新学期が始まると、心が不安定になる小中学生が増えるそう。悩みやストレスが大きくなったり不登校になったりする前に、親や周囲の大人がSOSに気づくには? 日頃から心掛けたいことや対処法を専門家に聞きました。
イラスト/かわすみみわこ
サインはそれぞれ
いつもと違うと感じたら注意
「子どもにとって、環境が大きく変化する新学期は、ストレスが多く人間関係の悩みが増す時期です」とは、京都橘大学 健康科学部 心理学科准教授の大久保千惠さん。
そうした悩みやストレスは、サインとして表れることがあるとのこと。
「子どもは自分が何に悩んでいるか言葉でうまく表現できないため、腹痛や頭痛といった体調の変化として現れがち。小学校高学年から中学生では、成績が下がるなど行動・様子に変化が見られるケースも多くなります」
主なSOSサインの例は上記参照。ただし、サインは子どもによって異なる上、分かりにくい場合も。
「普段とはどこか様子が違うと感じたらSOSの可能性が。放置するとこころの問題が大きくなり、場合によっては自死など重大なことになるリスクも考えられるので、親や周囲の大人が早めに気づいて対処する必要があります」
助けを求めやすい関係づくりを
小さなSOSを見逃さないためには、普段の様子をよく見て、「疲れるとイライラしやすい」などその子の傾向を把握しておくといいそう。
さらに、親子の関係性もポイントに。
「子どもが甘えてきたり話しかけてきたりするたびに、親が『忙しいからあっちに行ってなさい』という反応をしていたら、つらいときに助けを求めにくくなります。日頃からできる限り子どもの気持ちに応えて、安心感を与えることが大切。『親に言えば受け止めてもらえる』と思えるような関係を築いておきましょう」
まずは話を聴いて受け止めて
場合によっては休息や受診も必要
では、実際に子どもの様子がいつもと違うと感じたら、どうすればいいのでしょうか。
「子どもはつらいことがあっても自分からはなかなか言わないものです。様子を見守りながら、日常生活の中でポロッと言い出す瞬間を逃さずキャッチして。話し始めたらしっかり耳を傾けましょう。声を掛けて『心配しているよ』とのメッセージを伝えることも大事です」と大久保さん。
子どもの悩みや不安は、誰かに話を聴いてもらうだけで軽減することも多いのだとか。
「もし子どもが学校を休みたいと言ったら、まずは優しく話を聴いてください。少し励ましてみてもやはり行きたくないと言う場合は、思い切って休ませることも必要です。怒ったり無理に連れて行くのはやめましょう。
休ませても回復せず、うつなどのこころの病気が心配な場合は早めに小児科・心療内科・精神科の医療機関へ。受診をためらう人も多いようですが、対処が遅れると不調が長引くことに。子どもに熱があればすぐに受診するのと同様に、こころにも治療が必要です」
ただ、仕事や育児によるストレスを抱える親も少なくありません。こころの余裕がないと、子どもに向き合うのは難しいといいます。
「親の方も、まず自分自身のケアを。悩みがあるときに気軽に話せるように、信頼できるカウンセラーなどの相談先を見つけておくのもいいのでは。一般の人の相談に応じてくれる心理臨床センターがある大学も多いですよ」
否定や余計な話をするのはNG
話を聴くポイント
「そうなんだ」「それはつらかったね」と共感を示すあいづちを挟みながら、ひたすら子どもの話を聴きましょう。仕事や家事の手をいったん止めて真剣に話に耳を傾けて。途中で否定やお説教めいた話をするのはNG。
答えやすい質問に
声の掛け方
「はい」「いいえ」で答えられる質問ではなく、「最近どう?」「しんどそうに見えるけど、どうした?」などと声掛けを。どのようにも答えられるので、子どもが悩みを打ち明けやすくなります。それでも話してくれないときは、無理に聞き出さず次の機会を待ちましょう。
今の子どもならではのストレスには
現代ならではの子どものストレスも。例えば、子どもがスマートフォンやインターネットを使う機会が増えた結果、長時間使用による依存のほか、オンラインゲームやLINE(ライン)のチャットでのいじめが問題になっています。大久保さんからはこんなアドバイスが。
「スマホやインターネットを使うときは、必ずリスクを教え、家庭で制限時間や使う場所などのルールを決めることをおすすめします。ただし、『ゲームは1日30分』のような厳しすぎるルールだと守れないのは当然。親子で話し合い無理のない現実的なルールにして、大人もちゃんと守りましょう」
また、「外出自粛や学級閉鎖などで、以前より子どもが屋内にいる時間が増え、運動量が減っています。休みの日に外で遊ばせるとストレス発散になりますよ」と話します。子どもの気持ちや状況を想像して、少しでもストレスを減らす工夫をしたいですね。
親以外ができることも
子どもによっては、親以外の大人の方が悩みを話しやすい場合も。近所の子や親戚の子が急にあいさつをしなくなった、元気がないなどの変化に気づいたときは、「どうしたの?」と聞いてみると、悩み解消の糸口になるかもしれません。「ただし、あくまでその子との間に信頼関係があることが前提です。偏見を持って接したり、『気合いで治る』『こころが弱いからだ』といった言葉を掛けたりしないよう気をつけて。世の中の皆が、こころのつらさやこころの病気を正しく理解することを願っています」(大久保さん)
教えてくれた人
京都橘大学 健康科学部
心理学科 准教授
大久保千惠さん
学校生活や不登校、いじめなどに関する悩みがある人は一人で抱え込まず、以下の窓口などに相談してみて。
- 京都府総合教育センター ふれあい・すこやかテレフォン(24時間対応)
=TEL:075(612)3268/TEL:075(612)3301/TEL:0773(43)0390
※京都府内の公立学校・幼稚園(京都市立を除く)に通う子ども、保護者、教職員が対象
※同センターのホームページからメールでの相談も可能 - こども相談24時間ホットライン(京都市教育委員会)
=TEL:♯7333 ※ダイヤル回線、IP電話の場合は=TEL:075(351)7834=へ
※京都市内に住む高校生までの子ども、保護者が対象
※ライオンズクラブ国際協会335-C地区協力のもと、運営されています - 京都いのちの電話(24時間対応)
=TEL:075(864)4343 - チャイルドライン(18歳までの子ども専用、午後4時~9時)
=TEL:0120(99)7777
(2022年4月16日号より)
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