京都とレモン

2023年3月24日 

リビング編集部

鮮やかなイエロー、爽やかな酸味の果実といえば…そう、レモン! 食にとどまらないその魅力に、心を捉えられた人々が京都にもいます。レモンとこの町が織り成す文化に迫りました。

撮影/三國賢一(丸善 京都本店、カプリ食堂)

「丸善」に置いていかれる美しい果実 3月24日は梶井基次郎の〝檸檬忌〟

地下2階の特設コーナーにはレモンがモチーフの文房具なども展開。併設するカフェでは「檸檬ケーキ」をいただけます

体を悪くして借金も抱え、鬱屈(うっくつ)した思いに取りつかれている青年はある日、「丸善」の棚に美しいレモンを置いていく。まるで爆弾のように—。

そんな話がつづられているのが、大正〜昭和期の作家・梶井基次郎の代表作である小説「檸檬(れもん)」。彼の命日、3月24日は「檸檬忌」と呼ばれています。

舞台は京都。登場する書店「丸善」は1907〜1967年の間、三条通麩屋町にありましたが、移転や閉店を経て現在は河原町の「京都BAL」地下1〜2階に店を構えています。文庫コーナーでは常時ずらりと陳列されている「檸檬」が目を引き、特設コーナーにはレモンが入った籠も発見。

「レモン置き場」も用意

「小説のようにレモンを本棚に置いていく人がとても多く、それならと『レモン置き場』を作ったんです」と、「丸善 京都本店」副店長の中津山淳さん。当時の「丸善」は洋書を中心に舶来品を扱う店だったといいます。

「憧れの場所が主人公の不安の根源に変わる様子が描かれています。想像とはいえ店を爆発させられるので、複雑な気持ちもありますが(笑)。読めばきっと、今の時代も共感できる部分があると思います。そしてレモンを持ち、同じ体験をしに当店へお越しください」

各社から発刊されている「檸檬」が棚一面に

甘酸っぱい、爽やか、幸福感 そうしたイメージから生まれる音楽

どの曲にもレモン愛がぎっしり。京都を中心に活動するミュージシャンたちが「レモン」をテーマに作った全16曲が収録されている、CDアルバム「Lemon Songs」「Lemon Songs2」。レモン料理専門店「カプリ食堂」がプロデュースしました。

「Lemon Songs」(1000円)と「Lemon Songs2」(1500円)は「カプリ食堂」(烏丸通五条上ル、今出川店もあり)で販売中。レーベル/FLAVOR RECORDS

「甘酸っぱさや爽やかさから恋を連想したり、黄色から人とつながるハッピーな気分をイメージしたり。同じ『レモン』を歌っていてもそれぞれテイストが違っていて面白いですよ」とは、同店マネジャーの山田帆乃さん。元ミュージシャンのオーナーが「コロナ禍のアーティストたちを応援したい」と考え、レモンにまつわる曲の製作を依頼、CDにしたそう。

「これからも飲食店という形にこだわらず、レモンの魅力を伝えていきたいです」

レモンを味わいながら曲を聴いてみるのもいいですね。

「料理だけではなく、さまざまなものを引き立たせるレモンは縁の下の力持ち。可能性は無限大です!」(山田さん)

「京都発のレモンブランドを」 プロジェクトが進行中です

「京都をレモンの産地に」。その思いから2018年に発足した「京檸檬プロジェクト協議会」。舞鶴市から南山城村まで京都府内24の農家や、食品加工業者、食品メーカー、行政、大学、道の駅などが参加しています。

「果樹の定植をして今年で5年目。昨秋には2トン弱の〝京檸檬〟を収穫できました」とは、同会理事で「日本果汁」代表取締役の河野聡さん。京都ではほぼ栽培されていなかったというレモンに目を付け、ブランド化に取り組んでいます。

レモンの果樹を植えた「京檸檬プロジェクト協議会」のメンバー。「いずれは一般の方向けに定植や収穫の体験イベントを開きたいです」(河野さん)

