環境の変化が多い季節。友達や同僚といった身近な人、あるいはSNSで発信する有名人に対して、うらやましいと思う機会が増えそう。そんな気持ちが〝ジェラシー〟へと発展することも。読者のケースを交えながら、ジェラシーと上手に付き合う方法を心理学の専門家に聞きました。
イラスト/ヤマサキミノリ
ジェラシーを感じるのは共通点があるから
「ジェラシーを抱くのは、相手と自分を比較して劣等感を感じている、自尊心や自己評価が揺らいでいる状態です」と教えてくれたのは、京都光華女子大学健康科学部心理学科教授の長田陽一さん。
「〝なりたい自分〟に到達できていないとき、それを実現している他者を見るとうらやましく感じますね。それがジェラシーへと発展するのは、その人が身近にいて、何らかの共通点がある場合がほとんどだと思います」
また、同学同学科教授の鳴岩伸生さんによると「有名人に対しても同じ。身近な人でなくても、年齢が近かったり、自分がやりたいことを先にやっていたりするのも共通点と言えます。それが自分の関心の高い領域だと、よりジェラシーを感じやすくなります」。
「ジェラシーは、その人に関心があるからこそ、生まれるもの。また、共感性が高い人ほど、そういった感情に苦しむことが多いかもしれませんね」と長田さん。
「満たされている」ことに目を向けて
では、そんなジェラシーとどう付き合えばいいのでしょうか。また、ポジティブな気持ちに切り替えるためにはどうすればいいのかも教えてもらいました。
「主に二つの方法があります。一つは〝なりたい自分〟に近付けるよう努力すること。ですが、そもそもの目標が高い場合はしんどいですよね。
二つ目が、目標設定を変えていくこと。ジェラシーを抱くのは、今の自分に満足していないから。でも、今の自分がいるのは、きっと努力や誰かの助けがあったから。〝足るを知る〟という言葉の通り、自分が実は満たされていることに気付くことができれば、ジェラシーを感じにくくなるかもしれません」(鳴岩さん)
読者の対処法とともに紹介
ポジティブな考え方に切り替えるためにできること
ケース1
「SNSでキラキラとした生活や自撮りを載せる芸能人や有名人に『どうせお金があって容姿にも自信があるんでしょ』とひがんでしまいます」
読者の
対処法
「自分の幸せに目を向けるようにしました」(ハッピーさん・30代)
ケース2
「夫の海外転勤に伴い、正社員で勤めた会社を辞めることに。帰国後、子育てに奮闘しながら仕事も続けている元同期たちの姿がキラキラと見えて、専業主婦だった自分は悲しい気持ちに」
読者の
対処法
「紙や日記に書いて気持ちを整理。ジェラシーを感じる相手からは距離を置き、今の自分が幸せを感じられることに目を向けました」(omochiさん・40代)
ケース3
「自分は兄弟姉妹の仲があまり良くないので、仲が良い人がうらやましいです」
読者の
対処法
「自分の娘たち姉妹は仲良くしてほしいと思い、年に何回かは集まる機会をつくっています」(ふみづきさん・60代)
ケース4
「元気で病気に縁がなく、ゴルフなどアクティブに楽しむ友人。毎日を満喫しているなと、あちこち不調な自分と比べてしまいます」
読者の
対処法
「会って話してみると、みんなそれぞれ違った悩みがあることを知ることができ少し安心できました」(Tさん・50代)
ケース5
「子どもが結婚し、孫がいる人は正直良いなと思います」
読者の
対処法
「子どもを持つか持たないかは本人が選択することなので、自分の思いを押し付けないように心掛けています」(いーちゃんさん・50代)
上のケース1~5は、読者が感じたジェラシーとその対処法。各ケースについて、長田さんと鳴岩さんにもアドバイスをもらいました。
「ケース1のハッピーさんの『自分の幸せに目を向ける』対処法は、1面でも話した通り理想的な方法だと思います」と鳴岩さん。ケース2のomochiさんについても長田さんは「専業主婦だったからこそ良かったこともたくさんあるはず。仕事という物差しだけで見るのではなく、別の価値に目を向けることも大切。相手と距離を置くことで、比べなくて良い環境に持っていくのもポイントです。また、自分の思いを言葉にしたり信頼できる誰かに話したりすることで、落ち着ける場合も多いですよ」
ふみづきさんのケース3では、「過去は変えられないけれども、今からできることに目を向けて未来を良い方向に変える行動をとっておられることがすてきです」(鳴岩さん)。「家族もさまざまな形があります。うらやましく見える他の家族にも、良い面悪い面があるはずと考えるのも良いかもしれません」(長田さん)
「Tさんのケース4も同様に、人間にはいろんな側面があると気付くことが重要ですね」と鳴岩さん。
ケース1のように、実際に会うことのないネット上の人に関しても「SNSなどでは、良いところしか見えない、見せていない場合も多い。相手は欠点も苦労もある同じ人間だと思うことが大切です」(長田さん)。
また、ケース5のいーちゃんさんについて。長田さんは「こうした思いが出てくることは自然なことで、お子さんの幸せを思いつつ自分の気持ちも否定しないでほしいです」と。鳴岩さんは「子どもを、自分を幸せにする道具とせず、別の人格を持った存在と考えておられます。素晴らしい心掛けだと思います」。
自分なりの価値観を持って
「人の評価で判断することなく、自分なりの価値観をつくることも大切です」と長田さん。「ただ、人間はそもそも自己中心的で、良いものは全て自分のものにしたい。成功している人をねたみ、失敗している人を見て喜んでしまったとしても当然で、自然な感情と受け止めてください。ジェラシーは自分の中でうまくいかないことや人生に行き詰まっていること、不満があるからこその感情。自分の心と折り合いをつけて見つめ直すきっかけにできると良いですね」
他人からジェラシーを向けられたときは?
社会問題になっているネット上での誹謗(ひぼう)中傷も嫉妬が一つの要因に。他の人から向けられるジェラシーにはどのように対処すれば良いのでしょうか。
「まずその相手と距離を取ること、関係を浅くすることです」と鳴岩さん。「勝手なことを言っているなぁと思って関わらず、不必要に傷付かないようにしてください」
一方で長田さんは、「その人が身近な人なら、時々親切にするのも一つの手」と。「相手はあまり自分のことを知らないのにねたんでいる、もしくは憧れている。とすれば親切にされることで認知が修正され、何らかの誤解が解ける可能性もあります」
教えてくれたのは
京都光華女子大学健康科学部心理学科教授/同学カウンセリングセンター長
長田陽一さん
京都光華女子大学健康科学部心理学科教授
鳴岩伸生さん
(2024年3月30日号より)
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〝焼きもち〟もジェラシー
恋愛関係における〝焼きもち〟もジェラシーといいますね。「(好きな人を)他の人に取られたくない、取られはしまいかと不安になる気持ちの表れ。その人のことがそれほどに大事な存在だと再確認する機会にできると良いですね」と鳴岩さん。長田さんは「一方で、第三者に焼きもちを焼き、恋人など相手に対して詮索や束縛など関係が壊れるほどの行動をしてしまうのは、相手への思いやりがありませんよね。自分の思いを押し付けているだけなので気を付けて。ですが、ジェラシーが恋愛に彩りを添えてくれるのも事実。焼きもちの一つもない恋愛は、気の抜けたビールのようなものだと思いませんか。自分も相手も傷を負わない程度に上手に焼きもちを焼くことを目指しましょう」