介護中の仕事、どうする?

2023年11月17日 

リビング編集部

家族の介護を担う人の中には、仕事との両立に悩む人も。そこで、負担を軽減するためのアドバイスや、利用できる制度について専門家に聞きました。

イラスト/オカモトチアキ

早めに相談して環境を整えて

「介護は身体介助だけではありません。日常生活全般の世話をはじめ、病院や介護施設への連絡、ケアマネジャーとの打ち合わせなど、しなければいけないことがたくさんあります。親と別居している場合は、遠距離介護や転居などの段取りも必要。核家族化が進み共働き世帯が増えている現代では、家族だけで、それらすべてを行うには限界があります」

そう話すのは、京都府地域包括・在宅介護支援センター協議会の川北雄一郎さんです。

「本格的に親の介護が始まる50〜60代は、職場で責任のある立場に置かれている人も多く、介護のための時間をつくりづらいという実態が。両立に悩み、結果として離職する人も少なくありません。このような介護離職者は年間約10万人、そのうち7割が女性といわれています」

離職には、介護に専念できるという利点がある一方、別の問題が生まれることもあるようです。

「介護は終わりが見えず、長ければ10年近く続きます。離職すればその間、収入源がなくなりますし、介護が終わった後の再就職が難しいという現実も。自分の老後も考慮したうえで判断したいですね」

もしもに備える関係性づくりを

「仕事を続けながら介護を行うには、なるべく早くから介護対象となる本人の要望を聞き、家族、職場、専門機関に相談しながら、負担を一人で抱え込まない環境を整えましょう」と川北さん。

「迷惑をかけたくない、と職場に相談できない人も多いようですが、介護の可能性を前もって上司や人事担当に伝えておけば、いざというときに協力を得やすくなります。

介護に関する悩みは、介護対象者が住む地域の地域包括支援センターに相談できます。また、ケアマネジャーは家族の事情も踏まえてケアプランを作成します。いま介護中という人は、仕事と両立する上で困っていることを率直に伝えることで、その都度ケアプランを見直し、必要なサービスを活用しましょう」

介護対象者となる親と別居していると、日々の見守りや緊急時の不安も。そういう人は「帰省したときにご近所さんや町内会にあいさつなどしておきましょう。日頃から交流し、助けてもらえる関係になれると心強いですね」と川北さんは言います。

介護サービスを活用して負担を軽減

負担を軽減するためには「〝自分で介護しすぎない〟ことです。周囲に協力を仰ぐほか、介護保険サービスや、配食・家事代行など民間の介護サービスを利用してみて。介護サービスの利用に必要な、要介護認定の申請には約1カ月かかることを知っておくと、いざ介護が始まるというときに仕事を調整しやすくなりますよ」と川北さん。

「頼れるものは何でも頼り、ときには介護から離れて自分の時間をとることが大切です。介護を続けるには介護者の休息も必要。介護サービスをうまく活用し、リフレッシュしてくださいね」

サービスの一例を、悩みと併せて教えてもらいました。

Case1
日中は仕事があり、同居する親のサポートや見守りができない

こんなサービス通所介護(デイサービス)

日帰りで施設に通い、食事や入浴、機能訓練などのサービスを受けられます。レクリエーションもあるめ、利用者同士の交流の場にも。

Case2
デイサービスの送迎時間が決まっているので、仕事の始業・終業に間に合わない

こんなサービス訪問介護

デイサービスは自宅への送迎付きが一般的。家族が朝の送り出し、夕方の出迎えに立ち会えない場合、その時間帯に「訪問介護」のホームヘルパーを依頼することができます。

Case3
短期出張中、同居する親の介護はどうすれば?

