大阪・関西万博に出展! 京都の先進企業に潜入

2024年12月13日 

リビング編集部

いよいよ来年4月に大阪・関西万博が開幕! さまざまな分野の先端的な技術や製品を開発している京都府内の企業も出展予定です。それら各社の未来志向の取り組み、挑戦にかける思いを紹介します。

撮影/桂伸也、深村英司

ワイヤレス給電システムを開発
どこでも電子機器が使えるように

「スペースパワーテクノロジーズ」(京都市西京区)

スタッフの皆さん。前列中央が古川さん。右隣の商品開発部副部長・十河浩二さんは「より大きな電力を、人への影響を考慮して安全に供給することは世界初の技術であり、そこに開発のやりがいがあります」
同社で行ったデモンストレーションの様子。電池を外したおもちゃに給電すると、勢いよく動き続けていました

「固定電話から携帯電話へ通信手段が変わったように、エネルギーの供給も有線から無線になる日が必ず来ます」。そう語るのは「スペースパワーテクノロジーズ」代表の古川実さんです。

同社は京都大学と共同研究を行い、電線やケーブルを使わないワイヤレスの電力供給システムを開発しています。「マイクロ波(※)を無線で飛ばし、受信側で電力に変換します。数メートル先の動いているものにも、自動で電力を送ることが可能です。また、当社が開発した半導体を使うことで、電波を効率よく電力に変えられ、高電力の給電がかないます」

目下、他社と提携して工場向けの同システムをテスト中。JAXAなどと共同で月面探査ローバーへの電力供給も研究しているそう。

「近い将来、一般家庭にもワイヤレス給電を普及させたい。手始めにハンディータイプのワイヤレス送電機を考えています。電気を自由に持ち運びできれば、電子機器を使いたい場所で使えます」と古川さん。

大阪・関西万博では、来場者自身がワイヤレス給電システムを使って物を動かせる仕掛けを用意する予定。「利便性を実感してもらえれば。こんな使い方もできるのでは、という想像も広げてほしいです」

※Wi―Fi、携帯電話、レーダーなどに用いる電波

“バーチャル窓”で安らぎを提供します

「アトモフ」(京都市中京区)

姜さんとバーチャル窓「Atmoph Window」。風景動画はWi-Fiを経由して本体に配信。その風景や場所にまつわる情報も提供されます
烏丸御池近くのオフィスにはエンジニア、デザイナー、セールスなど20人が。世界各地で撮影を行うビデオグラファーとも提携

大阪・関西万博では「当社の展示で世界とつながる体験を」と、姜京日(かんきょうひ)さん。「アトモフ」代表で、風景動画を臨場感のある音とともに映し出すバーチャル窓「Atmoph Window(アトモフ ウィンドウ)」を開発・販売しています。

「動画は約1800本。日本の美しい景色やパリの街並み、ハワイのエメラルドグリーンの海など、世界各所の景色を楽しめます」。国際宇宙ステーションから撮った地球の姿や、映画やゲームの中の風景もあるそう。

「テレビとどう違うの?と思うかもしれませんが、見た人の脳が『窓があって、その先に風景が広がっている』と感じるように作られた製品なんです」。そのため、本物の窓からの景色を見ているかのように、癒やしや解放感を覚えるのだとか。

アメリカの大学院に留学中、部屋の窓から隣のアパートしか見えず、ストレスを感じた経験が開発の原点。画質や構図などを繰り返し検証して今の形にたどり着いたといいます。

「部屋が世界とつながる、SF映画のような体験ができる時代の到来です。いつかこの場所を旅しよう、そんなワクワクする出会いも待っていますよ」

未利用材を使うことで環境保全に貢献

「エースジャパン」(精華町)

「ベンチは亀岡市役所などにも寄贈しました」と判藤さん
大阪・関西万博の会場内に設置されるベンチは公式キャラクター「ミャクミャク」をモチーフにデザイン事務所が造形。釘は1本も使っていないそう

山林で木を伐採した後、使われずに残る木の皮や枝葉を有効活用できないか。「エースジャパン」代表の判藤慶太さんは、そんな発想から研究開発をスタート。未利用材を細かいチップにし、独自の加圧成型法で物流に使う輸送用パレット「京パレット」を生み出しました。

