家事も仕事も一人で抱え込んでいませんか

2021年4月9日 

リビング編集部

「家のことは自分がやらなければ」「人に頼むより自分でやったほうが早い」。そんなふうに考えて家事や仕事を一人で抱え込んでいると、ストレスがたまって体調を崩してしまうことも。読者のアンケートをもとに、専門家とその解決法を探ってみました。

※リビング読者にアンケート。有効回答数642。本文( )内は読者のイニシャル
イラスト/オカモトチアキ

教えてくれたのは

花園大学 社会福祉学部
臨床心理学科 准教授
妹尾香織さん

「抱え込んでしまっている人は、今の気持ちに正直になり、もっと自分をいたわってあげてください。そうすることで、気持ちに余裕が生まれますよ」

要因は、周りの人とのコミュニケーションの少なさにも

「家事や仕事を一人で抱え込んでしまったことがありますか?」という読者アンケートに「はい」と答えた人の理由で多かったのが、「頼める人がいない」「相手も忙しいから」。中には「自分が我慢すれば」という人も。

もしかすると、頼んでみたら助けてくれるかもしれない家族や職場仲間がいるのに、頼むことができないだけという人もいるのでは。

花園大学社会福祉学部・臨床心理学科准教授の妹尾香織さんに聞きました。そもそも、どうして一人で抱え込んでしまうのでしょうか。

「要因はいくつかありますが、他者との関係性でいうと二つあります。

一つはコミュニケーションが少ないこと。特に人に頼みにくい、自分でやってしまうという人に見られます。普段から、ご近所の人にあいさつをしておく、雑談で自分のことを話しておくなどすることで、困ったときに助けてくれるかもしれません。

二つ目は、弱い人間と思われたくないという気持ち。他者から手助けを受けるということは、自尊心を脅かされるということにもつながります。助けられることで弱い立場に置かれてしまうと思ったり、こちらも助けなければと思い、頼ることをためらったりしてしまうようです」

自分に厳しく努力家の人は、抱え込みやすい傾向に

「〝私〟や〝自己〟の中にも要因はあります」と妹尾さん。

「理想が高くて自分に厳しく努力家で、何事もうまくやりたいと思っている人は、抱え込んでしまいやすいようです。

〝専業主婦とはこうあるべき〟や、〝主婦ならやって当然〟といった、自分の頭で作り出した理想の姿に縛られている可能性があります。例えば、完璧にできたと思う料理をSNSにアップしたとします。ほかに自分よりもっとすごい料理をアップしている人がいると分かると、〝あるべき姿〟に到達していない自分に対し、『まだまだだめだ』と落ち込んだり、厳しく責めてしまったり。さらに、『頑張っているのに認められない』と不安になり、他者に対して怒りの感情が湧いてしまうことも。ストレスを抱えてしまう人もいます。

そうなる前に見方を変え、周りに助けを求めるなど、もっと自分をいたわってあげることが大切です。〝私がやるべきこと〟の中の一つでも手放すことで、随分と気が楽になりますよ」

読者の三つのケースに対して、それぞれに具体的なアドバイスをもらいました。

家族をチームとして考え、協力し合って

「子どもに手がかかるけれど、料理や洗濯はしたい。自分で何でもやりたい気持ちと、子どもが私を求める気持ちが分かり、なかなか家事ができず、ストレスが多い…」(Yさん)

「子どもを産み育てることはとてもパワーがいること。自分だけで何もかもやろうとせず、パートナーや子どもなど、家族を一つのチームと考えて、家事も育児も協力し合うことが必要です。

そんなチームの中にはスキルがない人もいるはず。例えば、パートナーに洗濯物をたたんでほしいとお願いしたらぐちゃぐちゃだったなど。もし自分がやった方が早い、うまくいくと思っているのであればこう考えて。失敗や期待外れがあるのは仕方ない、トレーニングの期間が必要なんだなと、あきらめずにやってもらいましょう。

家事は日々の積み重ね。やればやるほど磨かれていくものですよ」

気持ちに敏感になり、今の自分を認めて

「専業主婦なので、家事・育児は私がやらなければと思い込み、体がしんどくなっても言えずにため息ばかり…」(Kさん)

「こちらのケースは〝良いお母さん〟〝良い妻〟を目指している気がしますね。専業主婦としての理想が高く、家事をうまくやりたいと頑張りすぎているようです。(先ほどもいいましたが)頑張りすぎて体調を崩してしまうのでは元も子もありません。

