鮮やかなイエロー、爽やかな酸味の果実といえば…そう、レモン! 食にとどまらないその魅力に、心を捉えられた人々が京都にもいます。レモンとこの町が織り成す文化に迫りました。
撮影/三國賢一(丸善 京都本店、カプリ食堂)
「丸善」に置いていかれる美しい果実 3月24日は梶井基次郎の〝檸檬忌〟
体を悪くして借金も抱え、鬱屈(うっくつ)した思いに取りつかれている青年はある日、「丸善」の棚に美しいレモンを置いていく。まるで爆弾のように—。
そんな話がつづられているのが、大正〜昭和期の作家・梶井基次郎の代表作である小説「檸檬(れもん)」。彼の命日、3月24日は「檸檬忌」と呼ばれています。
舞台は京都。登場する書店「丸善」は1907〜1967年の間、三条通麩屋町にありましたが、移転や閉店を経て現在は河原町の「京都BAL」地下1〜2階に店を構えています。文庫コーナーでは常時ずらりと陳列されている「檸檬」が目を引き、特設コーナーにはレモンが入った籠も発見。
「小説のようにレモンを本棚に置いていく人がとても多く、それならと『レモン置き場』を作ったんです」と、「丸善 京都本店」副店長の中津山淳さん。当時の「丸善」は洋書を中心に舶来品を扱う店だったといいます。
「憧れの場所が主人公の不安の根源に変わる様子が描かれています。想像とはいえ店を爆発させられるので、複雑な気持ちもありますが(笑)。読めばきっと、今の時代も共感できる部分があると思います。そしてレモンを持ち、同じ体験をしに当店へお越しください」
甘酸っぱい、爽やか、幸福感 そうしたイメージから生まれる音楽
どの曲にもレモン愛がぎっしり。京都を中心に活動するミュージシャンたちが「レモン」をテーマに作った全16曲が収録されている、CDアルバム「Lemon Songs」「Lemon Songs2」。レモン料理専門店「カプリ食堂」がプロデュースしました。
「甘酸っぱさや爽やかさから恋を連想したり、黄色から人とつながるハッピーな気分をイメージしたり。同じ『レモン』を歌っていてもそれぞれテイストが違っていて面白いですよ」とは、同店マネジャーの山田帆乃さん。元ミュージシャンのオーナーが「コロナ禍のアーティストたちを応援したい」と考え、レモンにまつわる曲の製作を依頼、CDにしたそう。
「これからも飲食店という形にこだわらず、レモンの魅力を伝えていきたいです」
レモンを味わいながら曲を聴いてみるのもいいですね。
「京都発のレモンブランドを」 プロジェクトが進行中です
「京都をレモンの産地に」。その思いから2018年に発足した「京檸檬プロジェクト協議会」。舞鶴市から南山城村まで京都府内24の農家や、食品加工業者、食品メーカー、行政、大学、道の駅などが参加しています。
「果樹の定植をして今年で5年目。昨秋には2トン弱の〝京檸檬〟を収穫できました」とは、同会理事で「日本果汁」代表取締役の河野聡さん。京都ではほぼ栽培されていなかったというレモンに目を付け、ブランド化に取り組んでいます。
「果樹を扱うのはレモンが初めて」と話すのは、同じく理事で、久御山町にて九条ネギを中心とした農産物を生産する「村田農園」の村田正己さん。「メンバーと広島県に行き、レモン農家さんにノウハウを教えてもらいました。昨年はようやく納得のいく実がなったので、安定して収穫できるようにしたいですね」
社会保険労務士の立場から農業を支援する監事の橋本將詞さんは、「府内でも北部と南部では肥料を変えるなどの必要も。試行錯誤しながらですが、京都でのレモン栽培の指針を作れたらと思っています」とのこと。
〝京檸檬〟を使ったレモンサワーやポン酢も開発。今年も発売予定です。
「複数の事業者が関わっているからこそ商品化が実現。青果としてはまだ市場に出回ってはいませんが、今後多くの人に〝京檸檬〟を手に取ってもらえるよう、プロジェクトを進めていきます」(河野さん)
缶チューハイ「檸檬堂」が製造されているのは久御山町
コカ・コーラ社のヒット商品となっているレモンサワー「檸檬堂」。実はこちら、久御山町で造られているのです。
コカ・コーラ ボトラーズジャパンの販売エリア内3カ所にある「檸檬堂」の製造拠点。その一つが同京都工場です。主に西日本エリアにおける製品供給を担うため、2020年に製造が開始されました。「定番レモン」など、6種類を手掛けています。味わいはすっきり、まろやか。「丸ごとすりおろしたレモンとお酒をあらかじめなじませた『前割りレモン製法』により、お店のおいしさを目指しています」(担当者)
100年先も愛されるレモンケーキを目指して
レトロブームの中で注目を集めるレモンケーキ。京都を中心に複数の店舗を展開する洋菓子店「バイカル」では「懐かしのレモン」として販売されています。その先駆けとなるレモン形の焼き菓子は、1960年代前半に製造・販売。「当時は珍しかったフレッシュバターを使ったお菓子が人気となりました」と担当者。「工程は一つ一つ手作業。表面のシャリっとした食感や、しっとりとした生地も特徴です」。今から10年ほど前に復活し、丸みのある形に。2021年にはパッケージがリニューアル。〝これからの100年をデザインする〟活動を行う「NEXT 100 YEARS」とコラボレーションしました。「懐かしのレモン」がこの先もずっと愛されますように、との思いが込められています。
海軍ゆかりのレモネードを舞鶴で再現
レモネード誕生の裏には海軍が。大航海時代、イギリス海軍では長期航海中のビタミンC不足から起こる壊血病に悩まされていました。解決策として生まれたというのがレモネード。舞鶴市に原本が残る「海軍四等主計兵厨業教科書」にレシピが記されています。
「舞鶴赤れんがパーク」2号棟の「cafe jazz」で提供されている「海軍ラムネ」は、そのレシピを再現したもの。炭酸水に好みの量のレモン汁、シロップを入れ、自分でレモネードを作ります。コーヒー、紅茶が用意されている点にも注目。加えて〝味変〟を試してみて。
(2023年3月25日号より)
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