何かを本来の姿ではなく、別の物として見る〝見立て〟。ハロウィーンにはカボチャを顔に見立てたジャック・オー・ランタンを作るなど、〝見立て〟を生かしたさまざまな表現がありますね。カギとなるのは、その発想力。物の見方を少し変えれば、新たな世界の扉が開くかも!
型あるものからちょっとずらす
日本庭園で池を海や川に、岩を険しい山に見立てたり、落語で手拭いを手紙や財布に、扇子を箸やキセルに見立てたり。多くの芸術文化で息づいてきた〝見立て〟は、どのように発展してきたのでしょう。
「日本で芸術文化を支えてきたのは、いわゆる〝お金持ち〟です」と、京都女子大学家政学部生活造形学科・准教授の前﨑信也さん。
「財力をもって最高級を楽しんだ後は、これまでとは違う新しさを求めるもの。見立てはそうして生まれた表現の一つでしょう」
前﨑さんが例に上げたのは、茶の湯の文化。
「鎌倉時代は将軍が中国から最高級の茶わんを取り寄せるなど、ぜいたくの限りを尽くしました。その後、室町・安土桃山時代になると、千利休が自ら切った竹を花入れにし、簡素な器を茶道具として使うといった、新たな流行が生まれます。他の目的に使われるものを高級な茶道具に〝見立て〟たのです」
特に、型やルールが決まった文化には見立ての手法を取り入れやすいとのこと。「同じルールを知っているからこそ、型をちょっとずらした見立てをみんなが理解し、楽しめます」
お金を掛けずにできる〝見立て〟は、やがて庶民にも広まることに。安いものを高価なものに見立てる方法は、茶の湯に限らずいろいろな芸術で見られるようになります。
限られたミニチュアの世界から広がるアイデア
身近な物を使ってミニチュアの〝見立て〟作品を作り出している田中達也さん。SNSで毎日発表されている作品は、世界で注目を集めています。
「〝Har-vest〟 ハー〝ベスト〟」
見立て作家・田中達也さんの作品。カボチャ畑のように見えるここ、実はベストの上なんです! カボチャに見立てているのは、オレンジと緑のボタン。タイトルにも「ハーベスト(収穫)」と「ベスト」という二重の意味が含まれ、〝言葉の見立て〟になっています
「〝Brush Up on Piano Skills〟 毎日磨くのが大切」
美しいメロディーが聞こえてきそうな作品。歯ブラシがピアノに見立てられています
「アイデアは日常生活の中で思いつきます。たくさんの物を見るとインスピレーションが湧くので、買い物にはよく行きますね。子どもと遊んでいるときに、ヒントをもらうことも」(田中さん)
ブロッコリーは木、歯ブラシはピアノに見立てるといったように、意外な、でも見ればすぐに「分かる!」と感じる作品の数々。普遍的で世界共通の形をしている物はモチーフにしやすいとか。
「見立ては、限られた中で自分の表現を伝える手段。できないこと、ないものを別の方法で実現させる、その発想が面白さです。昔からの多様な文化を〝見立て〟という一つの言葉で表せるのは、日本特有なのでは。外国語だと『変換する』『似ている』などと訳すので、『mitate』が世界中に通じる言葉になればなと思っています」
今後挑戦したい見立て作品は?
「例えばサイコロをコインランドリーに見立てた作品があるのですが、これを逆に考えてみてコインランドリーを巨大なサイコロとして表現するのも面白そう。ミニチュアの見立ての世界を、現実に発展させてみたいです」
ミニチュア写真家・見立て作家
田中達也さん
2011年に「MINIATURE CALENDAR」を発表。NHK連続テレビ小説「ひよっこ」(2017年)のタイトルバック映像も担当
https://miniature-calendar.com/
車いすはかっこいい! 新たな価値を分かりやすく
車輪がレコード盤に見立てられた車いす。乗って進んでみると…、軽快なポップミュージックが流れ出しました。
「車輪の回転速度に合わせて音楽が再生される仕組み。アプリでいろいろな曲が再生できます。まもなく一般向けに実用化する予定」とは、開発者で立命館大学准教授の望月茂徳さん。コンピューターを使った映像による体験型のアート「インタラクティブアート」の研究が専門です。
インタラクティブアートを生かし、「車いすのイメージを〝大変〟から〝かっこいい、楽しい〟にデザインし直せたら」と開発された「車いすDJ」。車いすダンサーを見て、車輪を回す姿をDJに見立てたことでアイデアがひらめいたそう。
「新しい体験をスムーズに受け手側に理解してもらうために、見立てが役立ちます」
「車いすDJ」
動かすスピードによって曲のテンポも変えられます
新しいツールにアナログ的な道具でアプローチした黒電話も開発。能「羽衣」の舞台美術では、幾何学模様の光を登場人物に見立てました。
「意外性のあるものの組み合わせほど、想像力を刺激します。考え方次第で普通が特別になり、日常が不思議の世界のようにもなるんですよ」
立命館大学 映像学部
准教授 望月茂徳さん
鉱物がスイーツに? 驚きが興味へと
「青の水晶パフェ」
「見た目の再現度はもちろん、おいしさも大切。1〜2カ月かけて行うメニュー開発は試行錯誤の繰り返しです」と吉村さん。1080円
美しく輝く水晶の結晶。実はこちら、食べられるんです!「青の水晶パフェ」がいただけるのは、地下鉄「西大路御池」駅東側にある「ウサギノネドコ京都店」のカフェ。「ウサギノネドコ」代表取締役の吉村紘一さんは「自然物の美しさが好きで、店のテーマも『自然の造形美を伝える』なんです。スイーツを入り口に、鉱物に興味を持ってもらえたらと開発しました」と話します。
「食べられる甘味を、食べられない硬い鉱物に見立てる点に、驚きや面白さがあると思います」
パフェの水晶は天然色素で色付けした綿玉羹(きんぎょくかん)、その下の細かい結晶はゼリーで再現。下にはフローズンブルーベリー、カシスソース、バニラアイス、ココナツプリンなどが続き、まるで地層のよう。ほかに「ガーデンクォーツ・ティラミス」「鉱物スイーツ・アソート」といったメニューもそろいます。
「鉱物の名前にも見立ての要素があります。例えば『砂漠のバラ』『クジャク石』『レモンクォーツ』など。無機物の中に生命を見いだしていて面白いですよね」
生物に見立てることで、石も命が吹き込まれ、いきいきと見えてくるようです。
共感できる表現をアレンジして日常を豊かに
「見立てるものと見立てられるもの、その〝ずれ〟がちょうどよいことが重要です。今はウェブやSNSで情報を発信する時代。不特定多数に情報が届くので、誰も傷つけないような表現のバランスが大切になります。
それぞれ親近感があり、でも組み合わせは見たことがないようなものを面白いと感じる。例えば床の間に、花瓶ではなくフライパンに花が生けてあったら驚きますよね。共感できる見立てのアイデアに触れ、『私もやってみよう』と思ったとき、自分だったらどうアレンジするかを考えてみましょう。日常が豊かになると思いますよ」
京都女子大学 家政学部生活造形学科
准教授 前﨑信也さん
(2021年10月30日号より)
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