「私って姿勢が悪いかも」と思いつつ、放置している人はいませんか。専門家によると、良い姿勢を心がけることは、心身にメリットがあるといいます。どんな影響があるのか、詳しく聞いてみました。
イラスト/かわすみみわこ
お手本はバレエダンサー
デスクワーク中に肩や背中が丸まっていたり、スマートフォンを見ながら首が前に突き出ていたり。これは良い姿勢とは言えないのでは。
なぜ姿勢は悪くなるのでしょう。京都市深草・醍醐地域介護予防推進センターの理学療法士・古川真実さんに教えてもらいました。
「私たちが立っているときや座っているときは重力にあらがって姿勢を保つため、抗重力筋という筋肉で体を支えています。常に力が入っていると疲れるので、無意識に『いかに筋力を使わず楽にいられるか』を探してしまい、姿勢が悪くなるんですね」
では、良い姿勢とは?かつての学校教育では「気をつけ!」の号令で背筋をビシッと伸ばし、胸を張りましたが…。
「良い姿勢は上に向かって伸びるような姿勢、なおかつ呼吸が楽にできる姿勢です。がんばりすぎるのは体に良くありません。バレエダンサーを思い浮かべてください。体全体がすっと上に伸びて見えますよね。そうした姿勢をお手本に、頭に糸がついていて上から引っ張られているような感じ、伸び上がる感覚を持つといいと思います」
歩くときもそうした感覚を持てば、股関節の可動域が広がり、前に蹴り出しやすく、歩幅も大きくなります。縮こまった体が伸びて胸が大きく開くと、呼吸がしやすく疲れにくくなって運動能力も安定していくとか。
「座っているときも頭が骨盤の真上にくるようにすると、体全体で重たい頭を支えられるので、疲れにくく集中力も続きやすくなります。
視線をあげることで気持ちも前向きになりますよ」
悪いまま放っておくと、不調に
「少しくらい姿勢が悪くても大したことはないと、放っておくのは心配です」と古川さん。
「街を歩いていてショーウインドーに映った自分の姿が老けて見えたら、ショックを受けますよね。見た目だけではありません。たとえば背中を丸めた姿勢で長く過ごすと呼吸がしづらくなってあまり歩かなくなるなど、体を動かさないように。特に年配の方はフレイルという虚弱の状態に陥りやすくなります」
悪い姿勢の影響は精神面にも。気分がめいったときのように背中を丸めてうなだれていると、姿勢が気持ちを左右して気分的にも沈んでいってしまうそう。
「良い姿勢でいることで、体にも心にもいいことがあります。日々忙しくしている人も、自分に時間を使ってほしい。姿勢を見直して『ちょっと背筋を伸ばしておこう』などと始めてみるのが第一歩だと思うんです。良い姿勢は積み重ねでつくっていくもの、一日にしてならずなので、日ごろから意識してください」
続いて、日常生活で気をつけるポイントと、良い姿勢に近づける〝背骨と周囲の筋肉を整えるストレッチ〟を紹介します。
クセや習慣、環境を変えてみて
ふだん何げなくしている、自分の行動を点検してみましょう。たとえばバッグの持ち方。いつも同じ側の肩にかけていると、体が傾いてしまうので「違う側の手で持つ、リュックサックに変えるなどバリエーションを増やすよう心がけて」と古川さん。
「自然と同じ側の足を組んでいるなら、すでに背骨が曲がり片側の骨盤が下がっている証拠。それを戻したくて組むんですね。そんな体のサインに気づいたら、ストレッチを」
座り姿勢でいえば、いすの背もたれに寄りかかり、おしりが前に出ているケースも。
「そのように楽な姿勢をとってもいいんですよ。でもエコノミークラス症候群の例もあるように、同じ姿勢を長時間続けるのは良くない。ある程度リラックスしたら、立ち上がって伸ばして」
また、家の環境にも気をつけたいポイントが。
「食事をするテーブルの右側にテレビがあるとします。そちらにしか首を回さないのが習慣化すると、背骨が横に曲がってしまう恐れが。しかもテレビの位置が目線より低いと、背中が丸くなりやすく息もしづらくなるかもしれません。同じ生活習慣をずっと続けていると弊害が出てくるんですね」
可能であればテレビの位置を上げる、座る位置を変えるといった対策も検討を。そして「姿勢は変えていくもの」と意識し、筋肉のこわばりを防いで良い姿勢につながるように体を動かすことが大事なようです。
「深呼吸をする、1日1本筋を伸ばす、風呂あがりにひとつストレッチをする。ちょっとだけでいいので、運動習慣をつけてほしいですね。自宅でヨガの動画を見ながら体をほぐしたり、地域の公園体操などに参加したりもいいと思います」
良い姿勢に近づけるための体づくりを
古川さんは「ゆがみは背骨から始まることが多いので、背骨とその周りの筋肉をしっかり整えていくと、良い姿勢に近づきやすい」と言います。次の①〜④のストレッチは、いすに座ってできる簡単なもの。良い姿勢を保つために、無理のない範囲で取り入れてみては。
まずは①「深呼吸」でリラックス、②「体側のばし」で体のねじれやゆがみを取っていきます。次は③「背骨ひねり」。体を丸めた状態だと腰を痛めやすいので、上に伸びる動作で背筋をまっすぐにしてから、ひねるようにしましょう。最後は④「背骨のC字・S字トレーニング」。各種3~5回でワンセット、いずれも呼吸は止めずにしっかり吸い込んでゆっくり長く吐き切ることを心がけるといいそう。
①深呼吸
- いすに浅く座り、背筋を伸ばす。足裏は床につけ、座骨を床に対し垂直に。
- 胸の前で手を合わせ、大きく息を吸いながら、ゆっくり腕を上に伸ばす。(腕が)視界に入るぐらいの位置で止める。
- 息を吐きながら、ゆっくり腕をおろす。体に沿わせるように、ひじを曲げて手を下ろす。
※1~3までで10秒が目安。鼻から大きく息を吸い、ゆっくり時間をかけて口から吐き出す
②体側のばし
- 左手は座面を持つなどで体を支える。右手は上に伸ばす。足は肩幅ぐらいに広げる。
- 自分が心地よいところまで(左に)上体を傾けていく。10秒かけて呼吸しながら、ゆっくり吐くことを意識して。
- 反対側も同じように行う。
③背骨ひねり
- 座った状態で左足を引き、右太ももに左手をかけて軽く押さえる。
- 右手を斜め後ろに伸ばし、ゆっくり振り向いていく。深呼吸しながら。余裕があれば顔も後ろに向ける。
- 戻る時もゆっくりと。反対側も同様にひねる。
④背骨のC字・S字トレーニング
- 体の前で手を組み、ボールを抱えるように背中を丸めていく。腰を曲げるのではなく、胸を後ろにひくイメージ(横から見たとき、Cの字になるよう丸める)。
- 組んだ手のてのひらを返し、腕をゆっくり上に引き伸ばす。背筋ものびた状態に。
- 後ろに手をつき、胸をぐっと持ち上げる。頭も上げて、横から見たときSの字になるように。
※医師に運動の指示を受けている人は、その指示に従ってください。痛みや違和感がある場合は中止し、かかりつけ医に相談してください
教えてくれたのは
京都市深草・醍醐
地域介護予防推進センター
理学療法士 古川真実さん
(2024年5月18日号より)
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