知っておきたい 耳のトラブル

2024年8月23日 

リビング編集部

「耳に水が入った!」など、日頃の生活の中で起こる耳のトラブル。京都府立医科大学耳鼻咽喉科・頭頸(とうけい)部外科の学内講師、中村高志先生に話を聞きました。

イラスト/ヤマサキミノリ

音を聞く、バランスをとる耳の二つの役割
耳は〝聞こえ〟の感覚器。外耳(がいじ)・中耳(ちゅうじ)・内耳(ないじ)の三つに分かれていて「外耳で音を集め、中耳で主に音を増幅させて内耳に伝えます。内耳では音の高低や強弱などを細かく分析し、その情報を脳へ。すると脳は不快な音、楽しい音…と判断するんですね」と中村先生。

また、平衡感覚をつかさどっているのも耳。体がどの方向にどれだけ傾いているかなどの情報を内耳で感知し、脳に伝えてバランスを保っているそう。

 「どちらも大事な役割。耳に負担をかけてトラブルを招かないよう気をつけたいものです」

トラブル1息子がずっとイヤホンで音楽を聴いています。難聴になったりしませんか?

「気を付けたいですね。若い世代に『イヤホン難聴』が増えています」

難聴は、鉛筆でものを書く音、ささやき声などの「25〜30デシベルの音が聞こえない状態」をさすのだとか。主な原因は加齢や病気、騒音。突然聞こえなくなる突発性難聴は原因不明で、ストレスや過労が引き金ともいわれています。

「イヤホンやヘッドホンで長時間、大音量を聞き続けると、脳から内耳に伸びている、大きな音を聞き分けるための神経が傷み、難聴になることがあります。いわゆる、若い人に増えている〝イヤホン難聴〟です」と教えてくれた中村先生。

健康診断では見つかりにくい

「イヤホン難聴の場合、小さい音を聞くための神経は傷みにくいので、健康診断などで行われる一般的な聴力検査(※)では異常が見つかりにくいんですね。異常なしと判断されたのに、雑音がある場所、例えばざわざわしたカフェで目の前の人の声が聞き取れないといった状態に。『かくれ難聴』とも言われます」

人によって耳鳴りや耳閉感(耳の中が詰まった感じ)といった症状も。放っておかず、聞こえづらいと感じたら早めに耳鼻咽喉科の受診を。

「日頃の習慣を見直せば予防もできます。音漏れするほど大きな音で聞くのをやめ、人に呼びかけられたら気づく程度の音量に。長時間聞き続けず、休みながらにしてください」。ノイズキャンセリング機能を使って雑音を抑え、音量を下げるのも有効だそう。

(※)静かな環境で音が聞こえたらボタンを押す検査

トラブル2プールや風呂で耳に水が入った! 放っておいても大丈夫?

「水は自然蒸発します。ただし触ることで外耳炎になる恐れも」

中村先生によると「耳に水が入っても、外耳と中耳の境にある鼓膜が奥に入るのをガードします。水は自然蒸発するので心配しなくてもいいでしょう」とのこと。中耳炎になるのではと不安に思う人もいるようですが、「中耳炎は中耳に炎症が起こる病気。鼓膜に穴が開いていなければ中耳炎にはなりません」。

ただ、水が入って気持ち悪いからと過度に耳を触るのはNG。外耳の皮膚を傷つけてしまい、かゆみ、痛み、耳だれといった症状が出る外耳炎になりかねないのだとか。

外耳炎の原因には、耳掃除のしすぎもあげられます。「強くこすって傷めたり乾燥させたり、耳の健康を損なってしまいます。そもそも耳の皮膚はベルトコンベアのように、耳あかなどの汚れを少しずつ外へと押し流してくれますから、耳掃除はさほど必要ないです」

鼻からの侵入で急性中耳炎に

実は急性中耳炎の多くは風邪がきっかけ。「中耳と鼻の奥は細い耳管でつながっています。この耳管を通って鼻から細菌やウイルスが中耳に侵入し、炎症の原因に」。特に子どもは耳管が短く、傾斜も水平に近いため、中耳にばい菌が入りやすいのだとか。「夜間に痛みを訴える場合が多いですが、慌てず痛み止めを服用させてください。それでおさまるなら受診は翌日で大丈夫です」

正しい耳掃除の仕方
耳掃除は基本的に不要。耳あかが湿ったタイプだとたまることもあるため、月1回綿棒で耳の入り口付近をくるっと優しくぬぐえば良いそう。子どもの耳掃除は月1、2回を目安に。「注意するのは周りの状況。例えば、きょうだいが走り回っているような部屋。きょうだいにぶつかられて傷つけてしまう事故が多いんです。安全な場所、安定した姿勢で行ってください」

トラブル3めまいが頻繁に起きます…。耳の病気ってホント?

「続けて起きるようなら耳鼻科へ」

「めまいの6〜7割は耳が原因」と中村先生。中でも中高年女性の発症が比較的多いメニエール病は「内耳にあるリンパ液の量が増え、内耳の一部がむくんだような状態になることで起きます。なぜリンパ液が増えるのかはまだ解明されていませんが、ストレス、気圧の変化、寝不足などが関わっているようです」。

典型的な症状は繰り返すめまい、耳鳴り、難聴、耳閉感。症状の出方は個人差があるそう。「メニエール病のめまいはぐるぐる回る感じ、ふわふわ浮く感じの両方があります。早く治療を始めて悪化を防ぐためにも、耳鼻咽喉科で聴力や、眼球が無意識に揺れる眼振の検査を受けてください」

メニエール病と診断されたら、ゆっくり休むことが大切。「睡眠を十分にとり、規則正しい生活を送ってほしいですね。よく言われるのは積極的な水分摂取です。ただし心臓や腎臓を患っている場合は水分の取り過ぎが良くないので注意を」

めまいは脳に問題があって起こる場合も。「まったく起き上がれない、激しい頭痛、ろれつが回らなくなる、手足を動かしづらいといった症状を伴ってきたら脳疾患によるめまいが疑われます。脳神経科の受診をおすすめします」

耳にやさしい生活を

耳のために普段できることを聞きました。

「大音量と長時間は避けて」と中村先生。「耳を休ませる時間をつくってください。といっても無音である必要はありません。音楽を楽しむときはイヤホンなどを使わず、控えめな音量で聞くのもいいと思います」

また日々の健康管理で、難聴やめまいの予防を。「内耳は小さい臓器で血管も細い。高血圧や糖尿病などの生活習慣病になると、この細い血管が詰まるリスクも高まるため、バランスの良い食事に適度な運動、禁煙に努めてもらえれば。ストレスをため込まないことも大切です」

加齢による聞きづらさは補聴器でサポート。会話が楽しめないつらさや認知機能の低下を抑えられるといいます。必要かなと思ったら、まずは耳鼻咽喉科で相談を。

  • ■ライブなどでは大型スピーカーの近くに長くとどまらない
  • ■イヤホンやヘッドホンを使う場合、適切な音量と時間を守る。1時間使ったら10〜20分、耳を休ませる
  • ■耳を触りすぎない。耳掃除は正しい方法、適切な頻度で行う
  • ■生活習慣病の予防に努める
  • ■疲れやストレスをためないよう心がける
  • ■補聴器は耳鼻咽喉科で相談、専門店で適正なものを選ぶ(調整を繰り返し、自分に合った状態にしていく)

教えてくれたのは

京都府立医科大学 大学院医学研究科
耳鼻咽喉科・頭頸部外科
学内講師

中村高志先生

(2024年8月24日号より)