10月21日は「あかりの日」。発明家トーマス・エジソンが初めて実用的な電球を作ることに成功した日なんだそう。ここ数年、京都には照明に工夫が凝らされた建物がいくつも誕生しています。「一般社団法人 照明学会」からの賞も受賞しているとか。この秋、建築物と光が織りなす〝アートな世界〟を見に出かけませんか。
「京都御苑」「京都競馬場」「四条烏丸セントラルビル」の写真提供/「一般社団法人 照明学会」
自然や歴史を意識したデザインが多数
「京都の照明デザインは、自然や歴史を意識したものが多いです」と話してくれたのは、同志社女子大学人間生活学科の教授・奥田紫乃さん。
「最近では、京都御苑の三つの休憩施設や京都競馬場などが木材を生かした照明デザインの建物として挙げられます。自然との調和を図るというのはトレンドですが、京都では古い木造建築を改修するケースが多いこともあり、昔からよく使われる手法です」
四条烏丸セントラルビルのように格子模様を取り入れることで、京都らしさや歴史を表現する建物も多いとか。
技術は日々進化 形状の自由度も高まっています
「照明の技術は日々進化しています。例えば、1997年の京都議定書の採択や、2011年の東日本大震災を契機に普及が広まったLEDは、近年フルカラー対応に。光源も小さくなり、デザインを邪魔しないようになりました。必要な部分のみ照明を当て、まぶしさを感じさせないようにも可能です。
照明が変われば、ライトアップされる対象の表情も変わります。これからの季節、紅葉など各地で行われるライトアップイベントを楽しんでください」
奥田さんのような研究者や、照明製造・販売会社、建設・設計会社、電気技術者、デザイナーなど、さまざまな照明の専門家が所属する「一般社団法人 照明学会」。同学会では、毎年優れた作品に賞を贈っています。近年「照明施設賞」「関西支部照明施設奨励賞」などを受賞した4つの建築物について、奥田さんにそのポイントや魅力を聞きました。
教えてくれた人
同志社女子大学
人間生活学科 教授
奥田紫乃さん
木材が効果的に照らされ、周囲の景色と調和
京都御苑の三つの休憩施設
(京都市上京区)
「2023年照明施設賞」受賞。2022年、京都御苑内に整備された「京都御苑情報館」「近衛邸跡休憩所」「清和院休憩所」。京都御苑の全体模型や写真展示のほか、休憩スペースもあり
京都御苑の景色に浮かび上がるような「清和院休憩所」(写真上)。
「黄色味を帯びた主張しすぎない照明で、母屋やひさしという日本の伝統的な木造建築の構造を優しく照らし、周囲との調和を図っていますね」
「近衛邸休憩所」(写真下)の室内も、木天井を照らすことで木の温もりを感じさせているといいます。
「昼間は室内より屋外の光の方が圧倒的に明るいため、窓が大きいと、中はより暗く感じる傾向があります。御苑の豊かな自然光を取り入れつつ、その明るさを緩和させるため、天井全体に光を当てるアンビエントライトを主照明としています」。京都御苑内の建物ならではの上品な雰囲気が作られているようです。
ランダムな光が公園の木もれ日のよう
京都競馬場ゴールサイド
(京都市伏見区)
「2024年照明施設賞」。2025年に迎える100周年を記念して、2023年より全面改装した「京都競馬場」。子どもの遊び場なども造られました。
※照明施設賞は同施設のゴールサイドが受賞
木鋼ハイブリット構造の大ひさしや、吹き抜けを照らすような照明が、建物全体を立体的に見せています。同施設のコンセプトは〝公園〟。その木漏れ日を感じさせるのが、2階にある「一般お客様エリア」の内装です。
「幅の狭い羽板を一定間隔で並べたものをルーバーと呼びますが、こちらでは天井に設置された木製ルーバーの仕上げ色に変化をもたせながら、ランダムに照明が配置されています」。これらによって、光が拡散され、空間に動きが生まれているのだとか。
また、1階の「一般お客様エリア」では同種類の照明を直線的に配置することで空間の連続性と奥行き感を演出。メンテナンスを考慮しながら、配置の仕方で違う雰囲気が生まれています。
重厚な建物に光の軽やかさをプラス
京都市京セラ美術館
(京都市左京区)
「2020年照明普及賞」。2020年、リニューアルオープン。地下室を新たなエントランスにするなど、創建当時から90年以上親しまれた建物の〝保存と活用〟をテーマに改装されています。
写真提供/「京都市京セラ美術館」
暗闇に映える、リボンのような白いライン。
「重厚な建物に光の軽やかさを大胆に加えることで、既存部分と新しい部分の〝融合〟や、時代の〝積層〟が表現されています。地上と地下のメリハリもきいた、独創的な雰囲気ですね」。建物下部の白いラインは、細長いガラス窓から地下の照明が漏れることで生まれた光だとか。
「また、ライトアップすることで、建物に陰影を付け、長年親しまれた名建築の細やかな意匠が際立っています」
反射する間接照明が奥へと誘います
四条烏丸セントラルビル
(京都市下京区)
「2024年関西支部照明施設奨励賞」。四条通に面したオフィスビル。
京町家の〝通り庭〟をイメージした内装。「アルミパネルの天井に反射する間接照明の光が、奥へと誘うようです」。
また、外観にもポイントが。「中の光が外に漏れたときに黒い縁が浮かび上がる様子が、京都らしい格子をイメージさせていますね」
京都市は〝規制〟から魅力的な景観づくりへ
三条大橋のライトアップも実現
「京都市では近年、夜間景観に力を入れています」とは、京都市都市計画局都市景観部 景観政策課・企画係長の髙橋さん。
「近年は夜の景観を規制するだけではなく、どう作っていくかという考えに変わってきています」
平成30年から調査が始まり、モデル地区では仮の照明器具を設置した社会実験を実施。効果の検証や技術的な課題を整理したのだとか。
「そうして実現したのが、今年1月から始まった三条大橋の夜間ライトアップです。修繕など橋の健全化とあわせて実施しました」
三条大橋では、鴨川に浮かんでいるような印象となるように、木製の高欄部分を照らす間接照明を採用。周辺の光環境と明るさのバランスもとっているそう。歩道照明についても防護柵に設置することで陰影を意識したほんのりとした明かりを生み出しています。
「店舗の照明までが景観です。夏の川床の照明は暖色系の低い色温度で統一されていて、あんどんのような光がやわらかい雰囲気を作り出していますね」
また、伝統的なまち並みが残る地区では、こんな事例も。
「先斗町地区では、各店舗が自主的に看板をあんどん型にするなど、街の景観づくりを市民が主体となって行っています。照明の色温度も統一されていますよ」
施設や住宅、店舗、街路外灯など、さまざまな要素で生み出される夜間景観。
「魅力的な夜間景観作りは、夜の行動範囲が広がったり、ほっとする空間が生まれたりと、市民のより良い生活につながるものです。これからも市民や事業者と協働して、夜間景観作りを進められたらと思います」
教えてくれた人
京都市都市計画局
都市景観部
景観政策課 企画係長
髙橋諒さん
(2024年10月26日号より)
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