知れば深まる植物愛

2023年4月7日 

リビング編集部

今週から始まったNHKの〝朝ドラ〟は植物学者の物語。モデルとなった牧野富太郎の植物への情熱の注ぎようは、約1500以上の新種を発見したほどでした。今回は京都にいる、植物を愛する人々にインタビュー。その気持ちを知れば、植物がもっと好きになるかも!

撮影/児嶋肇ほか

懸崖菊を育てて30年、個性ある作品が次々と

野菜苗のハウスの中で、自作のウサギのフレームとともに。「今後は育種に挑戦することも検討。年々変化する気候にも対応できる、丈夫な品種があればと思っています」(清水さん)

清水園芸 清水佑子さん

向日市の特産品である「懸崖菊」や野菜苗を生産。懸崖菊をアレンジして動物などを形作る〝トピアリー〟に注力

清水さんがカバ、夫の幸雄さんが車のトピアリーを制作

赤、白、黄、ピンク。鮮やかな色の花が咲く「懸崖菊(けんがいぎく)」は、向日市の特産品。生産者が減る中、家族や従業員とともに懸崖菊の栽培に取り組んでいるのが、「清水園芸」の清水佑子さんです。

「結婚した当初は手伝い程度。でもだんだんと愛着が湧いてきて、今は子どもを育てているような感覚ですね」

力を注いでいるのは〝トピアリー〟。植物を立体的な形に仕立てた造形物のことです。テーマパークや植物園などの注文を受けて制作。花が咲く秋に向け、6月ごろから準備が始まります。

「まずはフレーム作りから。イメージを膨らませてデザインを考えるのはわくわくします。私は動物が中心、夫は乗り物系と、二人で協力してこれまで100以上を制作してきました」

その後はフレームに沿って枝が伸びるよう、懸崖菊を育てていきます。枝配りに苦労したり、つぼみが開くのが遅かったりと苦しみもあるとのことですが…。

「出来上がった作品が多くの人にとって、花に親しむきっかけになっているのはとてもうれしいです。懸崖菊を育てて30年近く。これからも植物愛、そして夫婦愛を大切に、オンリーワンのトピアリーを作りたいです。皆さんの笑顔とともに写真に残していただけるように頑張ります!」

長い年月の間受け継がれてきた園芸植物に携わるため新天地に

「庭では植物が石組み(※)を引き立てているケースが多いんです。引き立て役にも主役にもなれるところも植物の良さ」と話す小椋さん。「無鄰菴」の庭で ※庭内に据える複数の石の配置や構成

植彌(うえや)加藤造園 小椋菜美さん

「無鄰菴」などの庭園の管理や作庭を行う同社の知財企画部マネージャー。広報、アーカイブ整理などの業務を担当

この時期はランの一つ、春蘭(しゅんらん)が見頃。全国の山地に広く分布

「あちらは常緑樹。緑がきれいですよ」と「無鄰菴(むりんあん)」の庭園を案内してくれた、「植彌加藤造園」の小椋菜美さん。「子どものころから、ご近所さんをその家の庭木で覚えるくらいの植物好き」で、以前は生花店で働いていました。

「切り花はものすごいスピードで商品が入れ替わります。次は長い年月の間受け継がれてきた園芸植物に携わりたいと思うようになり、今の職場へ。管理する庭園の広報、アーカイブ整理などを担当しています。過去の写真や資料は、災害で被害を受けた庭園を再び美しい姿に修復するためにも大事。後世に役立つよう、現在の庭園の記録も行っています」

寺院や邸宅の庭は伝統を感じられる点が魅力だとか。「枝が伸びたりと常に変化する植物ですが、手入れによって変わらない庭園の景色を維持しています。古写真を見て撮影当時に植えられていた植物を調査することも。葉の形などから推測できると、達成感がありますね」

好きな植物は?と尋ねると「絞るのが難しい」と悩みながらも、「ランの仲間でしょうか。世界に1万5000種以上があり、花のバリエーションもさることながら、生態が変わっていて面白いんです。例えば、香りで虫をおびき寄せ、バケツ状の花びらに落として受粉の手伝いをさせるもの。虫が抜け出そうとすると、体に花粉が付く仕組みになっています」。

通勤途中に見かける草木には自然と目が。植物を通して感じられる季節の変化が、日々の癒やしになっているそうです。

森を歩く楽しさを感じながらその変化を研究

いろいろな種類のマツの実を見せてくれた平山さん。「花や実を発見すると、植物も生きていることを実感できると思います。森を歩き、観察をしてみては」

京都府立大学大学院 准教授 平山貴美子さん

京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 森林植生学研究室 准教授。専門は「森林生態学」

実がドングリの一種であるコナラ。小さな花を咲かせています

「なぜこの場所にこのような森があり、森はどのように変化していく?」。そんな研究をしているのが、京都府立大学大学院准教授の平山貴美子さん。

「京都の森は常緑樹が増えていますが、落葉樹の森や針葉樹の森もあります。場所によって違いがあり、それも森を歩く面白さです」と話します。

週1回以上は森に行くという平山さん。「見たり触れたりすると、植物の調子が分かってきます。研究以外でも、旅先の森が気になってしまい、家族を引き連れて行くことも(笑)」

