地名にかくれた動物たち

2020年10月2日 

リビング編集部

10月4日は「世界動物の日」。トラ、ウサギ、キツネ、ウマ…、実はこの動物たち、どれも京都の地名に使われているんです。その土地と動物にいったいどんな関係が? 「京都地名研究会」事務局長・入江成治さんに聞きました。動物園、水族館のトピックスにも注目を。※地名の由来は諸説あり

イラスト/かわすみみわこ

莵道(とどう)/宇治市

ウサギ? それとも古代の皇族?

〝莵〟は〝兎〟や〝菟〟と同じく、「ウサギ」を指す漢字。では、京阪「三室戸」駅東側一帯の地名「莵道」とは「ウサギの道」のこと?

「『莵道』は『菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)』の墳墓が地域内にあることに由来します」(入江さん)

「菟道稚郎子」とは古事記などに記された古代の皇族。宇治に暮らしたと伝わり、「宇治」も古くは「莵道」と表記されていました。

ちなみに、民俗学者・南方熊楠は「ウサギの群れが通って道になり、『莵道』と呼ばれた」との説を唱えたそう。複数の説があり謎が残るのも、ロマンを感じます。

鹿背田(かせだ)/城陽市

〝河〟の字が神使の側面も持つ〝鹿〟に変化?

近鉄「富野荘」駅周辺の地名は「鹿背田」。同じ木津川流域にある「鹿背山」と由来は通じると考えられるとのこと。

「『鹿背山』は万葉集にも見られる歌枕で〝鹿の背中のように優美な山並み〟との説がありますが、木津川を背にした山『河背山』との見方も。『鹿背田』も同じで、『河背田』の〝河〟に代わって〝鹿〟が当てられたのかもしれません。シカは、奈良の春日大社では神使です。西京区・大原野神社にもこま犬ならぬ〝こま鹿〟がいます。キツネやタヌキに比べて地名に現れやすい動物ですね」

虎石町(とらいしちょう)/中京区

江戸時代、寺にあったのは…

柳馬場通を挟んで、押小路通と御池通間にある「虎石町」。その由来は、町内に位置していた寺に虎石という名石があったことによるとか。

「この地で往生を遂げた親鸞が、寺内で出土した石を、トラが伏した姿に見立てて『虎石』と呼んだといいます」

同町内には、虎石の歴史と親鸞終焉(しゅうえん)の地について碑が。現在、虎石は大谷祖廟(東大谷)に安置されているそうです。

亀木町(かめきちょう)/上京区

カギを握るのは秀吉がつくった聚楽第

続いて、裏門通上長者町下ルにある「亀木町」について聞きました。

「この辺りは豊臣秀吉が造営した『聚楽第』の広大な敷地の一部でした。庭の池に置かれたと伝わるのが、噴水用の木製の亀。この〝亀〟と〝木〟が合わさったと考えられます」

〝派手好き〟の秀吉らしく、巨大な亀をつくらせたのだとか。亀から空に向かって水が噴く、そんな光景が町名から浮かび上がってきます。

亀屋町(かめやちょう)/上京区・中京区・下京区など

徳川綱吉の娘〝鶴姫〟が原因で町名が変更!?

「〝鶴〟や〝亀〟など縁起のいい語を使った地名を『瑞祥(ずいしょう)地名』といいます」と入江さん。

「京都市では『鶴山町』1カ所に対して『亀屋町』は5カ所もあります。上京区油小路通の『亀屋町』が、元禄期以降に『鶴屋町』から改名したのは、徳川幕府5代将軍・綱吉の娘『鶴姫』の誕生により、〝鶴〟を名づけに用いることを禁じたからでしょうね」

姫の誕生で町の名前がが変わるとは!