こんなサービスショートステイ(短期入所生活介護)

事前に申請することで、1日~1週間ほど介護施設を利用できます。空室状況もあるので、日頃から体験利用をしていくつか候補を持っておいて。

Case4
仕事の後の入浴介助は、体力的に厳しい

こんなサービス訪問介護、訪問看護、訪問入浴など

自宅の浴室を使う「訪問介護」や「訪問看護」による介助、簡易浴槽を持ち込む「訪問入浴」があり、自宅の設備や本人の体調・状態、家族の事情に合わせて利用できます。「デイサービス」での入浴サービスを利用する選択肢も。

Case5
車での通院が必要な日に、会社を休めない

こんなサービス介護保険タクシー

車椅子でも乗車でき、着替えなどの外出準備、乗降時の介助、病院の受け付けまでを行ってもらえます。ただし院内の介助は不可。対象は要介護1~5、ケアプランに基づく利用届けが必要です。類似のサービスとして民間の「福祉タクシー」もあります。

= 知っておきたい =
仕事と介護の両立を支援する制度

介護のために急に休暇が必要になることも。そんなときに利用できる制度について、京都労働局 雇用環境・均等室の松井美都さんに教えてもらいました。

「仕事と介護を両立するための支援制度は『育児・介護休業法』によって定められています。中でも『介護休業』は、労働者が要介護状態にある対象家族を介護するために休業できる制度。勤務先に申請することで、対象家族1人につき通算93日まで休暇を取得可、3回まで分割もOK。パートやアルバイト、派遣なども要件を満たせば取得できます。ただし、休業中の給与の有無は会社によって異なります。また、一定の要件を満たす人は国から『介護休業給付金』(※)の支給を受けられる場合もあります」

介護を行う期間だけでなく、要介護認定の申請や介護施設探しなど、介護をしながら働くための準備にも利用できるそう。一見、取得できる日数が少なく感じますが「その分、対象家族の範囲が配偶者、父母および子、祖父母、兄弟姉妹および孫、配偶者の父母と広いのが特徴です」と松井さん。

「時期をずらして取得するなど、負担を一人に集中させず、家族や親族全員で支えるための制度になっています」

※休業開始時賃金月額の67%相当。ただし、支給期間中に会社から給与が支払われた場合は、支給金額に変動あり

ほかにもこんな制度が

  • 介護休暇
    通院の付き添い、ケアマネジャーとの打ち合わせなどを行うために年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで、1日または時間単位で休暇を取得できる
  • 短時間勤務等の措置
    対象家族1人につき、3年以上の期間で2回以上「短時間勤務制度」「フレックスタイム制度」「時差出勤制度」「介護費用の助成措置」のいずれか一つ以上を利用できる(会社によって利用できる制度は異なります)
  • 所定外労働の制限(残業免除)
  • 時間外労働の制限
  • 深夜業の制限

※上記はいずれも国の制度で一定の要件を満たす労働者が対象。会社独自の制度がある場合もあるので、上司や人事担当に確認を

= もしものときは =
専門窓口に相談を

介護の悩みや不安を相談できる窓口の一部を紹介します。

  • 地域包括支援センター
    高齢者の介護、福祉、健康、医療などの総合相談窓口。各市町村に設置され、京都府内には137カ所(※)あります。京都府・京都市のホームページ(下記)に一覧が記載されています。
    https://www.pref.kyoto.jp/kourei-engo/13900035.html(京都府)https://www.city.kyoto.lg.jp/hokenfukushi/page/0000214261.html(京都市)
    ※ブランチ(地域包括支援センターと連携した相談窓口)など含む
  • 京都府高齢者情報相談センター
    高齢者の生活、介護にまつわる各種相談窓口を、内容に応じて案内してもらえます。
    ☎ 075(221)1165
    http://www.skysodan.com
  • 京都労働局  雇用環境・均等室
    「介護休業・休暇が認められなかった」「降格や減給された」など、介護を理由とする不利益やハラスメントの相談を受け付けています。
    ☎ 075(241)0504
    ※府外に勤務している場合は、事業所を管轄する都道府県の同窓口へ
  • ハローワーク
    雇用保険による「介護休業給付金」の支給対象者や申請方法などの問い合わせ。京都労働局のホームページ(下記)に京都府内の一覧が記載されています。
    https://jsite.mhlw.go.jp/kyoto-roudoukyoku/hw.html
    ※府外に勤務している場合は、事業所を管轄する地域のハローワークへ

(2023年11月18日号より)