最近、京都ではさまざまな屋台が人々をつないでいます。店主の思いも乗せて町に現れているようで…。今回はそんな屋台の魅力に迫りました!
撮影/山﨑晃治(1面、屋台いなば)
アイデアや特技を生かして通りすがりの人と気軽に交流
5月下旬、鴨川デルタには、折り畳んで持ち運べる〝モバイル屋台〟があちこちに。風車作り、本の交換など、集まった11軒はどれも個性豊か。物を販売する屋台とは一味違っています。
モバイル屋台を持ち寄り、通りすがりの人と交流していたのは「モバイル屋台つくろう・たのしもう」のメンバー。屋台を作るワークショップを開いたり、イベントに出店したりと、20人以上が活動しています。
この日、ビールの原材料・ホップのお茶を無料で配っていたのは、同グループ代表の橋本千恵さん。「中京区役所の屋上でホップ栽培を通した仲間づくりをしています。コロナ禍で集まりづらくなったとき、少人数で活動できるようにとモバイル屋台を作ったのが始まりです」
屋台の魅力を尋ねると…、「特技を披露するツールとしての自由さ、そして道行く人が足を止めやすく、交流が生まれることですね。いろんな人と屋台をきっかけに会話ができてうれしいです!」。
梅小路の廃線跡地を活用してにぎわいの場を
〝屋台ストリート〟が登場するのは高架線の上!JR「梅小路京都西」駅西側、2016年に廃線となった梅小路短路線で「梅小路ハイライン」が開催されています。
JR西日本、京都市、「Replace」が協力し、春夏秋のイベントとして実施。約80mに8軒の屋台が並ぶほか、レールバイク体験や地元アーティストのライブなどが行われています。
「梅小路エリアを盛り上げようと2019年から開始。コロナ禍では地元飲食店を応援できればとの思いも強まり、出店を呼び掛けました」と、JR西日本京都支社地域共生室の別所弘茂さん。
「来場者は近隣住民が多く、『屋台のお客さんが店にも来てくれた』と喜ぶ出店者もいます。出店者同士の情報交換の場にもなっているみたいですよ」
京都タワー、東寺、新幹線といった、高架線上ならではの景色も見どころです。
因幡薬師前、約65年続いたおでんの店が復活
金・土曜の夜、因幡薬師(下京区)の前におでんの屋台が現れます。それが「屋台いなば」。約65年続けていた先代店主が亡くなり2018年に閉店しましたが、2021年11月、息子夫婦が再オープンさせました。
「昔からの常連さんは昔話をたくさんしてくれます」と店主。取材時も、常連客から「このカウンターは先代のときから使っていましたよ」と声が上がります。
「SNSを見て若いお客さんも来店。屋台を始めなければ出会わなかった人と話せるのが楽しいですね」と言う店主は、現在62歳。「体力の限り続けたいです」と話していました。
東南アジアを旅して研究 「路上でのつながりを日常に」
屋台をリサーチし、設計、製作も手掛ける―。〝屋台研究家〟下寺孝典さん(「TAIYA」代表)の研究のきっかけは、大学の卒業制作を通して路上でのアクティビティーに関心を持ち、東南アジアを旅したことでした。
「人と関わる接点をつくる屋台をたくさん目にし、興味を持ちました。調査で分かったのが、屋台を作る人、売る人、使う人、修理する人という〝生態系〟のサイクル。日本にもこのサイクルを根付かせ、路上をもっと人とつながれる場にしたいです。今はどこも町並みが似てきていますが、さまざまな屋台が並べば地域性も出ると思います」
京都は屋台が少ないものの、最近はテイクアウトの需要に応える形で増えている印象とのこと。
「店を構えるコストが低く、商売に挑戦しやすいのはメリットですね。神出鬼没で、使う人ごとの個性が現れる、そうした屋台の面白さを多くの人に知ってもらえたら」
(2022年8月20日号より)
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