人生の終わりのための活動、「終活」。実際どのくらいの人がどんなことをしているのでしょう。3人のリアルな終活を紹介するとともに、プロにコメントをもらいました。
イラスト/オカモトチアキ
家族と自分のために
終活、というと高齢者が行うもの、というイメージを持つ人もいるのでは。しかし、リビング読者にアンケートを取ると、20代でも約1割が「行っている」という結果に。年齢が上がるにつれその割合は増加。
内容としては、「私物など身辺を整理する」「財産の情報をまとめる」「今後のライフプランを考える」などが上位になりました(上表参照)。
終活を行う理由で最も多かったのが、「家族に迷惑をかけたくない」。終活カウンセラーの小笹美和さんは、「それも大切ですが、まず自分のために終活はあります。資産や人間関係などを整理することで、今後の人生を自分らしく生きられるのです」と話します。
年代や環境の違う3人の読者の終活を取材しました。
【38歳】夫・子どもあり
さだひろさん
30歳から書き始めたエンディングノート
人間関係を見直すきっかけにも
終活のすべては1冊のエンディングノートにまとめている、というさだひろさん。書き始めたのは30歳から。
「当時メディアでよく目にしていたんです。まだ独身だったので、自分に何かあったとき資産などを親が把握できるように、と考えました」
現在は結婚し、幼い子どもが3人。末子の出産が帝王切開と決まったとき、万が一のことがあっても困らないようにと、夫にノートの存在を知らせました。「夫婦でも互いの資産などを知らないこともありますしね」
預金口座や暗証番号、証券、保険、メールアドレスなどのほか、葬儀の希望やもしものとき知らせてほしい友人リストも記入しているそう。「2、3年ごとにリストを見直していると、本当に付き合っていきたい人は意外と少ないことに気が付きました」
夫や親に向け、普段はなかなか口に出せない感謝の言葉などのメッセージも書いているとか。
「伝えたいことは文章に残す方が確実なので。
エンディングノートは終活だけではなく、例えば自分が入院したとき夫が保険の内容を確認する、といった場合にも便利だと思います。
今後は家族の状況の変化に合わせて、その都度やるべき終活を考えていきたいです」
小笹さんより
若い世代もぜひノートの活用を
若い人ほどネット証券やネットバンクなどの利用が多く、突然亡くなると財産の詳細がわからなくなることも。エンディングノートで情報をまとめておくと遺族の助けになります。誕生日や年末など更新日を決めておくのがおすすめ。大切な人へのメッセージを書くのも、まねしたいポイントです。葬儀や墓の希望については、その理由も記しておくといいですね。
【64歳】1人暮らし・子どもなし
カヌンナグネさん
実家を手放し私物の生前整理も
高齢者用住宅で新生活を開始
50歳になってから、両親とパートナーを立て続けに亡くしたカヌンナグネさん。「残された実家は母の着物や父の趣味の品など物でいっぱい。ゴミとして処分するしかないものも多く、『こんなにためこんで』と腹が立ったことも」
しかし後に、「親の思いがこもったものもあっただろうに、簡単に処分してよかったのか」と思うようになったそう。それから、自身の生前整理の参考にと「遺品整理士」の資格を取得しました。
「資格好きで、『自然葬アドバイザー』も取りました。家の墓はありますが、私は桜の木の下で樹木葬などがいいですね。妹やおい、めいが花見がてら来てくれるとうれしいです」
今年、高齢者用マンションに引っ越し。しばらく住んでいた実家は売りに出し、私物もかなり処分したのだとか。
「友人たちは『まだ元気なのに早すぎる』と言いますが、体が不自由になってから探すのは大変。それに、実家に一人だと孤独死が怖かったんです。今の部屋には緊急用の呼び出しブザーも付いていて安心感があります」。介護が必要になるまでは、ここで暮らす予定といいます。
「誰もいつ死ぬかはわかりません。死をしっかり見つめると、昨日でも明日でもなく〝今〟を大切に生きていたい、そう感じるようになりました。社会情勢が収まったら、大好きな韓国へ行きたいです。新たな資格の勉強もしたいですね」
小笹さんより
元気なうちに今後の対策を取って
早い段階で不動産の整理や今後の住まいを考えるのはいいこと。認知症になったら自分に合う施設を選ぶことも困難に。実家の「墓じまい」を考えるなら親族にも早めに相談を。また、1人暮らしの方は特に、認知症や要介護になったときのため財産管理などの委託契約を結んでおくとベター。自身の兄弟も年を取るので、おい・めいや第三者も検討してみて。
【72歳】妻・子ども(海外)あり
KHさん
夫婦ともに遺言書を作成して交換
今後へ向けて支出の見直しも
