包丁のこと、知っていますか?

2023年1月20日 

リビング編集部

京刃物の鱧(ハモ)の骨切り包丁 大小。撮影協力/京都伝統産業ミュージアム

身近な道具である包丁。その歴史は京都と深い関わりがあるのです。日々のメンテナンス法や選び方など、知って得する情報も専門家に聞きました。

切っても切れない京都と包丁

毎日のように使う包丁は、生活に欠かせない刃物のひとつ。京都には老舗の刃物店が多く、包丁のほか花ばさみなど職人の手作りによるこだわりの商品が並びます。

「昔から京都の鍛冶屋は、さまざまな注文にこたえてきました」と教えてくれたのは刃物店、鍛冶屋などでつくる「京都刃物組合」の広報・古田正樹さん。鰻(ウナギ)を腹からさばくための「京サキ包丁」など、京都ならではの包丁もそのひとつ。「刃物店は販売だけではなく、包丁など刃物の研ぎや修理でも頼りになりますよ」と話します。

そもそも、京都は明治初期まで刃物の一大産地だったそう。京都市内には「鍛冶町」「鍛冶屋町」の地名も残っていますね。京都府商工労働観光部染織・工芸課によると、平安の昔から日本刀の名工が活躍し、やがて農機具や大工道具などさまざまな刃物を作る鍛冶職人が出てきました。

京都で刃物製造が盛んになった理由としては、都という地の利が大きいといいます。「出雲地方の砂鉄や玉鋼」のほか、「伏見稲荷周辺の土」「鳴滝の砥石(といし)」「丹波地方の松炭」など刃物造りに必要な材料が手に入りやすかったのです。

そうして育まれた刃物の技術は、西陣織、扇子、竹工芸、造園、建築、畳、瓦、華道などの道具に生かされ、京都の伝統産業にも欠かせない存在に。「京刃物」として府の「京もの指定工芸品」となっています。もちろん、包丁もそのひとつです。

京都には包丁にまつわるスポットもいくつか。歴史に思いをはせて訪れてみては。

包丁の歴史に触れるスポットin京都

刃物供養が行われる[刃物神社]
1973年に刃物神社建設委員会により建立

八坂神社の末社のひとつ。製鉄・鍛冶の神である天目一箇神(あめのまひとつのかみ)がまつられています。毎年11月8日の「刃物神社祭」では使い古した刃物に感謝して供養する刃物供養が行われます。東山区祇園町北側625、☎075(561)6155

式包丁の創始者をまつる[山蔭神社]
料理人の信仰があつい山蔭神社
「式包丁」の様子

吉田神社の境内にあり、日本で初めて調理・調味をしたとされる平安時代の公卿・藤原山蔭(やまかげ)をまつる神社。山蔭が創始者である「式包丁」(※)が、5月8日の祭礼で奉納されます。左京区吉田神楽岡町30、☎075(771)3788
※式包丁とは、神や天皇など尊い存在にささげる食事を調理する際のルール。はしと包丁のみで魚をさばき、手を触れないことでけがれを避けたと考えられます

良質な砥石の産地[高雄〜北嵯峨]
鉄をも削る石英を含む鳴滝砥石(画像提供/京都市青少年科学センター)

京都市の鳴滝、梅ケ畑、愛宕山月輪寺、越畑といった地域では、古くから刃物を研ぐのに適した石の採掘が行われ、「鳴滝砥石」として全国的に有名でした。閉山したものの残った貴重な原石は今も宮大工や料理人などの間で使われているそう。

料理の腕も上がる?
包丁の選び方・メンテナンス

家庭で使う包丁の選び方や手入れの基本を、包丁専門店の八木紫帆さんに教えてもらいました。

教えてくれたのは

八木庖丁店 八木紫帆さん
錦市場そば、多くの料理人に愛される包丁店の4代目。店内には包丁をはじめ銅鍋や抜き型など調理道具もそろう

自分に合った包丁選びは台所の広さや手入れの頻度が目安

多くの家庭で使われている三徳包丁の選び方を八木さんに聞いてみました。

「まずは大きさですね。三徳包丁だと刃渡り16・5〜18㎝がよくあるサイズ。ただ、狭い台所では18㎝だと大きくて調理するときに手や刃先が周囲に当たるといったことも」。台所の広さも考慮して選ぶといいのですね。

