体温を知ってヘルスケア

2023年2月17日 

リビング編集部

この数年で測る機会がグンと増えた体温。体調のバロメーターの一つですが、正しい知識を持っていないと、せっかく測っても適切な判断ができないことも。体温調節の仕組みや測り方、不調に気づくポイントなどの基礎知識を医師に聞きました。

イラスト/かわすみみわこ

健康なときの体温は酵素が働きやすい温度

健康な人の平熱(安静時の体温)は36~37℃程度。なぜ体温は、このように一定に保たれるのでしょうか。

「人が活動するのに不可欠な消化や代謝には、酵素が関わっています。酵素がよく働くのが平熱と同程度の温度なので、体がその温度を維持するようにできているのだと考えられます」と、京都市立病院 総合内科 副部長の檜垣(ひがき)聡先生。

体の表面温度が変化すると、脳の視床下部が指令を出し、体にさまざまな反応を起こさせて体温を調節するそう。

「例えば寒いときは血管を収縮させて血液の流れを少なくし、放熱しにくくします。暑いときは逆の現象が起こります」

ただし、ウイルスの侵入や脱水、ストレスなどの異常が生じると、平熱より体温が高くなる、または低くなることもあります。

時間帯別の平熱を知ることが大切

発熱などの不調の判断に検温は欠かせませんが、「検温には、深部体温に近い体温が測れる耳、舌下、脇のいずれかを使うのが基本」と檜垣先生。最も測りやすいというのが脇です。

「額や手首の表面の赤外線量で計測をする非接触式の体温計も増えていますが、外気温の影響を受けやすいため、あくまで目安に」

測る際の注意点は?「汗をかきやすい人は汗を拭いてから測ってください。食事や運動、入浴の後は体温が上がるので、30分以上待って計測を。また、一度測った後すぐに測ると、体温計が温まっているために高めの数値が出ることがあります。続けて測る場合は5分以上空けて」

時間帯や年齢によって体温が変化することも、覚えておきたい知識です。「健康な状態だと、早朝の体温が最も低く、夕方に向けて徐々に上がり、夜寝る前に再び下がります。個人差もありますが、子どもは体温が高めで、高齢になると低くなる傾向が」

不調にいち早く気づくには、起床時・昼・夕方・就寝前の自分や家族の平熱を把握しておくことが大事。「体調が良い時期に何日間か、1日4回の検温をしてみましょう。その時間帯の平熱より1℃以上温度が高い、または低い場合は不調の可能性があります」

正しい体温の測り方

※計測時間は体温計によって異なります。詳しい測り方は、各体温計の説明書で確認を
※脇用体温計には、数十秒程度で測れる予測式のほか、約10分かけてより正確な体温を計測する実測式、実測・予測のいずれも可能なタイプがあります

平熱が低めの人は注意 
主な原因は筋肉量の低下

近年は、〝低体温〟に悩む人も多いよう。檜垣先生は、「一般的には単に平熱が低めのケースを低体温ということもありますが、医学的には体温が35℃以下に低下した場合に『低体温(症)』と診断されます。これは、主に気温の低い環境で長時間過ごすことが原因で体の機能を維持できなくなる病気です」と話します。ただ、平熱が35.5℃以下であれば、病気ではないものの改善した方がいいのだとか。

「日本人の平均体温は、1957年に実施された調査をもとに36.89℃といわれてきましたが、2012年には36.11℃と報告した調査もあります。対象が異なるので単純に比較はできないものの、実際に診療するなかでも体温が低い人は増えていると感じます」

考えられる要因は、運動量が減ったことによる筋肉量の低下や、ストレスによる自律神経の乱れ。体温が低下すると、免疫力が下がり感染症にかかるリスクが高まるほか、体力、集中力も低下しやすくなるといいます。また血流が悪化し、肩こりや便秘、頭痛が起こることも。

「一方ストレスや肥満、がんなどの病気が原因で体温が高めになる場合もあるため、大体37.2℃以上が持続するようなときも注意が必要です。体温が低めや高めで気になる人は、かかりつけ医に相談の上、検診や人間ドックを受けましょう」

体温アップのためにできること

平熱が低めで不調を感じている人が、日常生活の中でできる改善方法とは?

「筋力不足や生活習慣が原因で体温が低くなっている場合、以下の対策をすることで徐々に体温は上がっていきます。半年~1年後に0.5℃程度体温を上げることを目指しましょう」(檜垣先生)

食事は発酵食品を含む和食がおすすめ

まずは栄養バランスの良い食事を1日3食しっかり取ること。なかでも朝食は、寝ている間に下がった体温を上げてくれます。メニューは、みそ・納豆などの発酵食品や玄米を含む和食がおすすめ。また、朝は最も体温が低いので、冷たい飲み物を飲むのはNG。一度沸騰させて50℃に冷ました白湯を飲むといいですよ。

スクワットで下半身の筋力をアップ

最も体温アップにつながりやすいのが、筋力を鍛えること。ウオーキングや水泳などの有酸素運動もいいですが、より効果的なのは、短時間に強い力を使って行う筋力トレーニングのような無酸素運動。特にスクワットをすると、お尻、太ももといった下半身の大きな筋肉の量を増やし、質を高められます。

規則正しい生活が基本
ストレスは極力少なく

体温が低めの人は自律神経が乱れている場合も多いので、早寝早起きの規則正しい生活で自律神経を整えることが大切です。睡眠をしっかり取って、できる限りストレスを減らす工夫を。

1日1回、40℃のお湯で10分以上の入浴

1日に1回、入浴をして、体温を1℃上げましょう。40℃のお湯に10分以上つかることを心がけて。

平熱と〝基礎体温〟の違いは?

基礎体温とは、安静時の体温。日本産婦人科医会によると、「女性が朝目が覚めたときに、起き上がらず、寝たままの状態で舌の下に婦人体温計を入れて5分間測った温度」のことです。「舌下で測る理由は、基礎体温は不妊治療にも使われるため、より正確で細かい数値を調べる必要があるからです」と檜垣先生。

月経が28日周期で、正常な排卵がある女性の場合、基礎体温は月経が始まると低くなり、低温期が約14日間続いた後、排卵を境に高温期が約14日間続きます。「基礎体温が分かると自分の月経周期が把握できるほか、病気の発見につながることもあります。女性は妊娠の予定にかかわらず、数カ月間基礎体温を測って、低温期と高温期がきちんと二相になって繰り返されるかどうかをチェックしてみて。異常や気になることがあれば、婦人科医に相談を」

教えてくれたのは

京都市立病院
総合内科 副部長
檜垣 聡先生

(2023年2月18日号より)