京都の個性派ミュージアム

2022年9月16日 

リビング編集部

ユニークな博物館や美術館も多い京都。美しい、珍しいだけではない、設立者の思いが伝わる6館を紹介します。

撮影/児嶋肇、鈴木誠一、武甕育子

次代へ、世界へ日本文化の手ぬぐいを

2フロアに約50点の手ぬぐい作品を展示。季節ごとに一新されます

暗闇に浮かび上がる絵画…。いや、手ぬぐいの数々。「細辻伊兵衛美術館」は、手ぬぐい専門店「永楽屋」が所蔵する江戸時代から令和までの貴重な手ぬぐいを鑑賞できる場として、今年4月に開館しました。今秋は、紅葉や月・虫などがテーマの作品が見られます。

「ぬぐう、包む、体を洗う、帽子代わりなど、昔はさまざまに活用されていた手ぬぐい。日本の由緒あるアイテムを守り伝え、多くの人に使ってもらうきっかけになれば」と話すのは、同館館長で「永楽屋」の14代目当主・細辻伊兵衛さんです。

「専用の織機も職人も今はわずか。当館から世界へ手ぬぐいの価値を発信し、業界全体の価値を高めたいですね」

鑑賞のポイントは。

「手ぬぐいの柄にはその時代の風俗・世相が表れています。当時最高峰の染色技術にも注目を」

入場チケットも手ぬぐいというこだわり。「使うほどよい肌ざわりに。ぜひ活用してくださいね」

同館ロゴ入りの手ぬぐいチケットを持つ、館長の細辻伊兵衛さん
1938年作。白く染め残された満月を背景に、はちまきをした童子はウサギのよう

細辻伊兵衛美術館

中京区室町通三条上ル役行者町368、TEL:075(256)0077。午前10時〜午後7時、無休。入館料:一般1000円、大高中生900円、小学生以下300円(手ぬぐいなし)
https://hosotsuji-ihee-museum.com/

レースの可能性を西陣から発信

海外で購入したり寄贈された貴重なアンティークレースを展示

西陣の一角に今年8月、「LACE MUSEUM 【LOOP】(レースミュージアム ループ)」が誕生しました。創設者は、この地で創業55年の「リリーレース・インターナショナル」の代表・西村政起さん。

社屋の2・3階を改装した館内には、17世紀以降のヨーロッパの手工芸によるアンティークレースや、同社が製造してきた多彩なレースがずらり。和紙素材や毛足の長いモコモコしたものなどもあり、「これもレース?」と驚く人もいるそう。

「日本のレース発祥の地は京都といわれ、最盛期には40軒ほど工場がありました。今残るのは数軒ですが、オリジナリティーあふれる物づくりに挑戦しています。その多彩なレースをぜひ一般の方にも知ってもらえれば」

地域の人に気軽に訪ねてほしい、と西村さん。

「連なる糸のように、人と人との絆を結ぶ場にしたいですね」

「同社の商品は自由に触れてみてください」と西村さん
400~500年前の手編みのレースも

LACE MUSEUM 【LOOP】

上京区元妙蓮寺町547、TEL:075(441)0366。午前9時30分〜午後5時、水休。入館料:500円(レース生地購入時500円引き) 
https://lacemuseumloop-coltd.business.site/

蚕から始まる絹文化を親しみやすく

なかなか見る機会のない、染める前の白生地が間近に

白生地メーカー「伊と幸」の社屋内に、「絹の白生地資料館 伊と幸ギャラリー」ができたのは2011年のこと。絹の白生地、つまり染色する前の絹織物の中から50種を展示しています。同社代表の北川幸さんが迎えてくれました。

 「同じ白生地でも縮緬(ちりめん)、羽二重(はぶたえ)などそれぞれ織り方や地模様が異なります」。こちらでは触れることもでき、違いがわかりやすいですね。

「生地の特徴を知れば、着物選びの視点もきっと変わると思います」

絹糸のもととなる蚕のまゆや養蚕についての展示も。

「現在、一般的な絹織物の大半は輸入の絹糸を用いています。絹文化を発信することで、日本の養蚕を守っていきたいです」

絹をガラスで挟み込んだ「絹ガラス」などの製品も見せてもらいました。

「着物を着ない人も、絹のよさを知って親しんでもらえれば」

「絹織物の実演や絹小物を作るワークショップも行っています」と北川さん(写真右)

