくことで必要な知識が得られ、いざというときに頼りやすくなりますよ」
ステップ1まずは情報収集 不安や悩みは地域包括支援センターへ
介護にまつわる情報収集・相談は各自治体や社会福祉協議会、地域包括支援センターなどを活用してみて。介護が始まる前から利用でき、家族の相談も受け付けています。遠距離介護またはUターンを想定する場合は親が住む地域(親を呼び寄せる場合は子が住む地域)の同センターに相談することで、その地域で受けられるサービスや制度を説明してもらえます。
調べておきたいこと
- 介護保険制度、申請方法、受けられるサービス
- 自治体、民間の高齢者向けサービスの種類、費用
- 住宅改修の費用、補助金制度
- 高齢者向け住宅や施設の種類と特徴、費用
- 介護者のための支援制度(介護休暇など)
ステップ2コミュニケーションを増やしお互いの状況を整理
まめに連絡をとり、親子それぞれの状況を共有しましょう。親の生活リズムを知っておくことで、連絡しやすい時間帯がわかり、日常生活で不自由なこと、困っていることにも気づきやすくなります。
親は、自分の意思で判断ができるうちに、介護の要望を伝えて。介護者側は親族間でそれぞれの事情を共有し、介護の役割分担を考えたいですね。
共有したいこと
<親>
- 介護の要望
- 生活リズム
- 経済状況、貴重品類の保管場所
- 病歴、健康状態
- 地域内の人間関係
<家族>
- どの程度介護に関われるか
ステップ3親の交友関係を把握して地域ぐるみの介護を
近所付き合いのある人や、親の友人、参加している集まりなど交友関係の把握も大事です。ときどき様子を見に行ってもらうなど、できる範囲で見守りの協力をお願いするのも方法のひとつです。帰省時を利用して、親と一緒にあいさつに行き、連絡先を伝えておきましょう。かかりつけ医、地域包括支援センター、町内会、民生委員などともつながりを持っておくと、その後の連携がスムーズです。
親ができること
- 地域のイベント、サークル、ボランティアなどに参加。交友関係を維持し、声をかけ合える関係をつくる
- 介護予防教室を利用するなど、元気なうちから介護で関わる各種窓口、スタッフと接点を持つ
子ができること
- 親の交友関係を把握する。あいさつに行き、もしものときは日頃の見守りをお願いできる間柄になっておく。緊急時の対応をお願いする場合は、連絡先を交換しておく
- 早めに地域包括支援センターを訪れ、介護に必要な備えについて相談する
介護サービスを活用して不安を軽減
離れていると、親の健康や安全に問題はないかと不安になることが。また、金銭面でも負担が増えやすいですよね。こうした不安を軽減するサービスの一例を紹介。
「世の中には便利なサービスや制度が増えています。介護者が限界を迎える前に、早めの利用を検討してみてくださいね」(川北さん)
●見守りサービスの導入
「配食」のような自宅を訪問するサービスの中には、配達員が健康状態の確認を行なってくれるものが。また、認知症で行方不明になる不安がある人向けには、小型GPS(衛星利用測位システム)装置を自治体が提供していたり、地域の協力者が声かけ・緊急連絡先に連絡してくれるサービスもあります。
●家事代行サービス
掃除、洗濯など生活のサポートが必要なときは、介護保険・民間の家事代行サービスを活用してみては。高頻度で帰省できない場合に便利です。1人暮らし・高齢夫婦世帯は介護保険の「訪問介護」の生活援助(家事代行)を利用しやすいという利点があります。
●緊急通報サービス
自治体の中には、1人暮らしの高齢者向けに「緊急通報システム」の貸し出しを行なっているところがあります。急病や災害時、本人がボタンを押すことで消防局や近隣の協力隊員に通報できるほか、健康相談も行えますよ。
●無料連絡ツール
電話、メールといった通信費の負担を軽減するには、LINE(ライン)などの無料連絡ツールを活用。また、ビデオ通話機能があればお互いの顔を見ることができるので、安心感にもつながります。
【教えてくれたのは】
京都府地域包括・在宅介護支援センター協議会 会長
川北 雄一郎さん
デジタルの力で見守りをサポート
デジタル機器を介護の見守りに活用する動きも。京都橘大学 工学部 情報工学科の教授・東野輝夫さんに話を聞きました。
「インターネットにつなぐことで、自宅の外から遠隔操作などができる家電は〝IoT(アイオーティー)家電〟と呼ばれます。見守りシステムとして導入しやすいのは、家電の利用状況から安否確認ができるもの。カメラや録音機能ではなく、人感センサーなどを活用することでプライバシーを守りつつ生活を見守ることができます。たとえば、冷蔵庫や湯沸かし器のように毎日使う家電がしばらく使われていないと、家族に通知が届きます。
ほかにも、室温の設定を家族のスマートフォンで遠隔操作できるエアコンも。認知症になると体温管理が難しくなるため、熱中症予防にも役立つと思います」
現在は、AIチャットボット(自動会話プログラム)を使い、高齢者の話し相手や服薬確認を行う技術も研究されているとか。デジタルの力で、介護の負担を減らせるのはうれしいですね。
【教えてくれたのは】
京都橘大学 工学部 情報工学科 教授
東野 輝夫さん
(2024年3月9日号より)
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