料理がより味わい深く 味を左右する切り方の工夫

2023年11月24日 

リビング編集部

味を左右する切り方の工夫

みじん切り、乱切り、角切り—。野菜や肉、魚はどう切るかでおいしさが変わってくるそう。その理由を専門家に教えてもらいました。切り方の違いを知ることで、料理がもっとおいしくなりますよ。

イラスト/オカモトチアキ

野菜

見栄えや食感に違いが ポイントは繊維

野菜には繊維があり、根から茎、葉の方向へと走っています。キャベツなど、見てわかるものもありますね。

「野菜は、繊維に沿う切り方と繊維を断つ切り方で見栄えや食感が大きく変わります」とは、同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科教授の真部真里子さん。

「繊維に沿って切ると、繊維が壊れずシャキッとした食感が保たれ、切り口もきれいに。 

一方、繊維を断つように切ると、繊維が短くなるのでやわらかな食感になり、加熱時に火の通りが早くなります。その分、煮崩れしやすいという一面も。料理や調理法、食べる人の好みに合わせて切り方を変えるといいですね」

苦みが気になる野菜は断面積を大きくカット

苦みを感じやすい野菜といえば、タマネギやピーマン。タマネギのツンとしたフレーバーは、チオスルフィネートという成分が原因。一方で、フルーツ並みに糖分が多い野菜でもあるとか。

「チオスルフィネートは水に溶けて揮発性(※)があり、加熱すると分解しやすい性質も。そのため、断面積が大きくなるよう、みじん切りやできるだけ薄くスライスにして、水にさらすと流れ出るのが早いです。加熱時に熱通りもよいので、苦味をとるのに効果的ですよ。

また、炒めている間に水分が飛びやすく、糖分が濃縮。同時に甘い香りのフラン類も発生するので、ぐっと甘みを感じられます」

ピーマンは、ポリフェノールの一種、クエルシトリンと香気成分のピラジン類が合わさって苦みや渋みが生じるそう。

「クエルシトリンとピラジン類は油に溶けやすいため、断面積を大きく切り、油通しをしたり油で炒めたりすると苦みが軽減されます。しかし、〝ピーマン臭〟で有名なピラジンは、小さく切って溶け出しやすくしても、ほんのわずかでもあればにおいが感じられるので、存在感を消すのは難しいかもしれませんね」

※常温で蒸発しやすい性質

煮込み料理には味が染み込みやすい乱切り

ニンジンやジャガイモなどを煮込み料理に使うときは、乱切りが多用されます。それは、斜めに切ることで切り口が大きくなり、煮汁が染み込みやすくなるからです。また、繊維を断ち切っているので、早くやわらかくなる効果も。

「じっくりと時間をかけて煮込めないときは、隠し包丁で切れ目を入れると切り口が広がり、味の染み込みやすさがアップします」と真部さん。

また、サツマイモやカボチャについては、「酵素の一種であるベータアミラーゼが含まれています。じわじわと加熱すると、ベータアミラーゼが作用してデンプンが糖化し、甘みが増えるのです。大きく切るほど火が通るまで時間がかかるので、より甘みを感じられますよ」

❶厚切りは肉汁を、薄切りは調味料などとの調和を楽しむ切り方

肉のかたまりは、どういう食べ方をしたいかで切り方が変わります。厚切りは、表面を焼くことで中からジュワッと出てくる肉汁を楽しむもの。うまみのするアミノ酸がたっぷり入っているので、肉の風味を豊かに感じることができます。

一方、薄切りは調味料やほかの食材との調和を楽しむ切り方です。

「厚切りといえばステーキ。量を減らしたければ薄くするより、厚いままで小さくする方がおいしく感じられます。

薄切りは肉じゃが、すき焼き、しぐれ煮などに多用され、調味料やほかの食材と合わせて食べることが前提に。うまみや油分といった、料理にプラスしたい要素を肉が補います」

焼く前に繊維を断ち切るとやわらかさがアップ

「肉にある白い繊維(筋)は、コラーゲンやエラスチンといわれる肉基質タンパク質。肉をやわらかくするためには、繊維を断ち切ることが重要です。

肉は焼くと繊維が縮み、長く加熱するほど硬くなります。肉が反り返り、見た目が悪くなることも。焼く前に繊維を断ち切ることで、焼いた後の見栄えがよく、やわらかい肉に仕上げることができます。これはどんな肉も同じ。最初にカットしておく一手間が大切ですよ」

白身魚と赤身魚は切り方を変えて

生で食べる刺し身は、切り方で味が際立ちます。それには、肉質が関わっているとか。魚肉に含まれるタンパク質には、筋原線維タンパク質と筋形質タンパク質があり、その含有量は魚によって異なります。

「タイやヒラメなどの白身魚は、筋原線維タンパク質が多く硬いので、分厚く切ると食べにくさを感じます。そのため、平切りやそぎ切りで薄く仕上げるのがベター。

マグロやカツオなどの赤身魚は、筋形質タンパク質が多くやわらかな食感。ただし、薄く切るとやわらかくなりすぎて物足りなさを感じてしまうため、角切りや厚切りにするのです」

包丁を一気に引いて風味と食感の良さをキープ

短冊のような形で売られている刺し身の柵。「切り口がぐちゃぐちゃになる」など、自宅できれいに切るのは難しいという人も多いのでは。刺し身をおいしく食べるには、切り方だけではなく、切り口のきれいさも大切です。どのように切ればよいのでしょうか。

「刺し身は、きれいに切れるかどうかでおいしさが変わります。柳刃包丁などがなければ、なるべく先が薄く刃渡りの長い包丁を用意し、簡単でもいいので研いでおきましょう。そして、包丁の刃元を刺し身に当て、手前に引きながら一気に切ること。引いては押してを繰り返し身を引きちぎるように切ると、細胞が引っ張られてつぶれてしまいます。食べるころにはエキスが流出し、パサパサとした食感に。歯触りも味もよくありません」

教えてくれたのは
同志社女子大学 生活科学部 食物栄養科学科
教授 真部真里子さん

食べ物をおいしいと感じるのは、味だけではなく、食感やにおい、見た目などの影響も大きいといわれています。それらは切り方が関わっており、最初にどう切るかが重要なんですね。「おいしそうに見えない」「やわらかくなりにくい」「味の染み込みが悪い」など、切り方次第で仕上がりが変わってくるからです。切り方を意識して、食材や調理法、食べる人の好みに合わせて切ることで、料理の仕上がりがぐっと良くなりますよ。

(2023年11月25日号より)