絹の白生地資料館 伊と幸ギャラリー

中京区御池通室町東入竜池町448−2 伊と幸ビル4階、TEL:075(254)5884。午前9時〜午後6時、土日祝休(予約により開館可)。無料。電話かホームページ=https://www.kimono-itoko.co.jp/shirokiji-gallery=から要予約

多彩な生き物に出合える子どもの居場所

ガレージを改装した館内に水槽が所狭しと並びます

「『花園教会水族館』では、世界の淡水魚、は虫類、両生類を約190種、800匹以上飼育しています」とは、「花園キリスト教会」の牧師・篠澤俊一郎さん。以前から子どもの支援活動に取り組んでいたこともあり、「本物の生き物を見せてあげたい、一人でも訪ねられる居場所をつくりたい」という思いから2014年、入場無料の同館をオープンしました。今では、水槽の掃除や館内ガイドも近隣の子どもたちが行っているそう。

飼育されている半数以上は捨てられるなどしたペットです。

「5年前に引き取ったカミツキガメは日本では防除される外来種ですが、アメリカでは数が減り保護される対象なんですよ」

子どもたちに生物を多角的に見てもらい、命の大切さと生態系の多様性を伝えらえたら、と話してくれました。

館長の篠澤さん
触れられるカメやトカゲもいて子どもたちに人気

花園教会水族館

右京区太秦安井辻ノ内町10−1。土日の午後2時〜5時。平日はホームページ=https://www.kyotohanasui.com=から要予約。無料 

人と森、生き物との距離を縮めたい

身近な問題である放置竹林やマツ枯れの対策の研究展示なども

森林や林業に関する研究などを行っている「森林総合研究所 関西支所」の敷地内に立つ「森の展示館」。2005年に開館し、同所の研究成果を一般に公開しています。

テーマは「里山から奥山まで」。同所の鷹尾元さんは、「関西は人と里山との関りの歴史が長いエリアです」と話します。里山に生息する動物や放置された広葉樹の活用法などをスタッフがわかりやすく紹介。さまざまな木片で木の重さを比べたり、木の断面を顕微鏡で見られたりと体験型の展示も。子どもたちの来館が多く、昆虫標本づくりや木工工作といったワークショップも人気です。

「近年、子どもと森は疎遠になっています。その距離を少しでも縮めたいのです」

隣接する樹木園には珍しい品種も。「散策や木の実ひろいなども楽しんでくださいね」

案内してくれるのはベテラン研究員のみなさん。右端が鷹尾さん

森の展示館

伏見区桃山町永井久太郎68、TEL:075(611)1201。午前9時〜午後3時(正午〜午後1時をのぞく)、土日祝休。無料。電話にて要予約
https://www.ffpri.affrc.go.jp/fsm/business/tenji-room/

近代医学を支えた先人に思いをはせて

明治期から立つ町家の医院を利用。世界で一つ、二つしか残っていない貴重な医療機器も

「眼科・外科歴史博物館」は、代々医師である眼科医・奥沢康正先生と、そのいとこ竹岡友昭さんが保存・収集してきた江戸〜昭和期の医療器具約3000点を展示・公開するため2011年設立。同館を世話する小林昌代さんが案内してくれました。

モニターのない1920年代に作られた9人が同時にのぞける眼底鏡、物不足だった第一次世界大戦後の紙のガーゼなど、今では驚くようなものも多数。

「館のテーマは『温故知新』。日進月歩の医学において古い医療器具は不要物ですが、先人の『人を救いたい、治したい』という気持ちが生み出した努力の結晶なのです」と小林さん。

「奥沢先生は、特に子どもたちに向けて、『先人の心を知り、人生を磨こうと思うきっかけにしてほしい』と考えています」

明治~大正期に使用されたろう製の眼病の模型
明治期の診察室なども見どころ
案内してくれた小林さん

眼科・外科歴史博物館

下京区正面木屋町東入ル鍵屋町340。月に2日間ほど金曜日に開館。無料。ホームページ=http://www2u.biglobe.ne.jp/~mushokkn/mahm=から希望日の2週間以上前に要予約

(2022年9月17日号より)