「インクルーシブデザイン」という言葉を知っていますか。多様性を考慮したデザイン手法で、最近注目が高まっています。どんな製品やサービスがあるのか、調査しました。
撮影/桂伸也、深村英司
制作過程から〝少数派〟の意見を取り入れて作られています
「インクルーシブデザインとは、障害のある人や外国籍の人、妊婦などマイノリティー(※)の声を取り入れながら、商品やサービスを生み出す手法です。この手法を取ると、結果的にどんな人にとっても使いやすい物が生まれます」と話すのは、京都大学総合博物館准教授の塩瀬隆之さん。
「例えば、目の不自由な人と一緒に新しいカーナビを作ったとして、音声だけで正確に道を伝えるような機能が生まれるとします。これは目が見える人も画面を見ずに運転をすることができて便利ですよね」
誰もが使いやすいことを目的としたユニバーサルデザインとは、「制作過程からマイノリティーの人を巻き込む」という点が異なるのだそう。
「私たちが日常で使う製品やサービスにおいて、〝みんなに優しいデザイン〟というのは、本来難しいもの。〝平均的な人〟というのは存在せず、右利きか左利きかというだけでも変わります。また、バリアフリーの概念だと、障害のない人は対象として省かれがちですし、〝自分には関係ない設計の物〟と思いがちに。インクルーシブデザインは、これを解決するものです」
(※)社会の中で少数派の人
行政や企業の合理的配慮が義務化に
今年4月、「改正障害者差別解消法」が施行され、行政や民間企業による障害者への合理的配慮が義務化に。あわせて博物館法なども同様に改正されています。
「今後、マイノリティーの方を考慮したインクルーシブデザインの手法はますます増えていくでしょう。障害の有無も国籍の違いも、すべて個性として捉え、そのうえで共通化していくのが大切。例えば、オンラインや音声などで授業を受けることを選べるようになれば、不登校という概念もなくなります。製品もサービスも、デザインによって〝使えない人〟〝できない人〟がいなくなる。それが、インクルーシブデザインの魅力だと思います」
教えてくれたのは
京都大学総合博物館
准教授
塩瀬 隆之さん
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各地の公園に増加中
宇治市、長岡京市、京都市で〝インクルーシブ遊具〟のある公園が増加しています。
「西宇治公園」(宇治市小倉町)では、3月に大型の遊具を設置。11月26日にオープンを予定している「粟生畑ケ田(あおはたけだ)公園」(長岡京市粟生畑ケ田)にも、6種類の遊具が取り入れられます。京都市では、7月に再整備された「錦坊城(にしきぼうじょう)公園」(中京区)など、七つの公園で導入されました。
いずれも、色弱の人に配慮したカラーリング。障害のある子どもが友人や保護者と一緒に楽しめるような設計で、誰もが使いやすい遊具として広がっています。
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あらゆる母親の悩みを解決しようとポータブルチェアを開発
「Halu」 松本友理さん
持ち運びができる乳幼児向けのインクルーシブデザインの椅子、「IKOU(イコウ)ポータブルチェア」。阪急電車や京都市動物園、ロームシアター京都など、さまざまな施設に取り入れられています。
開発しているのは、京都市に拠点を置く企業「株式会社Halu(ハル)」。開発のきっかけは、代表の松本友理さんの〝困りごと〟でした。
「私には脳性まひを持つ息子がいるのですが、体幹に障害があり、一般的に〝お座り〟ができる時期になっても、市販のキッズチェアに座れませんでした。ベビーカーもお店では邪魔になることがあるため、行きたいところに行けないことが多かったです」
「IKOUポータブルチェア」を開発したのは、そんな悩みからだったそう。
また、「障害のない子どもの母親と交流するにつれ、外出時の〝困りごと〟は、障害の有無を問わず共通している点が多いと実感して。さまざまな子どもの母親の悩みも一緒に解決したいと思って生まれたのがこの椅子なんです」。
〝皆と一緒に〟が可能に
軽くてコンパクトなこちらの椅子は、外出時に大人用の椅子に取り付けたり、家で床置きにしたり、多様なシーンで活用できます。
「例えば、スタジアムではこれまで『車いす席』しか選べなかった子どもが、一般の席で皆と並んで座ることができます。大人の膝の上に座っていたような小さな子どもも、この椅子を使えば長く安定した姿勢で観戦を楽しめるんですよ」
座面と背面の角度を保ったままのリクライニングを可能にする点も、ミルクや離乳食の嚥下(えんげ)がしやすくなるので、「あらゆる子どもの食事シーンに向いている」といいます。利用者からは「家族皆で食卓を囲めてうれしい」という声も届いているとか。
そのほか、同社では吸収性と速乾性にすぐれたスタイや、着脱しやすいキッズウェアも販売。
自身の経験や周囲の母親の声を生かすことで、新たな商品を生むイノベーションにつながっているようです。
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身近な日用品にも生かされています
「実は、同様の視点や手法を使った商品は身の回りにあふれているんですよ」とは、塩瀬さん。
「例えば、目盛りが斜めになっているオクソーの計量カップは、カップを目の高さまで持ち上げなくても、上から目盛りが見られるようになっています」
靴のメーカー「ナイキ」などが販売している「ハンズフリーシューズ」も、靴紐を結ぶ必要がなく着脱が可能。車いすの人や子どもで両手がふさがれた母親、通学路を急ぐ学生など、さまざまな人の生活に対応することを目指しているのだそう。
「〝ワンハンドプッシュ〟の洗剤、花王の『アタックZERO』も、インクルーシブデザインです。手が震えたり、目が見えなかったりする人だけではなく、誰にとっても便利ですよね」
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こんな取り組みも
〝誰でも楽しめる〟という概念は、商品だけではなくサービスやイベントにも広がっています。
福祉やまちづくりへの学びを深めて
「きたのま:インクルーシブまちづくり図書館」
北野商店街にある、毎週水曜・土曜の午後7時〜10時にオープンする私設図書館(主催/「(株)くらしの伴走者」)。「インクルーシブなまちづくりを考えるきっかけに」という思いのもと開設された、シェア型ライブラリーです。各本棚のオーナーがおすすめする福祉やまちづくり、デザインなどの分野の本が約1300冊そろいますよ。閲読無料。
二人乗りの自転車に挑戦
「インクルーシブ・サイクリング体験会」
障害の有無を問わず、誰もが自転車を楽しめるイベントが、西京極総合運動公園で毎年秋に開催されています(主催/京都市建設局)。視覚に不自由がある人も乗車できる二人乗りのタンデム自転車や、足の不自由な人が手でこいで進むことができるハンドサイクルなどを使って、園路を走ったり、ゲームをしたりするそう。
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(2024年11月23日号より)
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