奥深い〝字〟のデザイン フォントの世界

2021年2月26日 

リビング編集部

印刷物やパソコン、スマートフォンなど、至るところで目にする文字。同じ言葉でも、文字デザイン、つまり〝フォント〟の種類によって印象は大きく変わります。特徴や開発エピソードなど、フォントの奥深い世界をのぞいてみましょう。

日本語もアルファベットも、種類はさまざま

フォントの中でも、有名なのが「明朝(みんちょう)体」と「ゴシック体」。メールの本文に設定しているといった人も多いかもしれませんね。この「リビング京都」の本文も、明朝体の一種です。

「フォーマルなイメージを与える明朝体は、正式な書類でも目にすることが多いです」と話すのは、京都市立芸術大学教授の舟越一郎さん。

「明朝体は毛筆の筆跡が残っているのが特徴。中国の宋の時代(11〜13世紀ごろ)の文字が基になりました」

ゴシック体の特徴は、全ての字画が同じ太さだということ。はっきりとして読みやすいため、看板や標識でも頻繁に使われています。

和の風情を出したいときに重宝する「筆書体」や装飾性が高い「デザイン書体」も。アルファベットには「セリフ体」「サンセリフ体」「スクリプト体」などのフォントがあります。

「セリフ体は明朝体、サンセリフ体はゴシック体と相性がよく、ポスターなどに一緒に使われる傾向に。〝セリフ〟とは文字の先端のひげのような装飾のことで、〝サン〟はフランス語で〝ない〟という意味です」

もたらす印象で気持ちを伝えることも

よく見かけるのは、フォント制作会社で、プロのデザイナーが手掛けたフォント。そのほか、専用ソフトを使えばオリジナルのフォントを作れるといいます。

また、フォントは時代ごとに特徴があるとか。例えば、2000年代はシンプルで太さが均一なタイプが流行しました。

「2010年以降は〝多様化〟の時代。パソコンで手軽にフォントを作れるようになり、たくさんの種類が生まれています。最近の傾向は手書きの味わいが残されたフォント。優しく、温かみのあるデザインが好まれていることが分かります」

多数そろうのはうれしい一方で、どれを使うか迷ってしまいそう。

「最も大事なのは読みやすさですが、気持ちを伝えられるフォントを選びたいですよね。その言葉をどんな声色で相手に語りかけるかをイメージするのがコツ。元気な声、優しい声、力強い声…。そうした印象に合うフォントを探しましょう」

声に出しながら文字を書いてみて、似ているフォントを選ぶのも一つの手だといいます。

実際に、チラシの見本例を取り上げ、ポイントを聞きました。

日本語書体

明朝体
横線に対して縦線が太く、横線の右端にウロコという三角形の飾りがある書体。

ゴシック体
横線と縦線の太さがほぼ同じで、装飾的要素がない書体。

筆書体
筆で書いたような文字を再現。「行書」「草書」「楷書」など。

デザイン書体
1970年代以降に登場している新しい書体。手書き風、漫画文字など種類豊富。

欧文書体

セリフ体
文字の先端に飾り(セリフ)がある書体。

サンセリフ体
セリフがない、幾何学的なデザイン。

スクリプト体
いわゆる筆記体のような書体。手書き文字を再現。


フォントの選び方

PTAや町内会、子どものクラブの発表会など。チラシ・ポスター作りでは、フォント次第で雰囲気が変化。舟越さんの解説とともに、2パターンのチラシ例を紹介します。

パターン1〝強調〟が得意なゴシック体でシンプルに

パターン1は日付が強調された、シンプルなデザイン。ゴシック体の一つ「游ゴシック体」が使われています。

「伝わりやすさを最優先させるならゴシック体に。日付のような重要度が高い部分を目立たせられるのもメリットです。太字にする際、無理に設定を変えると文字がつぶれてしまう場合も。『游ゴシック体』など、元から太さのパターンが複数用意されているフォントを使うといいですね。また、文字の周りに適度な余白を作ると、フォントが浮き立ちます」(舟越さん)

パターン2デザイン書体で親しみやすく

「親しみやすい印象にするなら、デザイン書体を使ってみては」と舟越さん。

「とはいえ、全ての文字をデザイン書体にすると読みにくくなるため、タイトルなど、目を引きたい箇所に利かせましょう。それ以外の文字は、明朝体やゴシック体などのシンプルなフォントから、合うものをセレクトして」

パターン2ではタイトルに「パルラムネ」を、そのほかには「筑紫B丸ゴシック」を採用。やわらかい雰囲気に仕上がっています。

教えてくれたのは

京都市立芸術大学美術学部 ビジュアルデザイン研究室 教授 舟越一郎さんグラフィックデザインが専門。「好きなフォントは『筑紫B丸ゴシック』や『A1ゴシック』。どちらも優しい雰囲気です」

〝ヒラギノフォント〟の由来は京都の地名にあり!

フォントの中には、京都に縁があるものも。それが1993年に生まれた「ヒラギノフォント」。雑誌、iPhone、カーナビなど、あちこちで使われています。そして注目はこの名前。ピンときた人もいるのでは?

「京都市北区の地名『柊野(ひらぎの)』に由来しています」とは、「ヒラギノフォント」の開発・販売を行う「SCREENグラフィックソリューションズ」の正木洋介さんと中谷路子さん。「京都の会社なので、地元の地名から名付けることに。『ヒラギノ』という軽やかな音の響きが、クールでスマートなデザインにぴったりだと選ばれました」(中谷さん)

「ヒラギノフォント」には「丸ゴシック」「明朝体」など幅広いバリエーションがありますが、いずれもクセがなく、読みやすい点が特徴です。

「ビジュアル雑誌に合う、画像と調和する書体を目指して開発がスタート。線同士の空間を均一にするなどして、時代に左右されない、スタンダードで美しい書体ができました」(中谷さん)

フォント制作では、膨大な数の文字を作らなくてはなりません。聞けば、基準となる文字はフォントデザイナーが手書きする場合もあるとのこと。

「最終的に全ての文字はデジタルソフトを使って作られます」と正木さん。

同社が現在力を入れているというのが、世界への発信。

「ヒラギノフォントの中国語版の開発や、海外での販路拡大にも注力。京都生まれの『ヒラギノフォント』を、世界一のグローバルフォントにしたいと思っています」(正木さん)

ヒラギノフォント(和文部分)を採用した新標識(画像提供/東日本高速道路株式会社・中日本高速道路株式会社・西日本高速道路株式会社)


「リビング京都」制作担当に聞いた好きなフォント

きれいな直線のフォントで読みやすく、どんなデザインにも合わせやすいです。フォント選びに困ったら、まずロダンを使用してみます。(担当Y)

紙面にやわらかい雰囲気を出したいときに選んでいます。太さもさまざまあって、大人っぽい印象にも、かわいらしい表現にも使えるフォントです。(担当N)

サブタイトルなどに使うと〝抜け感〟が出てかわいい、手書き風のフォントです。子ども向けの内容のときに選ぶことが多いです。(担当I)

※[ ]内の各フォント名にはそのフォントを使用

(2021年2月27日号より)