18歳で成人に 大人になるってどういうこと?

2022年3月11日 

リビング編集部

4月に成年年齢が20歳から18歳に引き下げられます。ですが、〝大人〟という概念は必ずしも年齢で区切れない場合も。〝大人になる〟とはどういうことなのでしょう。この機会に考えてみませんか。

※2021年12月にリビング読者と府立東稜高校にアンケートを実施。有効回答数1059
イラスト/かわすみみわこ

携帯電話やクレジットカードを1人で契約できるように

成年の定義が見直されるのは約140年ぶりのこと。4月から成人となる18歳・19歳にはどんな変化があるのでしょう。

例えば、携帯電話を購入する、クレジットカードを作るといったさまざまな契約が親の同意なしにできるように。10年有効のパスポートの取得や、公認会計士・司法書士などの国家資格に基づく職業に就くこと、性別の取り扱いの変更も可能になります。一方でお酒やたばこの解禁、競馬やオートレースといった公営競技の年齢制限は20歳のまま。女性が結婚できる年齢は16歳から18歳に引き上げられます。

法律ではこのように〝大人〟と線引きされますが、「経済的に自立してからが大人」「お酒が飲めるのが大人」など、人によって考えは違うもの。読者アンケートでもいろいろな意見が寄せられました。

読者に聞きました何歳から〝大人〟だと思う?

50代以下の最多回答は「20歳」ですが、60代以上は「18歳」が上回る結果に。4年制大学卒業時を意識した「22歳」との回答もありました

〝大人になる〟ってどういうこと?

自分の意思をTPOで使い分けできること。人の痛みを思いやることが身についていること。できれば経済的に、心理的に自立していてほしい(60代)

責任感があること。他人を理解すること。自分を見つめ直すことができること(70代)

社会の中の義務と権利を理解していること(30代)

一般的な常識が身についており、人と自分との考えの違いを容認できること(40代)

「自分自身という人間を理解できたとき」かと思います! 人生の節目である還暦が大人になれるときなのかも(50代)

親から心配されないということ(10代)

相手の立場に立って行動できる人が大人だと思う(10代)

自分の人生について、自分の意思で決定していくこと(20代)

責任、ルールの中で生まれる自由

1面の質問に続いて読者に尋ねたのは、「大人になって大変だったこと」「大人になってよかったこと」です。

大変だったことには「仕事や家庭における責任が重い」「社会的ルールに縛られ、協調性が求められる」、よかったことには「自分の考えで行動できる」「いろいろな人と出会い、視野が広がった」といった声が上がりました。経験を積んだ大人だからこそ、さまざまなつらさ、喜びがあるのかもしれませんね。

大人になって大変だったことは?

答えのない問題に直面し、その選択次第で自分の人生が変化していく。しっかりと計画せず判断を見誤ると思いもよらない方向に行った(50代)

それ相応の責任を持ち、またそれを当たり前に期待され、応えなければならない。甘えや逃げ道は基本的にない(60代)

団塊世代の私は職場でパワハラ、いじめなどに遭いました。大人社会の厳しさを人一倍経験したのでつらかった(70代)

納得できなくても我慢が必要な場面がぐっと増えた。嫌だ、許せないなどの気持ちをすぐに爆発させず、考える時間を自分で設けなければいけない(20代)

結婚しているか、仕事をしているか、子どもはいるかなど、周りの基準で判断される(30代)

親、祖父母、義理の親や親族、先祖(お墓など)、そしてわが子。全てが肩に乗っかってすごく責任が重い(40代)

大人になってよかったことは?

