京都のワークスタイルの今

2022年4月1日 

リビング編集部

昨年11月の「リビング京都」で特集した、読者のリアルな働き方。コロナ禍での変化などを紹介しました。それを踏まえ、「新時代の〝働く〟シリーズ」をスタート! 今回のテーマは「会社員のワークスタイル」です。

撮影/桂伸也ほか ※撮影のためマスクを外しています

産後3カ月で復帰し、子連れで会社へ

息子の夏樹くん(8カ月)を連れて出勤をしている田邊さん。社内の託児スペースに夏樹くんを預けたら、仕事に取り掛かります。職場に復帰したのは産後3カ月でのこと。これまでも子連れ出勤をしている社員がいたので、抵抗はなかったといいます。

「まだまだ夜泣きをするので私も眠れない日が多く、体力的にはしんどいですが…。休憩時間に子どもの顔を見に行くと、頑張ろうという気持ちになれます。何かあればすぐに駆けつけられますし、授乳も続けられています」(田邊さん)

午後5時まで勤務した後は、上の子を保育園に迎えに。家事は夫と協力しているそう。

「忙しいですが、長時間子どもと2人っきりで家にいるよりも、出勤している方がストレスがたまらずリフレッシュできます。社内の先輩ママたちに、子育てについて相談しやすいのもうれしいですね。皆さん息子をかわいがってくれ、社員同士の距離の近さを感じています」

子育て経験者の社員が協力してお世話

社員が持ち寄ったおもちゃ、ベビーベッドが置かれている保育スペース。利用者がいないときは応接室として使われます

約10年前、社員3人の妊娠が重なったのをきっかけに、社内に無料託児所を設置することになった「横井製作所」。精密プラスチック製造などを手掛ける会社です。

「早く職場に復帰してもらえるならやってみようか、という話になりました。せっかくスキルを積んでいた人が、子育てを理由に働けなくなるのはもったいないことなので」と、同社管理部取締役の木村香さん。もともとアットホームな社風のため、社内の理解もスムーズだったとか。応接室を活用し、保育スペースがつくられました。

「私は保育士の資格を持っていますが、そのほかは特別に保育スタッフを雇っているわけではないんです。主に子育て経験者の社員が入れ替わりで面倒を見ています。対象は1歳未満の子どもなので、誰も利用していないときはみんな通常業務をしています」

掛け持ちは大変なのでは?

「元から社員は仕事量に余裕を持っていますので、みんな快く引き受けてくれています。気になることがあればすぐにお母さんに伝えられるため、安心感もありますね」

保育スペースを設置してからは出産による離職はゼロ。女性の採用応募者も増えたそうです。

勤務時間を自分で決め、家庭生活と両立

「午前7時すぎに出社し、午後4時に退勤。もう少し早く会社を出る日もあります」と、野路美幸さん。在宅勤務や自分の裁量で勤務時間を設定できるコアタイム(※)のない「スーパーフレックスタイム制度」を活用しています。

小中学生と、障がいのある高校生、3人の子どもを育てている野路さん。「長男は常時介護が必要で、送迎のほか学校から急な呼び出しがある場合も。育児・介護をしながら仕事を続けていけるか不安を抱えていたところ、在宅勤務やスーパーフレックスタイム制度が導入され、自分で勤務場所、時間の調整が可能になったことから両立がしやすい状況になりました」

他部署と関わる業務は後に回し、早朝は1人で集中して進められる仕事の時間にしているとか。「就業時間が固定されていたときよりもとても働きやすくなり、本当に感謝しています。制約がある中でも効率良く仕事ができるよう、日々、時間の使い方を意識しています」

※フレックスタイム制における必ず出勤しなければならない時間帯

多様な人材の活躍を目指し〝まずはやってみる〟を大切に

「三洋化成工業」では、2018年夏から服装の自由化も導入しています

「5~6年前から、社員が働きやすい会社を目指そうと社内制度を見直す動きが活発に。在宅勤務やスーパーフレックスタイム制度もその一つです」と話すのは、機能化学品を製造・販売する「三洋化成工業」広報部の前田暢さん、人事本部ダイバーシティ推進部の吉住恵美さん、上野ゆかりさん。

「まずはやってみて、うまくいかなければ元に戻せばいい」という方針の下での制度改革に、当初は戸惑う社員もいたそうですが…。

「フレックスタイム制での労務管理はどうすれば?との声も上がりましたが、実際は特にトラブルもなし。会議や資料作成を必要最低限に減らすなど、時間を意識して効率良く働く工夫を一人一人が考えるようになりました」

