グチと明るく付き合うには

2022年2月10日 

リビング編集部

久しぶりに会った友人に家族や会社のグチばかり聞かされてげんなり…。誰でもグチをこぼすことはありますが、いつも聞き役だと疲れますよね。グチを言う人との上手な付き合い方とは? 読者の体験談とともに紹介します。

イラスト/ヤマサキミノリ

  • 母から父のグチが絶えず、同じことを何度も言うので疲れます。その際に『あんたの父親は』という言い方をするので私まで同類のような気持ちに(KY、39歳)
  • 上司からそのまた上の上司のグチを聞かされる。部下としてはどうしようもないし、むしろどう相づちを打っていいのかも分からなくて困る(TS、47歳)
  • 会うたびに近所の子どもたちやその親、スーパーなどのグチを言う知人。プラス思考の話がなく、会うのがおっくうになった(MT、47歳)
  • 自分は不幸だ不幸だとグチる友人。でも話を聞けば聞くほど私よりずっと幸せそう。私は普通に幸せだと思って暮らしてますけど…(MN、61歳)

多くはストレス発散のガス抜き

「グチを言う人は、大きく分けると2タイプいます」と話すのは、京都文教大学 臨床心理学部 臨床心理学科教授で、産業メンタルヘルス研究所所長の中島(なかしま)恵子さん。

「真剣に悩んでいて、解決策やアドバイスを求めている人と、課題を解決する気がなく、ストレス発散のガス抜きで『嫌だなあ』という気持ちを吐き出しているだけの人です」

いつも同じ家族のグチを繰り返す、「会社を辞めたい」とこぼしつつ一向に辞めようとしないなど、聞いていると疲れてしまうケースの多くは後者だそう。

「ガス抜きタイプの場合、グチの原因になっている課題は解決されないので、しばらくするとまたガスがたまって、グチを言いたくなるんです」

マイナス思考行動力に乏しい人は言いがち

中島さんによると、タイプにかかわらず、よくグチを言う人には共通点があるのだとか。

「一つは、マイナス思考であること。例えば、上司に仕事を頼まれたとき、『なんで私ばっかり』と思ってしまう人はグチが多くなりがち。『私の仕事が速いからだわ』とプラス思考ができる人は、あまりグチを言わない傾向があります」

そのほか、課題を解決するための行動力が乏しい、他者の価値観や良い面を客観的に理解するのが苦手、というのもグチが多い人の特徴だといいます。

一方で、いつもグチの聞き役として捕まってしまう人も。このような人には、何か共通点や特徴はあるのでしょうか。

「律義で優しく、人に嫌われたくない、ノーと言えない、上下関係に忠実な人が多いと思います。グチを言う人と聞き役になりがちな人は、課題を解決するための行動力が足りないところが似ているのかもしれませんね」

読者アンケートでも、家庭や職場、友人付き合いなど、さまざまなシーンで「グチを聞かされてうんざりした」というエピソードが寄せられました。反応や答え方に悩む人も多いよう。対処法は以下で詳しく紹介します。

読者のグチとの付き合い方

  • 「自分を認めてほしいのだと思うので、ある程度聞いたら『我慢していてえらい』と褒めるようにしている」(SA、38歳)
  • 「心も体も元気な時はある程度聞いて励ましてもあげるけど、疲れているときにグチを聞くとこちらまでネガティブになるので距離を置くようにしています」(MN、61歳)
  • 「電話は疲れるのでなるべくLINE(ライン)で聞きます」(KA、54歳)
  • 「忙しいので『30分くらいだけなら聞けるよ』と時間を制限する。その間はしっかり聞くようにしています」(SS、52歳)
  • 「興味がない場合はある程度聞き流す。でも仲の良い人同士だと、一緒にグチって自分もストレス発散させます」(TM、37歳)
  • 「つい娘にグチってしまう。娘のグチも聞く。最後に『あー、スッキリした』と他の話をし合う」(HM、61歳)
  • 「話を途中で遮ることはしません。話し終えるとほっとした感じになるので、それまでは聞いています」(HM、63歳)
  • 「ある程度は共感するが、『気にせんとき!』とか『他の職場もそんなもんやで』などポジティブな相づちを挟む。不満が多すぎて聞きたくない気分になってきた時は忙しいふりをしてやり過ごす」(YY、49歳)
  • 「職場でいろんな人のグチを聞かされます。同意してしまうと私が言ってたと言いふらされるので、『気づかなかったわ〜』『大変やなー』など、ぼんやりとした返事をして過ぎ去るのを待ってます」(SY、49歳)