馬立(うまたて)/向日市

長岡京時代、馬をつかさどる役所がこの地に

動物の中でも、「馬」の付く地名は全国的にも多数。阪急「西向日」駅西側、向日町郵便局周辺にある「馬立」もその一つです。〝馬をつなぐ場所〟を意味しますが、その由来は長岡京時代にさかのぼります。

「平安京の大内裏図を長岡京に重ね合わせると、官馬を飼養する役所『右馬寮(うめのりょう)』が『馬立』の位置と対応します。長岡京当時にあった役所に関連がありそうです。また、向日町簡易裁判所北側の地名『馬司(うまづか)』も、馬を管理する役所『馬司(うまつかさ)』に関係すると推測されます」(入江さん)

馬町(うままち)/東山区

六波羅探題から幕府へウマを送るため

東山五条を下がった二筋目の交差点名は「馬町」。まさに、ウマそのものが地名になっています。渋谷街道沿いに東へ行った場所にあるのが、「下馬町(しもうまちょう)」と「上馬町(かみうまちょう)」。

「由来について、六波羅探題から幕府へ駿馬(しゅんめ)を送る際の係留地で、見物人が群れをなしたから、馬市が開かれたから、など複数の説があります」

吉田牛ノ宮町(よしだうしのみやちょう)/左京区

かつてのウシを守る神様の社

京都大学近く、東大路通と鞠小路通に挟まれた東一条通沿いの一帯の地名は「吉田牛ノ宮町」。

「『雍州府志(ようしゅうふし)』という江戸時代の地誌によると、知恩寺の西南の杜(もり)に『牛の社(やしろ)』があったことに由来します。『牛の社』はウシを疫病から守護する神を祭っていた社。ウシは古来、農耕にとって欠かせない大切な存在です。ウシが死ぬと、牛神(うしがみ)として祭る風習もありました」

鷹匠町(たかじょうちょう)/伏見区

大名たちの〝鷹匠〟が伏見城の城下町に集合

歴史ファンならピンときそうな「鷹匠」というワード。幕府や大名家において、タカの飼育や修練などを担った役職です。伏見区役所周辺の「鷹匠町」は、そんな「鷹匠」が多く住んでいたことに由来。

「この辺りに金札宮(きんさつぐう)を鎮守とする久米村がありましたが、豊臣秀吉が伏見城を築いたのに伴い城下町となって、村ごと強制移転に。その後、鷹匠町が形成され、各大名の『鷹匠』が集住しました。徳川家康が江戸に移ると鷹匠たちも去り、久米村の住民が戻ったそうです」

松ケ崎狐坂(まつがさききつねざか)/左京区

難所とされた土地がキツネのすみか?

宝ヶ池通のトンネルで岩倉へ抜けるヘアピンのようにカーブする急な坂道は、「狐坂」と呼ばれるかつての難所でした。

「キツネは化かすという負のイメージを持つ半面、信仰の対象で、恐ろしいからこそすがるという二面性があります。『狐坂』はキツネが出る坂という説や、急な坂を表す『キツ(急)』『ネ(峰)』と解釈する説が存在します」

そのほか、山科区にも「狐塚」「狐藪」というキツネにちなむ地名がありますよ。



<教えてくれたのは>
京都地名研究会事務局長
京都精華大学特任教授
入江成治さん

京都市動物園

グレビーシマウマの赤ちゃん(右)。最近はお母さんのエサをつまんで食べることも

7月にシマウマの赤ちゃんが仲間入り

7月24日、京都市動物園でうれしい出来事が。グレビーシマウマのオスのナナトと、メスのミンディーの間に、2頭目の子どもが誕生したのです。「性別はオス。誕生時は体が小さく心配しましたが、順調に育って元気に走り回っています」とスタッフ。「シマウマの赤ちゃんは産まれたときからしま模様。体毛は親のように直毛ではなく、少し縮れてモコモコしているのが特徴です」。そんなキュートな姿が、早くも来園者の注目を集めています。

●京都市動物園=TEL:075(771)0210

京都水族館

猛スピードで泳ぐ水中での様子から一転、陸上ではペタペタ歩くかわいらしい姿を見せてくれます

ペンギンと京都の通りの意外な関係とは

まる、あや、てら、むろ…。京都水族館にいる59羽のケープペンギンの名前の共通点、それはいずれも京都の通りに由来しているということ。「まる」は丸太町通、「あや」は綾小路通、「てら」は寺町通、「むろ」は室町通です。中にはペンギンなのに「たこ」(蛸薬師通)といった名前も! そんなペンギンたちの気になる恋愛事情や性格は「京都ペンギン相関図2020」で詳しく紹介。同館のペンギンエリアやホームページでチェックしてみて。

●京都水族館=TEL:075(354)3130

(2020年10月3日号より)