“京都ならでは”に取り組む人たち

2024年7月26日 

リビング編集部

京都府内ではさまざまな農作物が生産されています。そこで、府内の農業に注目するシリーズをスタート。初回は〝京都ならでは〟にこだわる農作物の作り手に、話を聞きました。

写真/桂伸也ほか

特産品化に向けて暑さに強いオクラを栽培

京都市 黒川尚輝さん

黒川尚輝さん(右)と妻の杏海さん(左)。オクラ作りは今年で4年目です。「なるべく農薬を減らし、環境負荷がかからない工夫もしています」(尚輝さん)

水田が広がる伏見区羽束師(はづかし)。その一角にある畑で見つけたのは、太陽に向かって実を付けたオクラ「京おくら」です。酷暑の近年、盆地の気候を生かして暑さに強い特産品を作ろうと、伏見区、大原野、長岡京市などの農家が中心となって栽培に取り組んでいます。

「オクラは土づくりが肝心。細かくてふわふわの土がベストですが、今年は春に雨が続き、土が乾かず苦労しました。その後は逆に雨が少なく暑かったので、種をまく時期の見極めが難しかったですね。暑すぎると発芽しても枯れてしまうんです」と、前記の畑でオクラを育てる黒川尚輝さん。露地栽培は、天候に大きく左右されるよう。

「収穫を始める6月ごろは、オクラの株が50cmと低いので腰をかがめて作業していますが、最盛期の8月には株が2mまで成長。立って収穫しています」

育ちすぎると実が硬くなるため、炎天下や悪天候でも畑の状態を確認しに行くのだそう。

取材時の7月上旬は、毎日午前中に約40kgを収穫。午後は出荷のための選別と袋詰めを行い、翌日には商品が市場、店頭に並びます。鮮度が一番の魅力とか。

「このオクラを『京おくら』としてもっと広めていきたいです」

「オクラは上向きに成長します。畑を見て驚く人も多いんですよ」と黒川さん
「JA京都中央」の指導のもと、管内のオクラ農家が生産するオクラを「京おくら」として出荷。みずみずしく、ほのかな甘味と粘り気の強さが特徴です。実の柔らかさは新鮮さの証し

より高品質なものを目指して
早朝からハウス内をチェック

綾部市 浦田理沙さん

5年前、事務職から未経験で就農した浦田さん。「やったらやった分だけ成果につながるのがうれしいですね」

トウガラシなのに辛くない­­「万願寺とうがらし」。そのうち、さまざまな基準をクリアしたものは京のブランド産品「万願寺甘とう」として市場に出回ります。現在、万願寺とうがらしの発祥地域である舞鶴市と、福知山市、綾部市でのみ栽培されている地場野菜です。

綾部市栗町の浦田理沙さんも生産者のひとり。3棟のビニールハウスで栽培しています。

「6月ごろから枝が伸び、どんどん実を付けていきます。放置すると養分が分散してしまうので、高品質なものを作るには毎日の剪定(せんてい)と収穫が欠かせません」

約700本の株をほぼ1人で剪定し、早いときは朝5時から1日約140kgを収穫。夜は選別作業を行います。

「この時季、ハウスの中は40℃近くになることも。暑すぎると生育に影響があるので、送風したり、ハウスに遮光シートをかけたりして対策しています」

重労働ですが、浦田さんの表情は楽しげです。

「改善点や失敗点が日々見つかるのですが、その分やりがいがあって充足感があります。どうしたら秀品率を上げられるか、収量を増やせるかと、シーズン中から次のシーズンのことを考えてしまうぐらい、奥の深い野菜です」

「万願寺甘とう」は肉厚で種が少なく、辛味がないのが特徴
収穫は11月ごろまで続きます。品質維持のため、日中はハウスを巡回し、枝の剪定や熟れすぎた実の回収を行うとか

甘さの秘密は栽培方法に ハウス内の管理も徹底

京丹後市 畑中伯文さん

現在、網野町のメロン農家は10人ほど。「今年の出荷は2024年8月12日(休・月)まで。網野町の直売所や通販で購入できますよ」と畑中さん

ビニールハウスの中に入ると、ふわりと甘い香りが漂います。

京丹後市網野町で作られているのが、糖度15度以上を誇る「琴引(ことびき)メロン」。中でも厳しい検査基準をクリアしたものは「京たんごメロン」と呼ばれ、「京のブランド産品」に認定されています。海岸が近い同町は、昼夜に寒暖差があり、メロンの栽培に適しているそう。

