夢中を見つけて輝く子供たち

2024年7月19日 

リビング編集部

夢中を見つけて輝く子供たち

〝好き〟が高じて、大人顔負けの知識やスキルを身につけた子どもたちがいます。彼らを支える家族の思いと合わせて取材しました。

撮影/児嶋肇

「目標は金メダル!尊敬される卓球選手をめざしています」

京都市 松島美空(みく)さん /11歳

「自分の強みはサーブとバックハンド」と美空さん

リズムよく響くボールの音。父・卓司さんのサーブに食らいついていく少女が松島美空さん、11歳です。元実業団選手の両親が経営する卓球教室で2歳からラケットを握り、史上最年少の9歳でTリーグ(※)に参戦。女子プロ卓球チーム「京都カグヤライズ」に所属しています。

「下校後は宿題をして少し寝て、そのあと卓球教室で5時間練習しています。土日は各10時間ほど練習。休みは大会の後くらいですね」

ハードながら、「卓球をしている時間は楽しくて幸せ」といいます。もっと遊びたい気持ちは?

「あるけれど、オリンピックの金メダルという目標があるからがんばります」ときっぱり。海外の大会にも出場し、同年代では敵なしの状態だとか。そんな美空さんが目指すのは、どんな卓球選手なのでしょうか。

「強いだけではなく、みんなに応援され尊敬される選手になりたい。そのために、日頃から礼儀なども気を付けています」

(※)日本の卓球リーグ。トップレベルの選手が所属するチームも参加

父母(後列)、妹の愛空(あいら)さん(前列左)と練習場で。兄ふたりも卓球選手
今年はドイツなど海外の大会ですでに三つの優勝トロフィーを獲得

支える家族から

「私はほかの家庭では想像できないくらい厳しく指導しています。教えるというより一緒に戦う気持ちですね。その分母親は練習でも生活でも優しく接しています」(父・卓司さん)

「2歳から飼っているカブトムシ。将来は海外でも昆虫の研究を」

京都市 矢野翔大(かいと)さん/9歳

「チョウやナナフシなど30種以上の昆虫を飼っています」と翔大さん。懐いて寄ってくる虫も

史上最年少の5歳で日本昆虫協会主催の「夏休み昆虫研究大賞」で銀賞を、小学1年生で金賞を受賞。テレビ番組にもたびたび登場する〝昆虫博士〟こと、矢野翔大さん(9歳)。「2歳10カ月で、つがいのカブトムシを飼ってから昆虫が大好きになりました」

そのカブトムシの飼育・研究は今年で8年目。中でも力を入れてきたのが、受賞の論文テーマにもなった「幼虫のフンの活用」でした。

「幼虫期に出るフンは1匹平均約7000個。多く飼育していた年は合計約26万個にも。パパ、ママが廃棄に困っているのを見て、何か役に立つものにできないかと考えました」。粉末にする、鉛筆の削りカスと混ぜるなど一人で試行錯誤して炭や線香などを製作。

「幼虫のフンを食べる生き物がいることを発見し、自分も食べてみたいと思いました。鍋で煮たりオーブンで焼いたり、最終的に圧力鍋で蒸すことで無菌化に成功! 世界初といわれています。フンは、あられとして商品化されています」。フンには食物繊維が豊富とか。

現在は毎日午前2〜3時に起きて、昆虫の世話や研究をしているそう。

「将来は海外でも研究して、世界に羽ばたきたいです」

カブトムシの幼虫のフンを使った「うんめいあられ」(「保津川あられ本舗」より販売)を手に。記者も食べましたが、こうばしいサラダ塩味
同じくフンで作製した線香には、「死んだ虫の供養に」との思いを込めて

支える家族から

「『なんで?』という疑問から探究心や想像力を養うため、インターネットに頼らず本や新聞で調べるようすすめました。やりたいことをあたたかく見守っています」(父・伸也さん、母・聡美さん)

「古生物のおもしろさをアートで広めていきたい」

宇治市 尾上瑞紀(みずき)さん/13歳

玄関でお気に入りの一枚を持つ瑞紀さん。背後には古生物・カメロケラスの立体作品が

扉を開けると、大小さまざまな造形作品や絵がずらり。アンモナイトや三葉虫など古生物をモチーフに作品を作る〝古生物アーティスト〟として活躍する尾上瑞紀さん(13歳)の自宅玄関です。