「今持っている包丁が使いやすければ、買い替えるときに刃渡りの長さを測ってからお店に行くと選びやすいでしょう」

素材についてはどうでしょうか。

「家でどうメンテナンスするかで、おすすめの素材は変わります。あまり研ぎたくないという人には硬いステンレス製を、こまめに研ぐ人には鋼(はがね)のものを紹介しています。硬いステンレスはさびにくく切れ味が長持ちしますが、家庭で研ごうと思うと硬すぎて難しい場合も。一方で鋼はさびや変色が起こりやすいですが、さっと研ぐだけですぐ切れるものもあり、日々の手入れがしやすいのです」

いずれにしても、実際に手に持って選ぶことが大切、と八木さん。

「重さや長さなど、自分の手になじむものを選んでくださいね」


「三徳包丁」の一例。写真奥の3本はやや小ぶり。一番奥は鋼の刃で、そのほかはステンレス製。重さもそれぞれ異なります

専門包丁をプラスして調理をよりスムーズに

三徳包丁以外に、持っていると便利な包丁とは?

「一番におすすめするのはペティナイフ。12〜13・5㎝くらいのものがいいですね」。八木さんはよく活用しているそうで、「忙しい朝に大きな包丁を出さなくても、野菜やウインナーなどをさっと切って料理できます」。三徳包丁ではなく大きめのペティナイフを常時使う人もいるそう。

「また、お肉をよく食べるなら牛刀(ぎゅうとう)が便利です。三徳包丁に比べて刃が薄く、かたまり肉や鶏の皮なども切りやすいですよ。軽めなので、高齢の方にすすめることもあります」

野菜用とわけて肉専用の包丁を持つことは衛生面でもメリットに。

「魚を好むなら出刃包丁。太い骨を断ち切ったり、カニの節を切ったりもしやすいです。野菜をたくさん食べるなら菜切り包丁が活躍します。葉野菜はもちろん、硬いかぼちゃにも刃が入れやすいんです」

ほか、パン好きの家庭ならパン切り包丁があれば便利とのこと。

「食事の内容やどんなものをよく切るかで選んでくださいね」と教えてくれました。

こまめに状態をチェックして日々のメンテナンスを

「切れ味のよい包丁を使うと料理がスムーズに進みストレスフリーに。断面がきれいなのでおいしさも逃げず、料理の仕上がりも美しくなります」と八木さん。切れ味を長く保つためにはどうすればいいのでしょう。

「食洗器で洗うのはNG。洗剤の研磨剤で刃に細かな傷がつくことも。洗ったらすぐ水気を拭き、包丁立てに片付けましょう。ステンレス製であっても水が付いたままではさびのもとに」

どんな包丁でも、使っていれば切れ味は落ちますが—。

「研ぎの頻度は鋼の包丁なら最低月1回、ステンレス製は半年に1回とよくいいます。しかし、使い方や材質にもよるので、月1回は切れ味の確認を。電動シャープナーは便利ですが、あくまで応急処置。1年に1度は砥石で研ぐか、刃物店などでしっかり研いでもらいましょう」

あまり使わない包丁は、サラダオイルなど油を薄く塗り、新聞紙に包んで収納しておくといいそう。

「よく切れる包丁で、毎日の料理を楽しんでくださいね」

砥石には粒度の粗い順に「荒砥石」「中砥石」「仕上げ砥石」があり、家庭では中砥石を使う人が多いよう。写真は荒砥石・中砥石が表裏になったもの

撮影協力/八木庖丁店

(2023年1月21日号より)