介護時の住まい、どうする?

2023年6月30日 

リビング編集部

介護時の住まい、どうする?

自宅に住み続けるか、施設に入居するか。介護を受ける場所にもさまざまな選択肢があるよう。専門家に、自宅や各種施設で受けられる介護サービスについて聞きました。

イラスト/オカモトチアキ

在宅介護は自宅や地域の環境をチェック

自宅での介護について、京都府地域包括・在宅介護支援センター協議会の川北雄一郎さんに話を聞きました。

「在宅介護は住み慣れた家で暮らしながら、本人や家族の状況に応じた介護サービスを利用するのが一般的。自宅を改修したり福祉用具を取り入れることで生活しやすい環境を整えます。家事の支援や介護が必要な場合はホームヘルパーを利用したり、入浴やリハビリ、他者との交流にはデイサービスなどが利用できます。

ただ、自宅といっても一戸建てか集合住宅か、持ち家か賃貸かで改修しやすさが変わりますし、地域によっては対応している介護サービスの数が限られるなどの違いがあります。

また、家族が遠方の親を呼び寄せるなら、環境の変化にも配慮を。慣れない土地での暮らしは不安も多いため、親の趣味を踏まえて地域のサークルなど、出かける先も考えたいですね。どこまで環境を整えられるか、事前確認が大切です」

とはいえ、どんなふうに環境を整えればよいかわからないことも。

「まずは最寄りの地域包括支援センターに相談を。生活する上で困っていること、どんな助けがほしいかなどを伝えると、その人に必要な環境や、利用できるサービスを案内してもらえます」

自宅の介護環境を整えるには

住宅改修・福祉用具の導入

足腰が弱くなり歩行や排せつなどが難しくなったら、手すりやスロープを設置したり、和式便器を洋式に替えてバリアフリー化を。改修工事には介護保険(※)が利用できます。また、つえや介護用のベッドなど福祉用具の貸与・購入にも介護保険が利用できます。

※介護や支援が必要になったとき、要介護認定を受けることで、実際にかかる費用の1〜3割の負担でさまざまな介護・介護予防サービスを利用できる制度。65歳以上、または特定疾患に該当する40歳以上64歳未満の被保険者が対象

介護サービスの利用

身体介助や日常生活の支援には、介護保険や民間のサービスの利用を。施設に通う「通所型」、スタッフが自宅を訪れる「訪問型」のサービスがあります。短期間施設に泊まる「ショートステイ」、民間の家事代行や配食サービスなどを併用することで、家族の負担軽減にもつながります。

在宅介護から施設介護へという選択肢も

さまざまな事情で在宅介護を続けるのが難しくなった場合、施設介護を検討することになりますが、「入居希望者の多い施設は、申し込んでもすぐに入居できない場合が」と川北さん。

「待機期間は在宅介護を続けたり、一時的に別の介護施設へ入居する必要があります。1人暮らしの限界や、介護する側の限界が来てからではなく、早めに考えてほしいです。

元気なうちに、安否確認や食事の提供など生活支援サービスを備えた高齢者向け住宅に住み替えるという選択肢もあります。ただし、要介護度が上がったり病気を発症すると退去しなければならないこともあるので、先々のことを踏まえた住まい探しを。

もしものときに困らないよう、どんな暮らしをしたいか、本人と家族で話し合ってください」

〈 教えてくれたのは 〉

京都府地域包括・在宅介護支援センター協議会 会長
川北雄一郎さん

介護を受けられる高齢者向けの施設

介護に対応した施設には多くの種類が。それぞれの特徴を、花園大学社会福祉学部の教授・福富昌城さんに教えてもらいました。

※主なものを紹介。介護の必要がない、自立した高齢者向けの施設は除いています。

施設の種類を知り 目的に合った住まい探しを

プロによる介護サービスや、安否確認・健康相談など生活支援サービスが備わっている、施設での介護。

「各種施設には施設利用料に介護保険が適用されるものと、適用外のものがあります。運営母体も社会福祉法人から民間の企業までさまざま。一般的に、施設利用料に介護保険が適用される介護保険施設や公的施設は費用面で人気が高く入居希望者が多いです。民間の施設は費用が高いものの、利用者の要望に合わせて多様なサービスが受けられるのがポイント。近年は外部の事業者による介護サービスを利用できる、サービス付き高齢者向け住宅も増えています。