「有史以前の生物の現代にはない形や見た目が魅力」と話す瑞紀さん。幼児期に図鑑で見て夢中になり、紙という紙にそれらの絵を描くようになったそう。ここ数年は主にタブレットのペイントアプリを使用し、1日に3作品ほど制作しているといいます。それを母・夕香里さんがSNSにアップすると次第に注目を集め、今ではメディア出演のほか、展覧会や店舗からの制作依頼など引っ張りだこに。

「古生物は研究者によってどんどん新情報が出てきて飽きない」といいます。関連して古生代や中生代などの地質学にも興味津々です。

今後の目標をたずねると、「SNSでバズりたい」と意外な答えが。

「マニアックな生物のおもしろさを、同世代にももっと広めていきたいです」

古代魚をタブレットでさらりと描いてくれました
粘土の立体作品も多数。3、4cmのものなら5分ほどで作れるそう

支える家族から

「8月には瑞紀を含め学生アーティストのグループ展を企画しています。毎日好きなものに楽しく取り組むことが、子どもの未来をひらくと思います」(父・豊さん、母・夕香里さん)

「試合が魅力の競技かるた。大会がなくても続けてきました」

宇治市 棚野葵子(たなのあこ)さん/14歳

頭脳戦でもある、競技かるた。「今後は戦略をもっと勉強したいです」と葵子さん

「はるすぎて なつきにけらし しろたへのー」

百人一首の歌が流れると同時に、畳の上の札が飛びます。瞬時に札を払ったのが、棚野葵子さん(14歳)。通っている中学校の競技かるた部で週3日練習に励んでいます。

同じく競技かるたをしている姉の影響で小学3年生から始め、中学2年生で全日本かるた協会が定める四段・A級に昇格。最上位のA級は名人・クイーンなども所属し、葵子さんと同年齢の選手は現在全国で数人だけなのだとか。

「コロナ禍で大会がなくなったときも、家で札を払う練習など地道に続けていました。そのあと大きく昇級し、よりがんばろうと思えたんです」

部活や自主練習以外にも、土日は所属する「京都小倉かるた会」で朝から夕方まで試合形式の練習。集中しすぎて頭が痛くなることもあるそう。

「年齢、性別で区分けしない競技かるたの試合。いろんな展開や勝ち負けがあるのが楽しいです。一日中でも試合をしていたい」と話してくれました。

思い入れのある四段の免許状と、中学1年で優勝した「全国中学生選手権大会(団体戦)」のメダル
お気に入りは歌人・大江千里の一首

支える家族から

「地方の大会にできるだけ出られるよう同行し、競技かるた部がある私学への進学も応援してきました。かるたに打ち込むわが子は、親から見てもかっこいいです」(母・順子さん)

「つきない古墳の謎を追求するのが幸せ」

京都市 西脇導宣(みちのぶ)さん/12歳、大智(だいち)さん/9歳

導宣さん(左)は古墳キーホルダー、大智さんはウワナベ古墳のクッション。お気に入りのグッズとともに

「大仙陵古墳は未完成ではないか」「箸墓(はしはか)古墳は卑弥呼(ひみこ)のお墓では?」。そんな熱いトークを繰り広げるのが、古墳に魅了された西脇導宣さん(12歳)・大智さん(9歳)兄弟。

2022年度、2023年度の「kid’s考古学新聞コンクール」(kid’s考古学研究所主催)では、「古墳の保存と破壊」「おすすめの石室」などのテーマでふたりそろって連続入賞。多いときは毎週のように各地の古墳や遺跡を訪れ、小学校では古墳部(非公認)を立ち上げるほどの熱中ぶりです。

純粋に古墳巡りが好きだという大智さん。導宣さんは考古学全般に興味があるそう。「古事記」「日本書紀」なども参考に、日々研究・考察を続けています。各地を巡るうちに考古学研究所や博物館の研究員などとも親しくなり、わからないことがあれば連絡して教えてもらうのだとか。

「興味のあることを追求するのは自分にとって当然で、『なぜだろう』と考える時間が何よりも楽しい。それは、『考古学をもっと知りたい』という夢をかなえている時間です」(導宣さん)

部屋には古墳や遺跡のグッズがいっぱい
「古墳部」の活動をまとめた会報誌も発行

支える家族から

「古墳巡りに同行するほか、子どもの知りたいことのヒントになる情報を集めたり、資料本を購入したり。自分も好きな分野なので一緒に楽しむスタンスです」(母・愛さん)

(2024年7月20日号より)