落ち着かない社会情勢で、ストレスを感じている人も多いのでは。おうち時間に、絵本で気分転換をしませんか。
絵本を専門的に扱う書店のみなさんに、大人にこそ読んでほしい本をいくつか選んでもらいました。テーマは「元気が出る」「学べる」「泣ける」の三つ。おすすめのコメントも併せて紹介しています。また、専門家や京都在住の絵本作家にも話を聞きました。
※文中のA~Dは、絵本を推薦してくれた人(詳細はコチラ)
落ち込んだときに、元気がもらえる
明日が待ち遠しくなりそう
「きょうがはじまる」
- 作・絵/ジュリー・モースタッド
- 訳/石津ちひろ
- BL出版 1760円
服はどれ? 髪形は? 何を食べる? どこへ行く?…。ページいっぱいに描かれた、たくさんの絵から好きなものを選び、朝起きてから眠るまでの一日を自由に組み立てようという本。選ぶ楽しさにワクワクします。「寝る前に読めば『明日はどんな日にしようかな』と、朝が来るのが待ち遠しくなるかも」/D
存在そのものを認めてくれます
「さいごのこいぬ」
- 作・絵/フランク・アシュ
- 訳/ほしかわなつこ
- 童話館出版 1430円
何をやっても最後になってしまう子犬の物語。最後に生まれた9匹目の子犬は、目が開くのも小屋に入るのも最後。子犬たちが売りに出されたときも、やっぱり最後に…。「読み終えた後は、〝そのままでいい〟と存在を認められたような気分になれます」/B
お母さんの気持ちを代弁
「ママン 世界中の母のきもち」
- 作/エレーヌ・デルフォルジュ
- 絵/カンタン・グレバン
- 訳/内田也哉子
- パイ インターナショナル 2640円
憧れや喜びだけではない、迷いや戸惑いといった世界中の子どもを持つお母さんの、率直な気持ちが書かれています。「母親になった人が、ページをめくるたびに『自分だけじゃなかった』と共感でき、じんわりと元気がでそう」。親子の日常をとらえた絵も印象的です。/A
知識や視野が広がる、学べる
青森から鹿児島までを疑似トリップ
「新幹線のたび
〜はやぶさ・のぞみ・さくらで日本縦断〜」
- 作・絵/コマヤスカン
- 講談社 1650円
夜明け前に青森駅を出発、新幹線を乗り継ぎ鹿児島駅ヘ。「地形や建物などがびっしりと緻密なイラストで描かれているので、日本の魅力を再発見できそう。ゆかりの地や訪ねてみたい風景など、この本で心のままに旅を楽しんでみませんか?」/C
社会のしくみをおさらい
「社会格差はどこから?」
- 作/プランテルグループ
- 絵/ジュアン・ネグレスコロール
- 訳/宇野和美
- あかね書房 1980円
40年以上前、スペインが独裁体制から民主主義へと変わる際に書かれた「あしたのための本」のシリーズの中の一冊。「同じ人間なのに、どうして格差が生まれるのかという、社会の仕組みが明るいタッチの絵と共に書かれています。読み進めると、どこかの国に似ていると思うことも…」/A
〝おしまい〟になることがないと
教えてくれます
「かぜはどこへいくの」
- 作/シャーロット・ゾロトウ
- 絵/ハワード・ノッツ
- 訳/まつおかきょうこ
- 偕成社 1320円
「風はやんだらどこへいくの?」。男の子が投げかける、いくつかの質問に母親が丁寧に答えていくストーリー。「風はどこかでまた木を揺らす」といった自然の営みを諭しながら、「全てのことが〝終わってしまうのではなく、どこかで続いていく〟ということを教えています」。繊細な鉛筆画にも引き込まれそう。/B
涙を流して、心のデトックスを
おじいちゃんが孫に伝えたかったこととは
「おじいちゃんがおばけになったわけ」
- 作/キム・フォップス・オーカソン
- 絵/エヴァ・エリクソン
- 訳/菱木晃子
- あすなろ書房 1430円
突然死んだおじいちゃんが、お化けになって男の子のもとに出現! 「この世に忘れ物がある人がお化けになる」と知った男の子は、おじいちゃんために忘れ物が何かを一緒に探します。「亡くなっても、〝思い〟はずっとそばにあると、教えてくれているようです」/C
慈愛に満ちた、やさしさに包まれるよう
「マローンおばさん」
- 作/エリナー・ファージョン