まずは各施設の種類と特徴を知り、自分たちの状況や目的に適したものを絞り込んでみましょう」と福富さん。主な施設の特徴を聞いて、下に紹介しています。

入居後に、思っていたのと違ったと後悔しないためにも、慎重に住まいを選びたいですね。

「本格的に施設探しが始まったら、予算や機能面など資料だけで判断せず、実際に足を運ぶことが大切です。いざ入居すると、新しい環境になじめず、人間関係に悩む人も。本人と家族で一緒に施設を見学したり、体験入居を利用して雰囲気を確かめるのがいいでしょう。入居者や職員に住み心地を聞いたり、同じ食事やレクリエーションを体験することで、入居後の暮らしをイメージしやすくなります。また、特別養護老人ホームなどデイサービスやショートステイを併設している施設なら、それらを利用して確かめてみてもいいですね」

※緑枠は介護保険施設

特別養護老人ホーム(特養)

要介護3以上が対象 入所は必要性が高い順

つねに介護が必要で在宅介護が困難な、原則として要介護3以上の人が対象です。みとりに対応している場合も多く、比較的軽費で人気が高いため、入所待ちも多いそう。入居は先着順ではなく、必要性が高い順。

介護老人保健施設(老健)

在宅復帰をサポート 入所期間には期限あり

病気やけがなどの治療を終えたものの、退院後すぐに自宅に戻るのが不安な、要介護1以上の人が対象。医学的管理のもと、介護・看護・機能訓練や治療などが行われ、自宅への復帰を目指します。入所期間は原則3カ月。

介護医療院

医療ケアが充実 長期的な療養と介護が可能

長期の療養が必要な要介護1以上の人が対象。医療法人などが運営していてたん吸引、経管栄養、酸素吸入などの医療ケアが充実しているのが特徴です。療養を続けながら、介護・看護・機能訓練や、日常的な生活の支援を受けられます。

グループホーム

認知症の高齢者が対象 少人数で共同生活

要支援2以上の認知症の人が対象。1ユニット9人までの少人数で共同生活を行う住居です。介護職員による介護や機能訓練、家事などの支援を受けながら、自立した生活の維持を目指します。症状の進行度によっては、より重度向けの施設に住み替えが必要な場合も。

ケアハウス(介護型)

介護スタッフが常駐 終身利用が可能

65歳以上で要支援1以上が対象。所得により比較的軽費で入所でき、食事の提供や生活相談などを受けられます。常駐する介護スタッフによる介護サービスもあり、要介護度が上がっても入所し続けることができます。
※「一般型」は60歳以上の自立した高齢者が対象

介護付き有料老人ホーム

生活支援・介護サービス付き 終身利用も可能

国が定める「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた入居施設。介護が必要な高齢者が対象。食事の提供や身体介助など施設独自の生活支援・介護サービスを受けることができます。原則、終身利用が可能。
※自立・要支援の人が入居できる「混合型」タイプもあります

住宅型有料老人ホーム

家事のサポート付き 介護は外部サービスを利用

要介護度が低い人が対象。食事の提供や緊急対応、洗濯・掃除などの生活支援サービスが付いています。身体介助が必要になった場合は、入居者自身で外部事業者と契約し、介護サービスを利用します。要介護度が上がると、退去になる場合も。

サービス付き高齢者向け住宅

生活支援サービスが付いた 自由度の高い賃貸住宅

安否確認や健康相談など生活支援サービスが付いた賃貸住宅。生活の自由度が高く、要介護度が低い人向けです。身体介助が必要な場合は、入居者自身で外部事業者と契約し、介護サービスを利用します。要介護度が上がると、退去になる場合も。
※「特定施設入居者生活介護」の指定を受け、施設内で介護サービスを提供する「介護型」もあります

情報を集めるには

住まいは情報誌やチラシ、インターネットなどで調べるほか、専門の窓口にも相談できます。
「住まいに求める条件は、本人の要介護度や家庭の事情によって変わります。相談するときは、『家族が通いやすい立地』『イベントやレクリエーションを楽しみたい』など希望を伝え、施設の特徴を尋ねておくと、あとから比較・検討しやすくなります」(福富さん)

相談窓口の一例

  • 地域包括支援センター
  • 自治体の高齢者福祉課
  • 民間の老人ホーム紹介業者

〈 教えてくれたのは 〉

花園大学 社会福祉学部 社会福祉学科 教授
福富昌城さん

(2023年7月1日号より)