「長くカナダで仕事をしていました。あちらでは多くの人が若いときから遺言書を書いていて、私も30代には作成し公証役場に託していました」と話すKHさん。
帰国後もカナダの市民権を持っていて、現地の銀行に財産を預けてあるそう。「私が死亡した場合は、妻はカナダの公証人や銀行とやり取りをすることになります。ですから、口座情報、暗証番号、銀行や役場の担当者など必要事項はすべてパソコンでデータ化し、プリントアウトとCDで渡しているんです。財産はすべて妻へ。息子は海外で働いているのですが、男一匹、なんとかやっていけるでしょう」
データには葬儀や墓の希望、SNSやメールアドレスといったデジタル情報なども記入。年に数回追加修正をしています。妻も同様にデータを作って互いに交換。
「仕事の書類のほか、趣味で集めていたレコードなどもかなり処分しました。今はネット配信でいつでも聞けますしね」。新聞の購読停止、生命保険の解約、車を手放すなど、現在の暮らしに合わせた支出の見直しも。
「人生を振り返ると後悔ばかりですよ(笑)。これからはもっともっと遊びたい。夫婦で北海道を電車で一周したいです。
日本では、終活というと『死ぬのを待っているのか』という人もいるけれど、残された家族のためになるべく早く始めたほうがいい。最期のとき、自分の希望をかなえるためでもあります」
小笹さんより
遺族のため残したい遺言書
遺言書の作成は日本ではまだ少ないですが、カナダ同様イギリスでも一般的で、〝遺言書は紳士のたしなみ〟と言われるほど。詳細なデータは遺族への思いが感じられますね。財産はすべて奥さまに、とのことですが、息子さんにも遺留分の請求権があります。その点を含め内容を伝えておきましょう。奥さまは日本国籍とのこと。「国際相続」に当たるので、手続きが複雑になることも。詳しい専門家に相談しておくのも一案です。
終活している派
- 家族や子どもに迷惑をかけたくないので。改めて今を大切に生きようと思えた(27歳)
- 結婚は望まないので、一人で生き、死ぬ心づもりが必要。終活を通して今後の資金の不安も出てきましたが…(33歳)
- 近年、誰でも突然死するかもしれないと思うように。終活は覚悟を持って生きるためです(45歳)
- 両親の遺品整理が大変だったので。とりあえず私物を減らすようにしています(59歳)
- 子どもがいないので、妻と幸せな老後を過ごすため(68歳)
- 死後、自分の意志にそぐわない結果にならないよう。家族の混乱をさけるためにも(75歳)
終活していない派
- 子育てで精いっぱい。まだ終活は現実味がない(34歳)
- 意識はしているけれど、親の介護で考えられない(55歳)
- 何から始めればいいのかわからない(63歳)
- 仕事が現役なので、もう少し後にします(71歳)
- すべて家族に任せます(86歳)
終活はいつから、何から始めたらいい?
「終活は〝生きるための活動〟だと考えます。始めるのは早ければ早いほどいいですね。まずは、市販のエンディングノートを購入してみては。その項目を読むだけで、終活の内容がある程度わかります。いきなり全部埋める必要はありません。気になる項目、書ける項目から進めて。書くことで物と心の〝棚おろし〟ができれば、今後どう生きたいかが見えてきます」
財産分与は法令に従うので、遺言書は必要ない?
「配偶者や子どもに財産を残すつもりでも、思わぬトラブルがあることも。子どもがいるなら配偶者と子どもで財産は分割されますが、配偶者が認知症だと財産分割協議に参加できないため、法定後見人を立てる必要があります。子どもが未成年でも同様。子どもがいない場合は、配偶者だけではなく本人の兄弟または親も相続人となります。確実に自分の希望を伝えるためには、遺言書の作成を。特に、公証人役場で作成する『公正証書遺言書』は有効性が高いです」
終活を始めたものの、なかなか進みません
「高齢になると私物の整理が大変になることも。無理な場合は、残してほしいものだけを保管し、そのほかは全部廃棄していいと書き残しておきましょう。処分費を残すのも忘れずに。また、今後のライフプランを考えると、経済的な点などで不安が出てくる人も。その場合は、子どもや第三者に相談し対策を」
家族とはどう共有する?
「終活の内容は早めに家族と共有しておきましょう。財産分与だけではなく延命治療といった終末期の医療の希望、要介護になってからの財産管理の委託など、認知症になってからでは意思を伝えることは困難です。しかし、なかなか子どもからは聞きにくいもの。親から積極的にコミュニケーションを取って。盆、正月など一同が集まる節目に、家族会議を開くのもいいですね」
(2021年10月23日号より)
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