研究室にあったのは、ドングリが貼られたパネル。「子どもたちにドングリについて教えるときに使います。日本のドングリは22種類。マテバシイなどは食べるとおいしいんですよ。この前は学生がドングリクッキーを作ってくれました」

「おいしい」と感じるのは人だけではなく…。

「ドングリの中から幼虫が出てくることがありますよね。その虫を育て、どんなふうにドングリを食べているのかを調べる研究もしています。森の変化を探るにはそこに暮らす虫・動物と、植物との関係も重要なのです」

森について解明できていないことは、まだたくさん。人は森とどう関わっていけばいいのか、平山さんの研究は続きます。

多種多様な樹木の治療にやりがい

樹齢100年を超えるヒマラヤスギの前に立つ中井さん。「子ども時代に出合った木が立派に育った姿を見られる場として、苗木を次の100年へとつないでいきたいです」

京都府立植物園 中井貞さん

「京都府立植物園」の樹木医。ランドスケープデザインを学び、造園設計の仕事を経て樹木医に。各地を巡って樹木の治療をしたのち、同園に勤務

同園でだけ見られる「大原渚」は4月上旬が見頃。早咲きから遅咲きまで多様な桜がそろいます
同園が保全活動に取り組んでいる絶滅危惧種のキブネダイオウは、植物学者・牧野富太郎が命名。「貴船川の個体を元に名付けられています」と、担当の平塚健一さん。「野生だと外来種と交雑したり、シカの食害に遭ってしまうため、保全が必要に。6~7月には花が咲くので見に来てください」

「京都府立植物園」に勤める中井貞さんは樹木医。弱った木を診断し、治療をするのが仕事です。「10年ほど前から、この植物園で働いています。手を掛けて樹木が元気を取り戻すと、やはり喜びを感じます」

変化が分かりやすいというのが桜や梅といったバラ科の樹木。

「冬に土壌改良をすると、春から花付きが良くなるんです。特に桜には力を入れていて、この10年で種類は180品種と倍以上に増やすことができました。ぜひ多くの人に見ていただけたら。樹木医として各地で出会った人から譲り受けた桜もあります」

「この木も移植したもの」というのはモッコク。伊達政宗が植えたと伝わる、海宝寺(伏見区)の古木のクローンです。「弱っていた元の木を治療していた縁で寄贈してもらいました。由来を知ると興味が湧いてきますよね」

通常、樹木医は全国を渡り歩くため、「一つの職場で同じ木を見続けることができているのは貴重な経験」と話します。

「当園に植栽されているのは約1万2000種類と、まさに〝生きた植物の博物館〟。植物は多様で、ある木でうまくいった治療方法がほかの木にも有効とは限りません。いまだに分からないことは多く、だからこそやりがいを感じています」

〝多肉〟の魅力に引かれて自ら輸入・育成・販売へ

「〝タニラー〟といわれる多肉植物好きの方が府外からも来てくれています。皆さんと『うちの子』と呼びながら多肉植物の話で盛り上がっているんです」(濱川さん)

socio succulent(ソシオサキュレント)
濱川あずみさん

ウェブ・グラフィックデザイナーとして働きながら、2018年、宇治で多肉植物の販売をスタート。海外から収集をするほか、自身でも栽培

濱川さんが輸入・販売する多肉植物。写真の品種は奥から「ホライズン」「クイーンバッグ」「ピンクホッキョクグマ」

ビニールハウスの中に入ると、そこは多肉植物だらけ! さまざまな形のものが並びます。

「とにかく多肉植物が大好き」とは、「socio succulent」の濱川あずみさん。ウェブ・グラフィックデザイナーの仕事をしながら、多肉植物を輸入・販売しています。

「きっかけは、父が手術をする日に喫茶店で見た多肉植物。花のような形の分厚い葉を眺めていると、心が癒やされたんです。不安な気持ちが和らぎました」

それから魅力に引かれ、収集をするように。生産が盛んな韓国に直接買い付けをしていくうちに、自分で育成・販売するまでになったとか。

「多肉植物のために、韓国語も勉強しました。いい生産者さんと出会えて今があります。掛け合わせによる新品種が続々と生まれているのも楽しいところ。最近は韓国でスイーツの名前を付けるのがはやっていて、『ミルクシェイク』『シュークリーム』といった品種が登場しています」

育てやすい点が、多肉植物の特徴だそう。

「こまめな水やりは不要。生命力があってたくましいですよね。つぼみができて花が咲いたり、秋・冬は紅葉したりといった変化も注目してほしいところ。このかわいさを多くの方に知ってもらえたらと思います」

(2023年4月8日号より)