京都市長の松井孝治さんに聞きました

2024年5月17日 

リビング編集部

2024年2月25日に新・京都市長に就任した、松井孝治さん。
京都への思い、これからの市政について話を聞きました。

(聞き手/京都リビング新聞社編集部長 山舗恵子)

豊かな〝生活文化〟次世代つないでいきたい

公の教育が優れているまち
その価値はプライスレス

京都で日常生活を送るのは久しぶりと聞いています。変化は感じますか。

「始終京都にいるのは高校時代以来です。烏丸通や四条通などを歩いていると、随分変わったなぁと実感します」

市政については?

「特に良くなったと感じるのは、教育ですね。小学校、中学校の公教育が優れていて、子どもたちは学力の面で高い成績を収めています。

しかし、素晴らしいと思うのは、それだけではありません。先日、あるイベントでお会いした華道の家元が『これから小学校に教えに行くんです』と話されていて。驚きました。東京では高い月謝を払っても、直接習える機会などそうないような方が学校へ来て無償で教えてくれる。それが京都なんですね。学校で伝統文化が体験できることは、非常に値打ちがあると思います。

私は高校時代、友人たちと南座で顔見世を見ました。3階席の後ろの方で、その時は話の内容もよくわかりませんでしたが、記憶に鮮明に残っているんですね。こうした経験はお金で買えない、プライスレスです。本物に触れられる場がいつも近くにある、そんなまちは、なかなかありません」

住んでいると当たり前になって、恵まれていることに気づかないかもしれませんね。

「生活の中に文化が染み込んでいるんですね。人生の半分を市外で過ごした私からすれば、京都は教育の環境が本当に豊か。これから結婚し家族をつくっていくような若い世代の人たちに、子育てするまちとして選んでもらいたいです」

若い世代、子育て世代を支援する政策については、いかがでしょう。

「京都市が暮らしやすいまちかというと、市中心部の新築物件の価格が高騰しているなど課題もあります。せっかく良い教育環境があるのに市外へ出てしまうのは惜しいですから、市内で住もうと思ってもらえる〝呼び水〟のような政策を進めていきたい。

今、京都市は住宅の耐震化率を95%まで引き上げることを目標に〝まちの匠〟と呼ばれる地域の職人さんと連携し、京町家や木造住宅の耐震・防火改修を支援しています。例えばその延長線上で、古い町家に若い世代が住むライフスタイルを行政が応援できないか、検討しています。代々手を入れながら住み続ける、これも京都スタイルだと思うので」

学校を利用した新たな地域づくりを

京都では、かつて町衆と呼ばれる市民が自治を担っていました。市民の皆さんと一緒に取り組みたいことはありますか。

「そういうことだらけですね。一つ挙げると、学校を活用した地域づくりです。

京都市の小学校はすべてコミュニティー・スクール制度が導入されていて、地域の人たちが学校の運営や教育のあり方に意見する協議会に参加しています。その学校を地域に還元するというか、地域のコミュニティーを活性化する拠点にしたいんですね。

例えば、ボランティアの人が子ども食堂を開いたり、地域の人たちの健康相談にのったり。学校という身近な施設に、さまざまな機能を持たせられるのではと考えています」

学校が子どもたちだけの場でなく、いろいろな世代の人が利用できる、地域に開かれた場所になるということですか。

「体育館は災害時の避難所になります。観光客の防災減災にもなるので、宿泊税の一部を使って空調を整備するなど、財源を組み合わせながら新しいことを考えたい。それは地域の中で安心して安全に暮らせるまち・京都をつくっていくことにつながると思います」

〝京都ならでは〟を残すために

座右の銘は「義理と人情と痩せ我慢」だそうですね。痩せ我慢とは?

「ちょっとだけいい格好すること。

私が30代のとき、初めて行った老舗のバーで、たまたま隣に居合わせた方が知らぬ間に私の勘定を払ってくれていました。バーテンダーに聞くと『この店の客は皆そうして先輩からごちそうになってきた、だから後輩に同じことをしている』と。格好いいじゃないですか。私も、痩せ我慢してでもそんなふうになりたいと(笑)。

仕事場でも次の世代に後ろ姿を見られていると意識し、頑張るということです。

そのバーテンダーは、こうも言っていました。『そういう人たちに、この店は支えられている』。これも生活文化です。私たちが、すばらしいと思う店や場所に足を運び、京都ならではの生活文化を残していくことも、大切なのではないでしょうか」

京都の豊かな生活文化を軸とした、〝松井スタイル〟の新しい施策が動き出しているようです。

1960年、京都市生まれ。東京大学教養学部を卒業し、1983年、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2001年、参議院議員初当選。2009年には内閣官房副長官に就任。2013年、慶應義塾大学総合政策学部の教授として教べんをとる。今年2月、第27代京都市長に。趣味は、居酒屋・喫茶・バーめぐり、伝統芸能や古典音楽の鑑賞

(2024年5月18日号より)