メモを通して、生き方や仕事への情熱が浮かび上がってくることも。さまざまな職業に携わる京都の5人の、個性豊かなメモの中身とは?
撮影/武甕育子、三國賢一
ファッションのアイデアなどを5種のカテゴリーに分けて
コーディネートをまねしたくなる、おしゃれなファッションイラストの数々。インスタグラムのフォロワーが30万人を超える、イラストレーターのきくちあつこさんのメモの特徴は、5種のカテゴリーに分かれている点。ところどころに付箋が貼られた分厚いノートは〝メモ〟というより、まるで資料集のよう。
「メインはほしい服を描くクロッキー帳です」と見せてくれたメモには、ワンピースのスケッチが。こちらをベースにして、イラストを仕上げていくのですね。
気になった服の写真はスクラップして、横にコメントを記載。そのほかファッションに関するインスピレーションの材料になる言葉などもメモしています。
「イラストレーターを始めたころ、1日1枚絵を描いてSNSでアップしていたんです。絵について説得力のある説明をするための資料としてメモを取っていたことが、今に続いています」
子育てで忙しいときでも「こんな服がほしい!」と思いついたら、ひらめきを逃さないようすぐにメモ。熱〜い〝ファッション愛〟が伝わってきました!
イラストレーター
きくちあつこさん
https://ameblo.jp/oookickooo/
大切な言葉の数々が創作のインスピレーションに
自分へのエールになるような文章や、心の中のモヤモヤ。「女性とは」「心とは」といった詩的な問いかけ—。
そうした言葉を日常的にメモしている、陶器ブランド「SIONE(シオネ)」主宰のSHOWKO(ショウコ)さん。メモを取るノートは、「アケグレノート」と名付けています。
「さまざまな言葉を20代から書きためています。『アケグレ』とは夜が明けるときに一瞬、闇が濃くなる時間帯を指す言葉。陶芸の修業のため地元を離れるとき、親友と『今は人生の〝明けぐれ〟』と話したのが由来です」(SHOWKOさん)
集めた言葉は、作品づくりのインスピレーションのもとになるとか。メモをヒントに多数の作品が生まれています。
やらないと決めたことも「NOT TO DOリスト」として記入。「何でもワガママに書いてOK。やるべきことがクリアになります。過去の記録を読むと励まされることも。メモは、私にとって人生そのものです」
「SIONE」ブランドデザイナー・代表、陶芸家
SHOWKOさん
https://sione.jp
重要な言葉の〝ロゴ化〟はデザインの訓練にも
「本当にメモ?」と思ってしまうほどの美しさ。京都芸術大学の准教授で出版物のデザインなどを手がける丸井栄二さんが、会議を記録したり、外出先のお店などを記したメモです。下書きなどは一切なし、なのだとか。
ピシッとした文字や図表がさらりと書ける理由は、「脳内にグリッドが浮かんでいるから」。
グリッドとは格子状の線のこと。丸井さんは、「どこに何を書くか、レイアウトの目安になります。カタログ写真の仕事に携わっていたとき、常にカメラアングルを意識していたため、自然と頭に刻まれました」と言います。
太文字のロゴも見やすさのポイントに。
「重要だと感じた言葉を〝ロゴ化〟すると、目を引き、そしてデザインのいい訓練にもなります。学生たちにもメモを取ったり、普段から〝ロゴ化〟を意識するように勧めています。鉛筆ではなく、ペンで書くことも大切。消せないので、緊張感が持てます」
間違えたと思った部分でも、後から読むとそこに気付きが見つかる場合もあるのだと教えてくれました。
京都芸術大学 情報デザイン学科 准教授、デザイナー
丸井栄二さん
https://eijimaruidesign.com
頭に浮かんだ和菓子をモノクロでスケッチ
ノートには、アンズやモモ、イチゴ、メロンなどを使った和菓子のアイデアがずらり。どれもおいしそう!
果物や野菜を使ったオリジナルの和菓子を作る小林優子さん。週1回、出町柳近くのタイムシェアカフェ「リバーサイドカフェ」で、季節替わりの和菓子2種を提供するなどしています。
新作を考えるとき、まずは和菓子の絵をメモすることからスタート。
「果物などメインとなる食材を決め、見えたビジョンをスケッチしています」と小林さん。ですが、商品化されたのはこの中の一部とのこと。
「アンズの和菓子を作るときは3パターンの案をメモしていました。描いてみるとよりはっきりと味を想像でき、どれがベストかが分かるんです」(小林さん)
ところで、イラストは全てモノクロ。色はつけないのでしょうか。
「色鉛筆やカラーペンで塗っても、自然に出る色とは全く異なるので。仕上がった色に従うというのもこだわりですね」
みのり菓子
小林優子さん
https://instagram.com/minorigashi
包丁にまつわることを書き留め、日々修業
いつでも取り出せるよう、小ぶりのメモ帳は常にズボンのポケットの中に。
小山郁海さんは、包丁専門店「食道具竹上(たけがみ)」で修業中の21歳。「庖丁コーディネーター」の店主・廣瀬康二さんから、包丁の刃を研いで最終調整をする「本刃付け」の作業など、さまざまなことを教わっています。
そんな小山さんのメモを見せてもらうと…、「明治時代初期までの日本の万能包丁は菜切り包丁だった」「関西と関東では、同じ用途の包丁でも形が全く違う」など、包丁にまつわる知識がびっしり。
「まだまだ勉強不足で、覚えなくてはいけないことがたくさん。自分の作業や、廣瀬さんが接客されているときに話している内容も、忘れないようにメモしています。例えば、この『ハモの骨切りは1㎝に8回』というメモは、料理人さんから聞いた言葉ですね」
書き記した内容は、後からノートにまとめて清書。そうすることで頭に定着し、理解が深まるそうですよ。
食道具竹上
小山郁海さん
https://kyototakegami.com
メモから見えてくる読者の生活
左:NAさん(36歳)
「夫、小学生の子どもと3人暮らし。いつも、冷蔵庫や食品庫にある食材全てをメモしています。購入日、消費期限もメモ。少し手間ですが、おかげで食品ロスがなくなりました」
右:MHさん(34歳)
「2歳と0歳、2人の息子の成長記録を残すため、携帯電話のメモ機能を活用。子どもから目を離さずとも、思いついたときにサッとメモができます。後で母子手帳に写したり、インスタグラムにアップしたりしています」
(2020年9月19日号より)
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