介護のお金、どうする?

2023年4月14日 

リビング編集部

介護で気になる、お金の問題。費用の目安や、困ったときに利用したい制度など、押さえておきたい基礎知識を専門家に教えてもらいました。

イラスト/オカモトチアキ

介護保険制度から月々の費用をイメージ

「よくあるのが『急に介護が始まり、知識やお金がない』という悩み。まず〝介護保険制度〟から費用感を知りましょう」と、「高齢者情報相談センター」の内山貴美子さん。京都府内で暮らす高齢者やその家族の生活相談を受けています。

「介護保険は、介護が必要な高齢者を社会全体で支える制度。40歳以上のすべての人が加入を義務付けられています。介護や支援が必要になったとき、要介護認定を受けることで、実際に掛かる費用の1〜3割の負担でさまざまな介護・介護予防サービスを利用できます」

利用できるのは65歳以上、または特定疾患に該当する40歳以上64歳未満の被保険者です。

「介護度によって、1カ月の介護保険利用限度額が定められています。限度額内で利用した場合、本人の所得に合わせた負担割合(※1)の支払いに。超過した分は全額自己負担となります」と内山さん。下表は京都市の利用限度額と利用できるサービスの一例です。利用限度額は自治体によって若干異なります。

「介護サービスを積極的に活用することで、家族の心身・金銭面の負担を軽減できる場合もありますよ。

また、3年に1度行われる制度改正にも注目を。新たなサービスが追加されたり、保険料や自己負担額が微増することが。日頃から情報収集し、お金の見通しを立てておきましょう」

※1 本人の年間合計所得が160万円未満の場合1割負担など、詳しくは自治体のホームーページから確認を

上記は在宅介護を想定した居宅系サービスの組み合わせ例。令和4年度版「すこやか進行中!!〜高齢者のためのサービスガイドブック〜」(京都市)を参考に作成。その他の居宅系、施設・居住系サービスも適応するものがあります

備えの目安は介護内容で変わります

これから介護費用を用意するという人は、いくらくらいを目安にすればよいのでしょうか。

「介護度と介護期間で変わります。在宅介護の場合、仮に食事・入浴・排せつなどすべてに介助が必要な『要介護3』の介護サービスを限度額分まで利用すると、2割負担の人は月約5万〜6万円。5〜10年同程度の介護が続けば、360万〜720万円必要に。別に介護環境を整える自宅改修など、一時的な出費も想定されます。また、途中で介護度が上がり、施設介護に切り替える可能性も考えておきたいですね」(内山さん)

施設介護は、利用する施設の種類によって費用も変わります。「初期費用が、無料のものから数百万円必要なものまであり、家賃や管理費、食費などにかかる費用もさまざま。ただ、安否確認や健康相談といった生活支援サービス、掃除や洗濯など身の回りの世話、食事・入浴・排せつの介助といった介護サービスを受けられるなど心強い点も。受けたいサービスのある施設の利用料を目安に備えてみては」

近くの地域包括支援センターを訪ねれば、介護に必要な具体的なお金の相談もできるそう。「家庭の事情や貯蓄、介護度に合わせたケアプランを案内してもらえますよ」

《介護費用として考えておきたい項目の一例》

在宅介護の場合
保険対象の介護サービス費(通所介護、訪問介護、デイケア、ショートステイ、福祉用具貸与など)
保険対象外の介護サービス費(家事代行、見守り、配食など)
日用品代(おむつ、口腔ケア商品など)
一時的費用(介護用ベッド購入、自宅改修など) など

施設介護の場合
入居一時金(敷金・礼金)
家賃
管理費(共益費)
介護サービス費
生活支援サービス費
日用品代
食費(施設利用料に含まれる場合) など

施設の一例

●グループホーム…認知症状のある高齢者が介護スタッフの世話を受けながら共同生活する
●サービス付き高齢者住宅…専門スタッフによる生活支援サービスが受けられる賃貸住宅
●住居型有料老人ホーム…生活支援サービスが付いた施設。入居者自身の選択により、訪問介護など必要な介護サービスを利用する
●介護付き有料老人ホーム…24時間介護スタッフが常駐し、施設が独自に提供する介護サービスが受けられる など

介護費用の例

Aさん(70歳)
[要介護1/1割負担/夫婦2人暮らし/在宅介護]
月1万4052円
足腰が弱くなり、つえを使用。日頃のサポートは妻が行っていますが、妻自身も高齢のため、トイレや入浴の身体的介助には限界が。訪問介護や通所介護(デイサービス)を利用し、入浴介助や足腰を鍛える機能訓練を受けています。