話を聞いたのは、この道20年以上の畑中伯文さん。ほぼ1人で、1シーズン(6月下旬〜8月上旬)に約6000玉を出荷しています。

「甘さの秘密は栽培方法にあります。ツルが上に伸びるようひもで固定し、実を宙に浮かせることで糖度が上昇。1株に1玉だけ残して育てるので、養分が集中し、より甘くなるんです」

工夫はほかにも。「収穫の10日ほど前から水やりを止めると、さらに糖度が増します。梅雨どきはハウスの下から雨水が染み込んできたり、湿気で果肉が成長しすぎて割れてしまったりするので、ハウスの気温や湿度、水の管理に一層気を使いますね」

手間を惜しまず育てたメロンは、贈答用として人気が高いそう。

「栽培は難しいですが、綺麗に育ったものを見ると、作ってよかったと思います。ぜひ味わってもらいたいですね」

自然で奇麗なネット(網目模様)が入った「京たんごメロン」。袋をかぶせる(写真右)ことで、果実の日焼けを防ぎます
畑中さんは6棟のビニールハウスでメロンを生産しています

京都府産小麦の魅力を発信

11月ごろから土づくりが始まり、6月に収穫が行われます(2024年の収穫の様子)

「京小麦」という名前を聞いたことがありますか?

京都府下では丹後・中丹・南丹・山城地域で小麦が生産されています。山城地域では、この「京小麦」100%の『京都やましろ食パン』が、5月に発売されました。

「JA京都やましろ 久御山町支店」の立葉(たてば)博之さんによると、「日本でパン・麺用小麦粉の需要が高まっていることを受け、2018年から府内で作る小麦の品種は『せときらら』に統一されました。グルテン量が多く、パンや麺の材料になる強力粉向きの品種です。収穫した小麦は、府内の製粉所で同名の『京小麦』という小麦粉に。こちらを使ったパンや麺は、しっとり、もちもちの食感が好評なんですよ」。

久御山町佐古は山城地域で唯一の小麦生産地。現在、8人の農家で年間6000kg以上を収穫しているそう。

「需要はあるものの、猛暑によるほ場(小麦畑)の雑草被害で今年は収量が低下。生産者の高齢化や減反といった課題も多いのが現実です。われわれとしても、後継者探しや除草のサポートを行いながら収量を増やし、京都府産小麦を存続させたいと考えています。『京都やましろ食パン』の発売をきっかけに、京小麦の存在を知ってもらえたら」

☆「京都やましろ食パン」は「JA京都やましろ」の直売所で販売

教えてくれたのは

JA京都やましろ
久御山町支店
立葉博之さん

農家の支援地産地消の取り組みが実施されています

京都府の農業や農作物について、「京都府農林水産部農産課」に話を聞きました。

夏の「京のブランド産品」写真/(公社)京のふるさと産品協会

京都府ではたくさんの農作物が生産されています。夏は「京のブランド産品」にも認証されている「賀茂なす」「伏見とうがらし」「京 夏ずきん(えだまめ)」が旬。また、キュウリや小玉スイカ、モモなども多数出荷されています。

しかし「昨年猛暑日が過去最多を記録するなど、近年は厳しい暑さが続き、夏野菜の収量の減少や品質低下が毎年発生。農業の現場では高温対策が求められています」と、同課。京都府としてもさまざまな支援を行っているそう。

「諸問題に対応する技術情報を収集し、農業従事者と共有しています。また、スプリンクラーや遮光資材などの導入に補助を行い、その地域に適した対策や栽培技術の普及にも努めています」

現在の気候に合わせて農作物が作られているのですね。私たちに協力できることは?

「地元で取れた青果を買ったり、地元の農産物を使っているレストランなどで外食していただけたら。SDGs(※1)への関心が高まる中、地産地消に取り組むことは環境負荷(※2)の低減や、地域農業や食文化への理解促進になります」

(※1)持続可能な開発目標
(※2)運搬によるCO₂の排出など

(2024年7月27日号より)