- 絵/エドワード・アーディゾーニ
- 訳/阿部公子、茨木啓子
- こぐま社 1100円
貧しいマローンおばさんの家に訪れる、傷つき弱った動物たち。どんな動物も「居場所はここにあるよ」と招き入れ、わずかな食べ物などを与えます。「ありのままを受け止めてくれるおばさんの、慈愛に満ちたやさしさに触れてみて」/B
生徒と先生の絆を感じて
「だいすきな先生へ」
- 作/デボラ・ホプキンソン
- 絵/ナンシー・カーペンター
- 訳/松川真弓
- 評論社 1540円
少し手のかかる少女を真っすぐ受け止めて、自由にさせてあげた先生。大人になった少女は、忘れられない先生へ手紙を出します。「成長した少女の決意に、人と人とのつながりの大切さを改めて実感できそう」/D
日常から〝解放〟される時間に
「作品や読者の環境で受け取るものは違いますが、絵本によって日常生活にはない景色や感情に出合うことができます」
そう話すのは、京都女子大学発達教育学部児童学科准教授の今田由香さん。大人が絵本を読むことについて聞きました。
「いろんな感情を味わうこともあるでしょうし、思い出や記憶がよみがえり、改めてその意味を考える機会になることもあります。また、多くの知識を得たり、新しい視点を手に入れたり。海外の絵本なら文化や歴史を知ることも可能です。
いつもの価値観や時間の使い方から〝解放〟されるひとときを持てるのが、絵本の効果ではないでしょうか」
今田さんおすすめの絵本は「りすとかえるとかぜのうた」。旅に憧れるリスとカエル。船を手に入れたリスはカエルを誘おうとしますが、行き違いに…。
「余白がたっぷりとある物語絵本で、読む人が自分なりの思いを重ねることができますよ。水を感じる水彩の絵もすてき。忘れていた記憶を呼び覚まされるような作品です」
京都女子大学
発達教育学部
児童学科准教授
今田由香さん
「常に新しいものをつくりたい」tupera tupera(ツペラ ツペラ)さん
さまざまな〝しかけ絵本〟など、ユニークでカラフルな作品が年齢を問わず人気の、京都在住の絵本作家・tupera tuperaさん。亀山達矢さんと、中川敦子さん夫妻による2人組ユニットです。
「僕たちのこだわりは、常に新しいものをつくること」と亀山さん。絵もストーリーも分担するのではなく、どちらも二人で行うのだそう。
「アイデアが浮かぶと、絵を描いたり、はさみで切った紙をはったり。会話のキャッチボールを重ねながら、その場で形にしていきます。原案からブックデザインまで人任せにせず、全てにおいて、楽しみながらつくっています」
そうして手掛けた絵本は40冊以上。
「絵本はこう読まなくては、という決まりはありませんし、子どもだけのものでもありません。ページをめくるたびに会話が広がることも。コミュニケーションツールにもなるので、多くの大人の方に手に取ってもらいたい」
自作の中で、大人におすすめという絵本が「わくせいキャベジ動物図鑑」。
地球から831光年離れた「キャベジ」という小惑星に住む、〝野菜動物〟たち。生体など、独自視点の解説にも注目。クスッと笑えるうえに、〝新種〟を考えたくなるなど創造意欲をかき立てられそう。第23回日本絵本賞大賞受賞。
■取材協力
- A絵本のこたち/熊谷聡子さん
- 京都市伏見区横大路下三栖辻堂町76
http://cotachi.main.jp/ - B絵本屋 きんだあらんど/蓮岡修さん
- 京都市左京区新間之町二条下ル頭町351
http://kinderland-jp.com/ - CBooks&cafe Wonderland/長谷川みゆきさん
- 向日市寺戸町久々相8-2
https://www.wonderland1995.com/ - D子どもの本専門店 メリーゴーランドKYOTO/鈴木潤さん
- 京都市下京区河原町通四条下ル市之町251-2 寿ビルディング5階
https://www.mgr-kyoto2007.com/
(2021年6月26日号より)
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