【内訳(1カ月)】
週3回の訪問介護(入浴介助など1回60分以上90分未満)…8448円
週2回の通所介護(入浴介助付き、1回6時間以上7時間未満)…5504円
福祉用具貸与(歩行補助つえ)…100円
※生活費、医療費等は別途実費


Bさん(75歳)
[要介護4/1割負担/特別養護老人ホームに入居]
月13万2810円
数年前に認知症と診断され、同居する家族による在宅介護を受けていました。しかし症状が進行して寝たきりになったため、施設介護に切り替え。介護はプロに任せ、家族は定期的に面会しています。

【内訳(1カ月)】
特別養護老人ホームの個室を利用
 介護サービス費(自己負担額分)…2万9280円
 食費…4万3350円
 居住費…6万180円
※理美容代や日用品代、レクリエーション参加費等は別途実費。実際の費用は施設ごとに異なります

※令和4年度版「すこやか進行中!!〜高齢者のためのサービスガイドブック〜」(京都市)を参考に作成

払戻制度や自治体独自の介護サービスで負担の軽減も

実際に介護が始まると、想定より高額になることも。その場合、負担を軽減する方法があるようです。

「介護保険の自己負担額には、世帯所得ごとに一定の上限が設けられています。〝高額介護サービス費〟や〝高額医療合算介護サービス費〟を自治体に申請することで、超過分を払い戻しできる場合も。

また、介護保険対象外ですが、自治体が独自に行っている介護サービスや助成金制度もあります。費用を抑えつつ必要な支援を受けられるので、組み合わせて利用してください。サービスや目安となる費用は、各自治体が発行する高齢者向けの介護福祉ガイドブック、公式ホームページから調べることができます」

施設の一例

配食サービス
買い物や調理が困難な人に、調理済みの食事を配達するサービス。安否確認もしてもらえます。自治体主体と民間事業者主体のものがあります。(有料)
(例)京都市、長岡京市、向日市など

緊急通報システム
急に体調が悪くなったり、火災などの事故が起きたときの緊急連絡装置をレンタル、利用できるサービス。消防車や救急車を要請したり、常駐相談員による健康相談を受けられます。(有料)
(例)京都市、宇治市、長岡京市、向日市、城陽市など

教えてくれたのは
高齢者情報相談センター
センター長
内山貴美子さん

お金の管理 家族にできることは?

判断能力の衰えや入院などで、本人がお金を管理できなくなることも。そんなとき、家族はどうしたらよいか、ファイナンシャル・プランナーの薮内美樹さんにアドバイスをもらいました。

トラブルを避けるため早めの対策を

 介護費用をはじめ、生活にかかるお金は本人のお金からが基本。しかし、認知症など本人の意思確認ができない場合は、口座が凍結されてしまいます。預金を引き出せなくなるため、家族が支払うケースが増えているそう。

 「最近では、本人に必要な費用と確認できれば柔軟に対応してくれる金融機関もありますが、あくまで限定的というのが現状です。事前の対策として、まず、本人しか手続きができない定期預金は解約を。また、金融機関によっては、事前に代理人を指定しておくことで、認知症になった際、代理人が口座を管理できるサービスを無料で提供しているところもあります。誰に財産管理を任せるか、親子で話し合っておきましょう」

 とはいえ家族、とくに子から親の資産状況を面と向かって聞きづらいという人が多いよう。

 「実際のトラブルを例に挙げながら相談してみては。大切なのは、心配しているからこそ早めに考えておきたい、と素直に伝えること。全財産を把握するのは難しくても、年金の振込口座くらいは共有したいですね」

財産管理を任せる制度も

 もしもに備え、財産管理を家族などに任せる制度があります。

 「〝家族信託〟(注)の場合、本人の意向に沿って家族に任せることができます。財産管理だけでなく、医療や福祉サービスの利用時の契約手続きなども任せたい場合は〝任意後見制度〟を活用する方法もあります。また、生活費の支払いなど日常的な金銭管理や福祉サービスなどの手続きに不安を感じる場合は、低額で利用できる、社会福祉協議会の〝日常生活自立支援事業〟というものもあります」

 口座が凍結されたときの対処法は?

「〝法定後見制度〟を利用しては。家庭裁判所が後見人を決めますが、申し立ての際、家族を候補者としておくことで、後見人になれるケースも多いようです。本人の代理人として財産管理や身上監護などを行えます。ただし手続きに2〜3カ月かかるため、すぐにお金が必要なときは、まず金融機関の窓口に相談しましょう」

(注)信託財産の名義が受託者(家族)に移り、受託者が財産管理・運用・処分をできるようになります。弁護士など専門家に手続きを依頼するのが一般的

教えてくれたのは
ファイナンシャル・プランナー
薮内美樹さん

(2023年4月15日号より)