職場では「頼れる上司」、家庭では「しっかりした妻」など。周囲から求められ、期待に応えようと頑張っているあなた、その〝役割〟を果たさなければと思う気持ちがストレスになっていませんか。そんな〝役割ストレス〟から脱却するにはどうしたらいいか、専門家にアドバイスを聞きました。読者の声と共に紹介します。
イラスト/かわすみみわこ
※2023年9月にリビング読者にアンケート。有効回答数811
役割を果たすことは喜びや幸福感の源に
アンケートを実施すると、読者もさまざまな〝役割ストレス〟を感じているよう。なぜ人は、このように役割に縛られてストレスを感じるのでしょうか。
「役割を果たすことは喜びや幸福感の源になりますが、一方でストレスも伴います」と話すのは、同志社大学心理学部教授で、社会心理学を専門とする及川(おいかわ)昌典さん。
「人は社会性が強い生き物。ストレスという代償を払っても、周囲の期待に応えて承認されたいと望むものなのです。過多になってはいけませんが多少の〝役割ストレス〟があるのは自然なことです」
【職場編】
コミュニケーションがストレス軽減のカギ
〝役割ストレス〟を感じやすい場面の一つが職場。下のNさん、Tさんのように「上司」「できる人」といった役割に縛られて無理をしてしまう人もいるようです。
及川さんによると、こうしたストレスの多くは、「期待に応えられるかどうかわからない」という不安から生じるのだとか。
「無理を続けると生産性が下がり、周りと比べて不公平さを感じるようになります。人によっては、失敗しても自尊心を保てるように、わざとできないふりをしたり、遅刻や深酒をして不利な状況をつくったりと『セルフハンディキャッピング』と呼ばれる行動に出ることも。しかし、できないふりをしても責任からは逃れられず、ストレスが軽減されることもありません」
そんな状況を回避するには?
「チームで役割を分担してサポートし合うことが大切。同僚や上司に相談するという下のMさんのように、積極的にコミュニケーションを取りましょう」
読者の脱却方法
転職先で経験者として周囲からの期待に応えようとたくさん仕事を抱え込んでパンクしそうに。自分の限界を超える前に同僚や上司に相談したところ、サポートしてもらえるようになりました。(Mさん・25歳)
会社で勝手に〝できる人〟扱いされ、何でも仕事を振られるのがストレス。私はここまでしかできません、やりませんと主張するようにしています。(Nさん・46歳)
【家庭編】
完璧主義を捨てて、心に余裕を持つことを大切に
〝役割ストレス〟を感じる場面は家庭にも。
今や妻や母親だけが家事・育児を担い、夫や父親だけが家族を養う時代とは言えませんが、読者アンケートでは、「妻・母として家事・育児をちゃんとこなさなければ」「夫・父としてしっかりしなければ」というプレッシャーがつらいという声が目立ちました。下記のYさんのように、自分自身が手抜きを許せないという人も。
「一般的に、人は他者からの期待を裏切ったときや自分の中にある基準を満たせなかったときに、罪悪感や情けなさを感じます。これは自己意識感情と呼ばれ、自制心を保ち、社会のルールを守るために欠かせない感情です。ただし、強すぎるとストレスで情緒不安定になり、パートナーや子どもとの関係性が悪化しかねません」と、前出の及川さん。
では、どうすればストレスを抑えられるのでしょうか。
「完璧や理想像を目指して関係性が悪くなるよりは、ラクをしてにこやかでいる方がいい、と気持ちを切り替えましょう。疲れたときにお総菜を買うことで心の余裕が持てるのであれば、そうすべき。経済的に余裕があれば、食器洗い乾燥機やドラム式洗濯機などを買うのもいいでしょう。
子育て中の親は子どもにダメな姿を見せられないと思うものですが、長期的に見れば、無理をしてお手本を示すより、格好をつけずに自然体で接した方が、良い関係でいられます」
〝長子ストレス〟は兄弟姉妹で共有を
ほかに意外と多かったのが、下のKさんのように長男や長女といった長子として頼られるのがストレスという声。
「長子はリーダー的な役割を期待されることが多く、それを引き受けて責任を感じがち。しかし実は、弟や妹も異なる役割を期待されていて、不満やストレスを抱えています。兄弟姉妹で各自が感じているストレスについて話してみると、お互いに理解が深まり、役割分担のきっかけになるかもしれません」
読者のストレス
夫より年上なのでしっかりした妻・嫁でいるように努力していました。年に数回、親戚が集まるときは準備や片付けなどで気を使いすっかり疲れてしまいます。(Hさん・50歳)
子どもの前で良い母像、夫の前で良い妻像を崩したくなく、家事全般に手を抜けないことに疲れます。たまには総菜を出したいなあと思うこともありますが、手抜き感が自分で許せなかったりします。(Yさん・46歳)
母としてしっかりと正しいことを教えなければと思い、気を張ってしまいます。(Bさん・49歳)
家では大黒柱としてどっしりとした雰囲気を出していますが、会社での不安や失敗を相談できずに悶々(もんもん)としています。(Nさん・54歳)
2人姉妹の姉です。親にとっては長女。妹にとっては永遠にお姉ちゃん。家族内が和やかにまとまるように皆の話を聞き、常に気持ちや時間を微調整してしまいます。実家の親の介護でもリーダー的立場に。(Kさん・65歳)
読者の脱却方法
夫が自分の理想と義母のイメージを重ねて「母親はこうあるべき」を押し付けてくるのがストレス。私が「今の育児はこのように変わっている」と言っても信じないので、医師など第三者が言っていることを聞いてもらうようにしています。(Oさん・38歳)
家事は母がやるものと思っている夫や子どもたちにイライラしがちでしたが、疲れているとき、しんどいときは子どもたちにも伝え、家事の担当を任せたりしています。(Tさん・38歳)
母親、妻として仕事、家事、育児で忙しく、自分の時間が取れないのがストレス。午後10時になったら「今日はお母さん業終了!」と宣言して好きに過ごす日をつくるようにしています。(Yさん・40歳)
長女だからと周りから頼られるのがストレスでした。が、こちらが思っているほど相手は考えてないということに気づき、ドキドキしながらも自分のことを優先してみたら、何事もなく過ぎてしまい気が抜けました。(Yさん・66歳)
身近な人の〝役割ストレス〟を減らす心掛けとは?
知らず知らずのうちに、自分自身が他者に役割を押し付けていないかも気になります。及川さんに、身近な人にストレスを感じさせないための心掛けについても聞きました。
「現代人は基本的に複数の役割を抱えているもので、役割自体をなくすことはできません。そんな中、最も大切なのは身近な人の言動をよく見て、助かっている、感謝していると伝えること。家族や仲間の役に立ち、尊重されていると実感できれば、役割を押し付けられたとは感じなくなり、ストレスは大幅に軽減されます」
ゴミ出しや片付けなどの家庭内の小さな仕事は、それがパートナーや子どもの役割にしていても、できるときは自らするといいそう。
「相手に感謝されて、普段から助け合える関係性が生まれやすくなります」
教えてくれた人
同志社大学 心理学部 教授
及川昌典さん
(2023年10月28日号より)
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読者のストレス
職場では、なぜか「できる人」「すごい人」のイメージがついてしまい、そのレベルまで無理に頑張っていました。(Tさん・48歳)
部下からの質問に対しては、何でも知っていなければならないというプレッシャーがあります。(Nさん・61歳)