絵画、造形物の制作や鑑賞など、アートに触れて、気持ちが満たされることも多いですよね。自由な発想を楽しむワークショップを開催したり、癒やしの空間をつくり上げたり、そんなアートに関わる活動や動きを紹介します。
撮影/児嶋肇(スタジオぐるり、障碍者芸術推進研究機構「天才アートKYOTO」)
廃材だからこそ育つ自由な発想力
田中神社(左京区)のお祭りの日。境内の一角で段ボールや緩衝材の切れ端などを使い、子どもたちが工作に夢中になっていました。「スタジオぐるり」が行うワークショップです。10年前から廃材を用いた工作の場を開催。左京区を拠点にアトリエやイベントなどで活動している団体です。
「材料となる廃材は、さまざまな企業から提供してもらっています」と代表の亀井友美さん。メンバーは京都芸術大学専任講師の樋口健介さん、同学卒業生の宮崎あかねさんの3人です。
「廃材は素材の面白さが際立つんです」と樋口さん。「〝自由に作る〟って難しいのですが、素材を好きに選んで作るのが大切。大人はつい見た目だけで判断しがちですが、子どもは実際に手で確かめながら選ぶ。材料の決まっているキットでは生まれにくい発想力が発揮されます」
イベントは子どもだけでなく誰でも参加OK。宮崎さんも「大人にこそ体験してほしい」と話します。「子どもの発想にヒントをもらうことも多いですよ」
作品を介して人や社会とのつながりに
障がいのある人やひきこもりの人の作品をプロデュースする、NPO法人障碍者芸術推進研究機構「天才アートKYOTO」。北区の「ふれあい共生館」にアトリエがあります。
「当機構では指導はせず、アーティストである彼らを尊重して展示などを企画します」と話す、同機構プログラムディレクターの伊東宣明さん。
「どんな障がいがあるかということと作品の良さは別なので、展示ではどのような障がいがあるかは明示していません。専門家の視点で美術品として展示することで、世界から評価、リアクションがあります」
こちらに所属する前田渉さんは、内面から湧き上がる思いをキャンバスにぶつけています。
「作品を見た人から、〝ぶっとんでいるね〟などと反応がもらえるのがうれしいです」(前田さん)
大場多知子さんは絵を描くことをカウンセラーに勧められ、5年前からアトリエに入りました。
「ひきこもっていましたが制作は楽しくて、展覧会で人とのつながりができました。作品を介して恐怖心なく人と話せるようになったのもうれしい変化です」と、笑顔で話してくれました。
笑顔を生み出すホスピタルアート
廊下の壁などに描かれた、多種多様な動物たち。6月に移転開院した長岡京市の京都済生会病院の小児病棟に、入院患者向けのホスピタルアートが登場しました。
ホスピタルアートとはアートで院内を快適な空間にする取り組み。同院では小児科部長の勝見先生が提案し、嵯峨美術大学の学生たちが手掛けました。
「それぞれ個性や特徴ある動物をモチーフに、どんな自分でも良いよ、長所だよというメッセージを絵に込めています」と勝見先生。入院中に自分の長所を見つけてほしいとの思いがあるといいます。動物や漢字が隠れていたりと、幅広い年代の子どもたちに楽しんでもらえるような工夫も。
看護課長の森さんも、「入院していることも忘れたかのように跳びはねて喜んだり、毎日眺める子もいます。付き添い入院のお母さんやスタッフも癒やされています」と話してくれました。
地域ゆかりの絵も
京都桂病院でも京都市立芸術大学の学生がデザインしたホスピタルアートが計画されています。
12月完成の新病棟に、病院がある西京区ゆかりの植物や鳥が描かれる予定。入院患者や家族に癒やしと元気を届けたいとの思いが込められているそう。
多くの人が楽しめる活動 人を育て生きる力にも
デザイナーとして活躍し、専門学校や大学で30年以上講師を務める大場六夫さん。「生きづらさを感じる方に向けたボランティア活動」に取り組んでいます。
「美術に苦手意識がある人でも絵を描けるように」と大場さんが考案したプログラム「創作の時間」。「自由に線を引き色を塗る方法で、年齢、性別、障がいの有無に関係なく描けるため、保育園や幼稚園、支援学校、高齢者施設などでいろいろな人に描いてもらっています」と大場さん。出来上がった作品は、「隔たりのないアート展」と題し2015年から年に1、2回展示しています。
さらに、広く参加を呼びかけたのが、「マッチ箱アート展」。さまざまな絵が描かれた小さなマッチ箱が並びます。これまで4回開催。2歳から103歳までの人の作品が、全国から集まりました。プロの芸術家も参加しています。
「自由な発想は自信につながり、自己肯定感が高まって生きる力になると思います。アートには人を育て、格差のない社会を生む力もある。今後も、そうした多くの人が楽しめるアート活動を続けていきます」
社会の中でアートが接点に
「人とつながるための手段としても素晴らしいのがアートです」。そう話してくれたのは京都芸術大学教授の近江綾乃さん。
「作品を見てもらう、使ってもらうことで作者は社会とつながりを持つことができますし、自己表現をすることに喜びを感じるようになるでしょう。見る側は、『なぜ』『なるほど』と思いを広げることができますよね」
近江さんが学科長を務める同学のこども芸術学科でも、社会との関わりの中で子どもや地域から学ぶことを大切にしているといいます。「保育や教育現場などで子どもと接する学生たちは、自身の子ども心に立ち戻り、思いを〝見える化〟することを学びます。アートは一緒に楽しむことで多世代をつなぐこともできますし、日常の発見や疑問といった心の動きが創造力発揮の源になると思います。アートは生活の営みに深く関わっているといえますね」
また、大人が子どもの作品に触れたときに心掛ける点として、「〝こうあるべき〟という大人の常識を押し付けないように。例えば、リンゴは常に赤色ではないはずです。子どもの表現をまず受け止めて。そして、そこにはストーリーがあるはずなので、ぜひ耳を傾けてほしいです」。
<教えてくれたのは>京都芸術大学 芸術学部 こども芸術学科
学科長 近江綾乃さん
「子どもの力作」もチェックしてみて
本紙ホームページでは、ウェブ限定記事「子どもの力作」を連載中。絵画や工作品をはじめ、自由な発想で作られた子どもたちの作品を紹介していますよ。掲載作品の応募もお待ちしています。
▶︎https://kyotoliving.co.jp/child
(2022年11月26日号より)
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