家事が気持ちよくできない、できなくて腹立たしい、楽しくないなど、自分の気持ちに敏感であることが、健康に生きるために必要なこと。楽しくないと思った時点で、家事の水準を落としてみる、または具体的にパートナーに頼むのがよいでしょう。

誰も手伝ってくれないと怒っているのであれば、その感情を外に出してみることが大切です。〝今の自分〟を認めてあげられるようになると、人に頼み事をしてうまくいかなかったとしても、余裕を持って接することができるようになりますよ」

つらいなら、周りの目を恐れないで

「職場で先輩に仕事をお願いできず、一人でやってしまって残業になる」(Tさん)

「こういうケースで悩んでおられる方は多いと思います。もしかしたら、〝きちんとした人〟に見られたいという承認欲求が根底にあるのかもしれません。仕事をほかの人にお願いすることで『あいつは頼りにならない』と思われるのが怖いと感じ、頑張ってしまっているのかも。

ただ、自分でやったほうが楽、仕事は大変だけれど達成感がある、というのであればあえて自分を変えなくてもいいと思います。ですがそのために〝残業ってつらい〟と思う状況であれば、それは周りに助けを求めるタイミング。

いずれも仕事が楽しいか楽しくないかさえも感じないくらい追い詰められているのであれば、〝できない人〟でもいいんです。周りからの目を恐れず、うまくやることよりも〝つらい〟という気持ちを優先し、先輩や仲間に伝えて。そうすることで余裕ができ、先輩や仲間との関係もよくなっていきますよ」

頼ってよかった!

読者たちのエピソード

家事&育児

残業続きで家事ができないことを家族に伝えたら、夕食は出前をとったり、買ってきてくれたりするようになり、負担が減りました(Hさん)

子どもの習い事の送り迎えを、一緒に通うママ友と交代にすることで、とても助かっています(Tさん)

夫が早く帰れるときに洗濯をお願いしたのですが、それだけでもだいぶ楽になりました(Tさん)

夫に子どもの寝かしつけやお風呂を任せることに。私も休まるうえ、夫も子どもとの貴重な触れ合いの時間になっているようです(Fさん)

子どもたちが率先して家事などを手伝ってくれるようになり、家事の大変さも分かったと言ってくれました(Hさん)

早朝に、こだわった朝夕のご飯の準備をしていたら体調を崩してしまって。職場の先輩に相談したら、手抜きの食事でも余裕をもって楽しく食べることが大切だと教えてもらい、楽になりました(Kさん)

仕事

一人で抱えずなるべく共有するくせをつけているため、子どもが病気などで急に休むことになっても、仕事を任せやすかったです(Uさん)

常連客を接客中、ほかの客をアルバイトの大学生に頼むことに。結果、その客は満足され、人に任せるのも大事だと感じました(Nさん)

後輩に簡単な作業を頼むようにしたら、思いのほかはかどりました(Kさん)

今の職場は、自分の弱いところを正直に伝えて、カバーしてもらっています(Sさん)

介護は抱え込む前に地域の公的窓口へ相談を

「一人っ子なのでほかに頼る人がおらず、
親の介護を自分一人ですることに」(Hさん)

家事、仕事に加え、Hさんのように介護の面でも抱え込んでいる人もたくさんいました。自分一人または家族だけで介護をするのは、なかなか大変なこと。

京都府健康福祉部高齢者支援課、介護予防・認定係主幹兼係長の田中弘和さんに聞きました。

「高齢者や、そのご家族が住み慣れた地域で安心して暮らせるように、保健、医療、福祉の面から総合的に支援する公的な相談窓口として、『地域包括支援センター』があります。

保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどのスタッフにより、各種制度の説明や介護サービスを受けるための手続きのお手伝いをすることもできます。ご自身やご家族の介護のことで不安なことがあれば、一人で悩まず、お気軽にお近くの地域包括支援センターにご相談ください」

まずは、近隣の同センターに連絡してみて。介護保険サービスや、生活の小さな悩みや困りごとの相談もできます。

京都府内の地域の包括支援センターは、京都府地域包括ケア推進機構のホームページからチェックできます。「京都府 地域包括支援センター一覧」で検索してみて。介護がまだ先という人も、一度確認しておきましょう。

https://www.kyoto-houkatucare.org/counseling-service/center-list/

(2021年4月10日号より)