大人になった自覚が芽生えたのは30歳を過ぎてから。自信を持って何でもでき、発言もできて楽しかった(60代)

人とのつながりや自身の考え方に多く影響し、幸福感や達成感を得られるようになった(60代)

いろいろな経験をして視野も広がり、信頼してもらえる意見や行動ができるようになった(70代)

「○○さんの子」ではなく個として見てもらえることが増え、自分で人間関係を広げられる(20代)

親と対等に仕事や社会の話ができる(30代)

若い世代や子どものことを応援できるようになった(40代)

やりたいことが好きにできる! でも、大人なので分別がついて諦めがち…(50代)

各分野から

「〝大人になる〟ってどういうこと?」との問いに、各分野の専門家が答えてくれました。参考にしながら、自分なりの考えを深めてみては。

人の心を動かすのは蓄積された言葉

同志社大学
文学部国文学科 教授
山田和人さん

「江戸時代以前は12~16歳頃で成人するなど、大人の線引きは時代や社会によって変わります。本学には一般教養の科目に、チームで課題を見つけて社会と関わる実践的な授業があります。そこで学生を見ていると、社会の求めることと自分がやりたいことのすり合わせをするときには、周りを納得させるだけの言葉が大事だと感じます。経験を積んで蓄積される社会的な語彙(ごい)が身についていることが、大人の条件といえるのではないでしょうか。

他者からの指摘ではなく、自分で自分の立場をきちんと理解するのも大人。ルールを決めて自ら行動する自律性を持ち、提案を相手にも『やってみたい』と思わせられるような面白い大人を目指していきたいですね」

自分自身やTPOを知ることで生まれる楽しみ

Bar Rocking chair
(バー ロッキングチェア)
坪倉健児さん

「お客さまの中には『成人したら来てみたかった』と話す方も。お酒の味も分からないし、バーは大人っぽすぎて、とはじめは不安に思うかもしれません。若い頃は苦いだけだったビールがおいしくなるように、経験を重ねることでお酒の味わいはより深まってくるといわれています。

バーは20歳以上なら誰でも入れる、開かれたパブリックな存在。自由だけれど自己責任が伴います。自分のアルコール許容量やTPOを理解してバーをうまく活用するのも、大人の楽しみの一つ。お酒が弱い方は入りづらいかもしれませんが、バーテンダーが相談にのってお好みに合うものをご用意します。嫌なことがあっても切り替えて明日へ、バーはそんな大人たちの社交場として楽しんでほしいですね」

さまざまな〝ズレ〟の気づきにより広がる視野

京都女子大学 発達教育学部
心理学科 准教授
稲塚葉子さん

「大人として扱われるときや大人にならねばと思うとき、ストレスを感じることがありますよね。その要因の一つは〝ズレ〟。大人への変化は、身体・心理・社会面で時期やスピードにズレがあり、心身がアンバランスな状況の中、心が行きつ戻りつしながら進むものです。『もう大人なんだから』『まだ子どもでしょ』といった周囲の認識と自覚とのズレも生じやすく、理想の姿と現実の自分とのズレにも直面します。ここで生じるストレスは悪いものとは限らず、ズレに気づくことは時に視野を広げるきっかけに。少し先を行く先輩から『自分はこうだった』と話を聞けるのは貴重な経験ですね。失敗・成功体験を重ね、過去の自分からの変化を実感することが、大人の自覚につながっていきます」

〝できないこと〟を認め合ってカバー

立命館大学 産業社会学部
現代社会学科 教授
斎藤真緒さん

「今は生き方が多様化している時代。成人後も親の支えがあって生活する人がいる一方で、ヤングケアラー(※)も増えています。大人のモデルがないので、悩む人も多いかもしれませんね。

〝できること〟に注目しがちですが、〝できないこと〟を認められるのが大人なのでは。育児を経験し、そう考えるようになりました。できないことを認め合えば、社会全体での支え合いにつながります。大人のモデルがないということは、自分に縛りを課さなくてもいいということ。イメージしていた大人像との違いを楽しみ、できないことは誰かと共有する。そうした大人が、1人では難しいことをカバーし合える社会の仕組みをつくるのだと思います」

※家事や介護など大人が担うような役割を行っている18歳未満の子ども

(2022年3月12日号より)