そのほか、1時間単位で取れる有給休暇制度や、育児・介護休業制度の拡充、資格取得・プライベートの充実のためなど自己都合で最長2年間休める休職制度も導入。多様な人材が活躍できる企業を目指した取り組みが進められています。

リモートワーク中の休憩時間に介護も

田辺直子さんが持つのは、会社から支給されたリモートバッグ。「必要な備品を持ち運べるようにと、全社員に配られているんですよ。いつも使う文房具などを入れています」と話します。

田辺さんは通常出勤と在宅勤務を併用。「仕事は建設業者向けのコンサルティング、講座開催などですね。頻度は決まっていませんが、週1日程度は在宅で勤務しています」。ノートパソコンとスマートフォンが支給され、クライアントとはリモートで打ち合わせ、社内とはチャットでやり取り。スマートフォンは内線化されていて、社内勤務と変わらず外線に対応できるといいます。

在宅勤務だと母の介護がしやすいのも利点です。週3日人工透析に通っていますが、訪問看護師さんやヘルパーさん、介護タクシーのサポートを受けているものの、送迎の際は介助が必要に。そのタイミングに昼休みを充てています。要介護状態には波があるので、今後も在宅勤務や時間単位の有給休暇などを利用して両立させていきたいです」

東京でのフルリモートなど、一人一人の事情に合わせて

在宅勤務の社員はリモートで社内ミーティングに参加
東京の自宅でフルリモート勤務をする前田さん

建設業者に向けたIT導入支援や人材育成・働き方改革に関するコンサルティングなどを行う「京都サンダー」。

代表取締役・新井恭子さんは、「社員の8割は女性。介護が必要な家族がいる、子どもが小さいといった事情に合わせて社内の制度を整えています」と話します。

リモートワークについては、「在宅勤務だと評価が付けづらいとの意見があるかもしれませんが、成果を見れば仕事ぶりは分かると思います」。

そんな中、〝フルリモート〟で勤務しているのが前田桂さん。

「夫の転勤で1年前から東京に住んでいます。コロナ禍で一時期みんながフルリモートだったこともあり、続けても問題ないのではと会社からOKをもらいました。午前9時~午後5時30分に自宅のリビングで仕事をします。仕事中の姿を帰宅した小学5年生の娘に見せられるのもうれしいですね」

業務はオンライン講座の開催、書類作成といった企画運営や事務。オンラインでできることを考えたり、東日本エリアに出張しやすくなったりとフルリモートがプラスに働いているようです。

京都府・京都市が行政としてさまざまな〝働き方〟を応援

育児・介護休業などの充実を図る企業を認証

京都府では「京都モデル」ワーク・ライフ・バランス推進企業認証制度を設け、企業を支援・PR。「育児・介護休業の制度が法律の規定よりも充実しているかなどの基準に照らして認証。男性の育児休業制度も重視しています」とは、京都府男女共同参画課女性活躍・ワーク・ライフ・バランス推進係の井上善彦さんと西村一美さん。

「昔と違い、求職者は給与よりも休みの取りやすさや、働き方の自由度に目を向ける傾向にあります。しかし、中小企業において法律を上回る制度を導入するにはハードルがある場合も。コロナ禍の影響も大きいですね。そうした事業者に行政としてきちんと情報発信をし、人材の確保を支援できればと考えています」。企業の成長が、社員のワーク・ライフ・バランスの充実につながるとのことでした。

「真のワーク・ライフ・バランス」の取り組みを広く発信

「京都市内の企業でも、1時間単位での有給休暇制度など、働きやすい労働環境整備が徐々に進んでいるという印象があります」と話すのは、京都市共生社会推進室男女共同参画推進課長の太田昌志さん。「とはいえ、京都の特性として、中小企業やサービス業の会社が多く、リモートワークなどが進みにくい面があります。行政側でさまざまなツールにより企業をバックアップしていきたいと思いますので、企業側でも積極的に取り組んでいただければ」

京都市では「真のワーク・ライフ・バランス」を提唱。人間らしくいきいきと効率的に働き、育児や介護などの家庭生活、地域・社会貢献活動なども大事にするという考え方です。「ホームページ『京都style 真のワーク・ライフ・バランス応援WEB』では企業や市民の取り組み実践例を発信中。多くの人に関心を持ってもらえたらと思います」

「リビング京都」では、新時代の〝働く〟を考えるシリーズを展開していきます。シリーズ記事を読んだ感想や、今後「新時代の〝働く〟シリーズ」で取り上げてほしい内容などをお寄せください。

(2022年4月2日号より)