
仕事に家事にと、大人は日々のやるべきことに追われて心労も多いですね。そんな中で注目されているのが「メンタルヘルス」。専門家に心のSOSサイン、自分でできるケア方法、困ったときの相談窓口などを聞きました。
イラスト/フジー
だるい、眠れない、些細なことでイライラ…
それは心の不調が原因かも
〝メンタルヘルス〟とは、一般的に〝心の健康状態〟を意味するそう。では、心が健康とはどんな状態なのでしょう。
「自分のしたいこと、しなければいけないことが普段通りのテンポでスムーズにできている。そういう状態は、心の健康が保たれていると言えます」とは、京都府立医科大学精神機能病態学准教授の富永敏行さん。
「ストレスがかかって辛くなると、いつもなら気にしないことをくよくよ考えたり、ちょっとしたことでイライラしたりと気持ちが乱れやすくなります。また、頭痛やだるさ、食欲不振、寝つきが悪いといった不調も生じます。日本人はメンタルの不調に鈍感で、自分で気づかないことが。その代わりに体調や眠りなどに影響が出やすいようです」
厚生労働省の2023年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、過去1年間にメンタル不調で1か月以上休業または退職した従業員がいた事業所の割合は13・5%。近年、こうした不調を抱える人は増加傾向にあり、予防や対策の必要性が高まっています。
取り巻く環境、自身の変化がきっかけになることも
現代はストレス社会。メンタルが不調になる原因はあちこちに潜んでいます。職場なら、仕事量が多い、やり方が合わない、対人関係の悩みなどがきっかけになるのだとか。意外に自分でもストレスに気付きにくいのが、在宅の人です。
「専業主婦(夫)や在宅ワーク、介護・育児などで外で仕事をしていない人だと、社会との接点を持ちづらく閉鎖的な環境になりがちです。評価される機会がなかなかなくて、これで良かったのかと不安や焦りを感じやすいと思います」と富永さん。さらに性や年齢が影響するとも。
「女性は月経周期に気持ちを左右され、閉経前後の更年期になると頭痛や肩こり、ホットフラッシュ(急なほてりや発汗)などが起きやすくなります。男性も50代あたりで更年期を迎え、元気が出ない、集中力が低下するという不調が出る場合も」
人生の転機、季節の変わり目なども原因になるよう。
「心や体に違和感を覚えたら、早めに周囲に相談したり、ケアを始めたりしてほしいですね」
予防やメンテナンスに日常的に取り組めるセルフケアを
心身を健やかに保つため、普段の生活に心のセルフケアを取り入れてみては。不調の予防にもつながります。
「たとえば、ショウガ入りのホットレモネードなどを飲んで体を温めると、自律神経が整って新陳代謝もよくなります。お香をたきながらヨガをすると、心身ともに深くリラックスできます。好きな音楽を聴く、推し活を楽しんで発散するのもいいでしょう。自分に合うケアを、できる範囲でしてもらえれば」
周りの人に、自分の不調について話すこともケアにつながるといいます。
「ストレスをためた状態だと、つい悲観的に考えて自分を追い詰めてしまうので、早めに周囲に話してほしいですね。ただし、相手に解決を求めると、叶わなかった際それもストレスに。期待しすぎず、今こんな感じで…と打ち明けてみて。知ってもらうだけでも楽になり、頭を整理できます」
相手から自分とは違う見方や意見を聞くと「そうかもしれないな」と物事を角度を変えて捉えられ、凝り固まった考えがほぐされるそう。
簡単なケアはほかにも。富永さんに教えてもらった方法を下記で紹介するので、参考に。
対策1:外の空気を吸う
家にこもって何もしていないと、嫌なことばかり頭をよぎってしまうもの。外に出て新鮮な空気を吸い、気分を変えましょう。せめて窓を開けて空気を入れ替える、あるいはカーテンをひらいて日光を浴びるだけでも試してみて

対策2:体を動かす
短時間でいいので、近所を散歩したり公園でウオーキングしたり。道端の草花を写真に撮るのを日課にするなど、楽しみを見つけて続けるのが良いそう。体を動かすと睡眠にも良い影響が期待できます
対策3:食事を見直す
偏った食事はさけ、バランスよく栄養をとることも大事。また、さまざまな健康効果が期待できる青魚、リラックス作用のあるGABA(ギャバ)を含む納豆・キムチなどの発酵食品がおすすめです。作り置きやスーパーの惣菜なども活用し、無理のない範囲で食事を楽しむようにして

対策4:日記を書く
頭の中でモヤモヤ考えていることを紙に書いてみると、いわゆる〝見える化〟になって客観視できるのだとか。「悪く考えすぎていたかも」「そんなに怒らなくていいか」などと冷静に物事を捉えられるようになります。ブログを非公開設定にして、記録ように活用しても

対策5:生活に変化を取り入れる
衣替えや模様替え、あるいはスリッパを新調したり、タオルを変えたりするだけでも、いつもと違う環境になってリフレッシュでき、気持ちの整理につながるそう。新鮮さを感じなくなったものから変えてみましょう
家族や同僚の異変に気づいたら〝アイメッセージ〟で問いかけを
家族や友人、同僚など身近な人がメンタル不調に陥っている場合、「SOSのサインはいつもと違う表情や会話、行動です」と富永さん。
「たとえば顔が曇っている、表情が険しい。会話では自分や周囲に対し攻撃的・悲観的な言葉を使うようになった。そして行動面ではそれまでの趣味をしなくなり家でぼーっとしている、友人と会うのを楽しみにしていたのに断って一人で過ごしている、などですね」
サインに気づいた場合、どう対応すれば?
「本人が不調を自覚していない場合もありますから、いきなり『何か辛いことがあった?』などと気持ちのことを聞かず、体調面について尋ねてみましょう。そのときは主語を『私』にした〝アイメッセージ〟で声かけを。『体調が悪そうで、私は心配やわ』と伝えると、相手は強く言われた感じがせず、話しやすくなると思います。話してくれたら、急かしたり否定したりせず、ゆっくり耳を傾けて」

悪化する前に専門の相談窓口へ
自分や身近な人の不調を長く放っておくと、少しずつ心と体がむしばまれ、深刻な状況になってしまうかも。どんな病気のリスクがあるでしょうか。
「うつ病やパニック障害、あるいは睡眠障害・不眠症、もともと自律神経系が弱い人だと胃炎や胃潰瘍といった心身症(精神的ストレスがもとで、体に変調が現れる疾患)などのリスクが高まります」
受診の目安は、一般的にメンタル不調の状態が2週間以上続いた場合といわれます。「心療内科、それとも精神科?」などと迷うかもしれませんが、「どちらでも診てくれます」と富永さん。
「更年期の年代であれば女性はまず婦人科、男性は泌尿器科に足を運んでも。誰でも疲れが溜まれば心も体も不調になるもの。受診を恥ずかしがったり、『この程度で』と遠慮したりせず、深刻な状態になる前に専門家と話してみるのが大事だと思います」
主な相談先
◎こころの相談電話よりそいホットライン
フリーダイヤル:0120(279)338
厚生労働省の補助金事業として行われている電話相談。24時間対応。悩みの種類によって専門の相談員が話を聞いてくれます。チャット・メールによる相談は同事業の「困りごと情報提供(よりそいホットラインチャット)」(https://comarigoto.jp/)へ
◎職場
社内の健康管理室/保健管理センター/産業カウンセラー
◎医療機関
心療内科/精神科/メンタルクリニック

教えてくれたのは
京都府立医科大学
精神機能病態学
准教授
富永敏行さん
(2025年2月15日号より)
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