「耐久性はプラスチック製と同程度、耐熱性はマイナス30℃~180℃。ほぼ自然由来で土に返るのが特徴です。傷んだら粉砕して再生も」と判藤さん。環境に貢献する製品として行政や、森林組合などの協力を得られ、「古きものを守り継ぎ先進的な挑戦もする、京都らしい連携がかなった」といいます。

大阪・関西万博では、未利用材を同様に生かし、ベンチ2000台を提供。日差しや雨風に強く、頑丈さや安定性にも配慮されているのだとか。現在、府内各所と連携し原材料を調達中で、小中学生に校内の枝を集めてもらったことも。「自分も万博に携わったと感じてほしいですね」

ベンチは2次元コード付きで、読み込むと伐採した場所・日時などが分かる仕組み。「環境悪化のスピードは速い。多くの人が関心を持って環境問題に取り組むことが急務だと思っています」

老眼や弱視で感じる不便を解消
自動でピントが合うメガネ

「エルシオ」(京都市西京区)

2022年、拠点を大阪から京都に移した李さん。「京都はベンチャー企業への支援が手厚く、企業同士がつながり合える環境だと思います」
スマートフォン操作でピントを調節。眉間のあたりには距離を測るセンサーも

エルシオ」は、カメラのオートフォーカス機能のような、自動でピントの調節ができるメガネを開発中です。

代表の李蕣里(じゅんり)さんが開発を決意したのは、大阪大学の研究者だった頃。「大学の付属病院で弱視の女の子に出会いました。治療には度数の合ったメガネが不可欠なのに、彼女は知的障害もあって見える・見えないを人に伝えられないんです。自動調節のメガネがあれば治療に役立つ。老眼や近眼、乱視などで不便を感じている人の助けにもなると考えました」

そこで、まず取り組んだのが、レンズの開発です。

「電圧によりピントを変えられる液晶レンズを、メガネとして違和感のないほどの薄さや大きさにすることに成功しました」

この液晶レンズを使えば、度数変化にも幅広く対応できるのだとか。現在は、スマートフォン操作で近視用と遠視用にピントを細かく調整できるメガネに採用し、改良を進めています。大阪・関西万博の出展ブースでは、見え方を体験できるそう。

「オートフォーカスメガネには、目の動きを感知する機能を搭載予定。この機能は、眼病などの予防や診断にも役立つ可能性があります。今後は、こういったヘルスケアの分野にも参加していければ」

生態系を把握して森林や農地を有効利用

「サンリット・シードリンクス」(京都市左京区)

代表の石川(手前左)さんとスタッフの皆さん。2020年に設立された同社。研究者と知財・営業などを担当する他業界出身の人も
モニターには万博に出展するブースのイメージが

哺乳類や昆虫、微生物など、地球上に生息するすべての生物が関わり合い、作られている生態系。京都大学発の「サンリット・シードリンクス」が取り組むのは、その生態系の分析と、再構築のノウハウの提供です。

「生物が持つDNAを、独自の技術を用いて分析し、生物同士の相互作用を調べます。相互作用とは、花の蜜を採取するミツバチが、花から花へと移動することで、花粉が広がり他の生物に影響するような現象のことです」と話すのは、代表の石川奏太さん。

生態系を可視化する技術は、森林整備、農地再生、水の浄化、都市の緑化など、多様な取り組みで活用されているとか。

「特に森林整備の分野に注力しています。森林は日本の国土の約7割を占めますが、手入れのされていない放置林の増加が問題に。この技術を使えば、木材を伐採するのに適した場所、発電所に向いている場所などが分かり、土地の有効利用が可能です」

生態系が把握できれば、生態系を壊さないように保護することにもつながります。

「生態系を守り、その価値を最大化することは、環境面でも経済的にもメリットが。今回の万博への出展では、3Dを使って森林が現在から未来へ移り変わる様子を再現します。ブースを体験してもらうことで、生物多様性への意識が高まってほしいです」

※「スペースパワーテクノロジーズ」「アトモフ」「エルシオ」「サンリット・シードリンクス」は大阪・関西万博内「大阪ヘルスケアパビリオン」に出展予定。出展日時については、大阪・関西万博の公式ホームページを参照

(2024年12月14日号より)