ガス抜きの場合は聞き流して。用事をつくって切り上げても

続いて、中島さんにグチを言う人との上手な付き合い方について教えてもらいました。

「まずはタイプを見極めることが大事です。相手が大変そうな状況で解決策を求めている場合はアドバイスしてもOK。より解決につながりそうな人への相談を促すのもいいでしょう。特に、うつなどの精神疾患が心配な場合は、心療内科の医師など専門家への相談を勧めてください」

一方、相手が単なるガス抜きでグチを言っている場合は、自分の意見を一切言わず、「あ〜そうなの〜」「そうですか」と相づちを打ちながら聞き流すのが一番だとか。

「『そうよね』『そうですよね』など、肯定したと受け取られる答え方はNG。自分の感情が引っ張られないようにすることがポイントです」

ある程度聞いたら「頼まれている仕事があって」などと用事をつくって切り上げるのもコツ。

「根が優しい人は、相手がラクになるならと長時間グチを聞き続けてしまいがちですが、それでは疲れます。自分自身の気持ちも大切にして」

同じことを繰り返す人には「3回目よ」が有効

前のKYさんのエピソードのような同じ内容を繰り返すグチには、「その話、3回目よ〜」とやんわり指摘するのが有効とのこと。

「相手を評価せずに回数という客観的な事実だけを伝えることで、相手を傷つけずに言いすぎたと気づいてもらえます。1〜2回は聞いてあげてもいいですが、優しさも3回までに」

TSさんの上司のグチのように、相づちを打ちにくい場合は?

「黙って聞いていないで、『〇〇さんは私にとっても上司だし、どう答えればいいか分かりません』と正直に困惑している気持ちを伝えましょう。大抵の人は『反応しづらいグチをこぼして悪かったな』と気づくものです」

自分が言いたいときは…

自分がどうしても誰かにグチを言いたいときは、どんなことに気をつければいいでしょうか。

「最初に『相談があるんだけど』と切り出すと、相手もただ聞くだけではなく自分の意見を言えるので、ストレスがたまりにくいです。自分自身も、解決策や目標を見つけようという前向きな姿勢になれますよ」

仲の良い友達同士など遠慮のいらない関係なら、お互いにグチを言い合うのも一つの方法。

「読者のSSさんが実践しているように、30分、15分と時間を決めておくのもいいですね」

言う側も聞く側も〝ほどほど〟を心得る必要があるようです。他の読者のコメントも参考にしてみては。

教えてくれた人

京都文教大学 臨床心理学部 臨床心理学科 教授
産業メンタルヘルス研究所 所長
中島恵子さん

気軽に本音を言える場に
学生が通行人のグチを聞く「グチコレ」

午後7時すぎのJR「京都」駅前で、「グチをこぼしていきませんか」と通行人に声をかける若者たち。女性が立ち止まって話し始めると、うなずきながら熱心に耳を傾けます。

これは、龍谷大学大学院実践真宗学研究科で仏教を学ぶ学生を中心とした「グチコレ」(グチコレクションの略)という活動。月に1〜2回、京都市内で通行人のグチを聞き、集めたグチを「他力本願.net」というサイトやSNS上で公開しています。

「2012年11月に、研究の一環として活動が始まりました。孤独感を抱える現代人が気軽にグチを言える場をつくり、グチのマイナスイメージを変えていくことが目的です」とは、グチコレ代表の保々光耀(ほぼ こうよう)さん。

「グチは普段なかなか言えない本音の表れだと考えています。話しているうちに自覚していなかった悩みや本当の気持ちに気づいて、すっきりした表情で去っていく人もいるんですよ。自分のグチを、サイトで他の人が見て共感してくれたらうれしいという声も」。こうしたグチとの付き合い方もあるのですね。

代表の保々さん(前列中央)とメンバーたち。活動を通して集まったグチの数は4000を超えるそう
昨年12月下旬に京都タワー下で行われたグチコレの一場面

他力本願.net
https://tarikihongwan.net/collection_staff/

撮影/山﨑晃治

(2022年2月12日号より)