「果樹を扱うのはレモンが初めて」と話すのは、同じく理事で、久御山町にて九条ネギを中心とした農産物を生産する「村田農園」の村田正己さん。「メンバーと広島県に行き、レモン農家さんにノウハウを教えてもらいました。昨年はようやく納得のいく実がなったので、安定して収穫できるようにしたいですね」

社会保険労務士の立場から農業を支援する監事の橋本將詞さんは、「府内でも北部と南部では肥料を変えるなどの必要も。試行錯誤しながらですが、京都でのレモン栽培の指針を作れたらと思っています」とのこと。

〝京檸檬〟を使ったレモンサワーやポン酢も開発。今年も発売予定です。

「複数の事業者が関わっているからこそ商品化が実現。青果としてはまだ市場に出回ってはいませんが、今後多くの人に〝京檸檬〟を手に取ってもらえるよう、プロジェクトを進めていきます」(河野さん)

村田農園の〝京檸檬〟。「レモンの特性や気候の変化を考えながら栽培しています」と村田さん
京檸檬を使った商品も誕生。「FARMER’s STORY 京檸檬サワー」(右端)は同会と「宝酒造」が共同開発。めんつゆや肉のたれ(中央)は「無印良品」、オランジェット(左端)は「日本果汁」から発売されています

缶チューハイ「檸檬堂」が製造されているのは久御山町

コカ・コーラ社のヒット商品となっているレモンサワー「檸檬堂」。実はこちら、久御山町で造られているのです。

コカ・コーラ ボトラーズジャパンの販売エリア内3カ所にある「檸檬堂」の製造拠点。その一つが同京都工場です。主に西日本エリアにおける製品供給を担うため、2020年に製造が開始されました。「定番レモン」など、6種類を手掛けています。味わいはすっきり、まろやか。「丸ごとすりおろしたレモンとお酒をあらかじめなじませた『前割りレモン製法』により、お店のおいしさを目指しています」(担当者)

京都工場では1分間に1000本(350ml)を製造可能
「定番レモン」をはじめ、「はちみつレモン」「無糖レモン」「うま塩レモン」などがラインアップ

100年先も愛されるレモンケーキを目指して

レトロブームの中で注目を集めるレモンケーキ。京都を中心に複数の店舗を展開する洋菓子店「バイカル」では「懐かしのレモン」として販売されています。その先駆けとなるレモン形の焼き菓子は、1960年代前半に製造・販売。「当時は珍しかったフレッシュバターを使ったお菓子が人気となりました」と担当者。「工程は一つ一つ手作業。表面のシャリっとした食感や、しっとりとした生地も特徴です」。今から10年ほど前に復活し、丸みのある形に。2021年にはパッケージがリニューアル。〝これからの100年をデザインする〟活動を行う「NEXT 100 YEARS」とコラボレーションしました。「懐かしのレモン」がこの先もずっと愛されますように、との思いが込められています。

「懐かしのレモン」は1個280円、5個入り1600円、10個入り3100円。パッと目を引くデザインが好評だとか

海軍ゆかりのレモネードを舞鶴で再現

レモネード誕生の裏には海軍が。大航海時代、イギリス海軍では長期航海中のビタミンC不足から起こる壊血病に悩まされていました。解決策として生まれたというのがレモネード。舞鶴市に原本が残る「海軍四等主計兵厨業教科書」にレシピが記されています。

「舞鶴赤れんがパーク」2号棟の「cafe jazz」で提供されている「海軍ラムネ」は、そのレシピを再現したもの。炭酸水に好みの量のレモン汁、シロップを入れ、自分でレモネードを作ります。コーヒー、紅茶が用意されている点にも注目。加えて〝味変〟を試してみて。

「海軍ラムネ」(600円)。英語の〝レモネード〟がなまり、〝ラムネ〟になったそう

(2023年3月25日号より)