京都の町に復活!

2022年10月28日 

リビング編集部

時代とともに町から消えていったさまざまなものが復活! 地域を盛り上げたり、支えたりと、再び活躍しています。

撮影/三國賢一ほか

当時を思い出す看板が来店のきっかけに

Cafe&Wine Bar Knuckles(釜座通丸太町下ル)
オープンを知らせる看板「Mr.Knuckles」は、木工職人でもあるチャールズさんが再現。「グラスワインも数種類あって、昼飲みを楽しむ方も増えています」という宇野隆彦さん(右)と美緒さん

名物の一つ「ナックルズサンドイッチ」(1280円)。スパイスが効いたソーセージは食べ応えあり。そのほかチャールズさんが経営する「Papa Jon’s Cafe(パパジョンズカフェ)」のチーズケーキも味わえます

1985年~2006年、船岡山にあったニューヨークスタイルカフェ「Knuckles」が昨年4月、「Cafe&Wine Bar Knuckles(ナックルズ)」として再オープンしました。

現店主は、学生時代に「Knuckles」でアルバイトをしていた宇野隆彦さんと、妻の美緒さん。ワインエキスパートの資格を持つ美緒さんが「ワインを楽しめる店を開きたい」と考えていたところ、「Knuckles」を復活させられないかとの話に。前オーナーのチャールズ・ローシェさんも快諾、レシピを受け継ぎました。

口コミが広がり、以前の常連さんがこの場所を目指して訪ねてくることもあるそう。目印になっているのが、昔と同じような人型の看板です。

「通りすがりに目にし、『懐かしい!』と来店してくれる人もいます」(宇野さん夫婦)

〝行列のできる店〟の変わらぬ味に誘われ若いファンも

らーめん杉千代(四条河原町)
「新しい場所でも復活を喜ぶ人が来てくださってうれしいです」と、同店の西嶌恒雄さん。のれん、壁に張ってあるメニューが書かれた木札などは前の店のもの

「らーめん(並)」(780円)。じっくりと煮込んだスープは、ピリ辛の一味唐辛子がアクセントに

「あの杉千代が復活?」。そんな声が出る人は多いかも。1999年から10年間、太秦・葛野大路通沿いに店を構えていた「らーめん杉千代」が十数年ぶりに復活。昨年6月、四条河原町の北東に開店しました。

当時は行列ができるほどの人気ぶり。その中での閉店とあって、惜しむ人も少なくなかったよう。「たくさんの方から『もう一度杉千代のらーめんが食べたい』と聞き、前オーナーの協力のもと復活することになりました」とは、同店の荻野善之さん。開店当初も行列ができて話題に。また、街中エリアとあって以前の店を知らない若い来店者も多いといいます。

「私自身、昔は客として通っていたファンなんです。前オーナーから作り方を伝授してもらい、当時の味をそのまま再現しています」

背脂が浮かぶとんこつスープ、細麺、ホロホロと崩れるやわらかなチャーシュー…。変わらぬ味が喜ばれています。

地域の歴史を伝えるシンボルとして

水車復元プロジェクト(左京区上高野)
復活した水車に案内してくれたTAKEさん(右)と林さん。水車の材料となったヒノキはTAKEさんが山から伐採。大工をしているメンバーが主に加工を担当しました。「ご近所の方は『昔を思い出す』と言ってくれています」(林さん)
水車小屋の内部。水車の動力で杵が上下し、精米などができるようになっています

ザーッという水音、トン、トンという杵(きね)の音。上高野の住宅地で、水車が回るのどかな光景がよみがえっています。

「水車は2022年4月に復活。精米にも成功しました」とは「水車復元プロジェクト」のリーダー・TAKEさん。TAKEさんをはじめ、古民家「五右衛門」を拠点にする地域グループ「くらしごと」のメンバーが中心となり、プロジェクトを進めたのだとか。

「50年くらい前まで、上高野地域には水車が多数ありました。精米やお香の原料をひくことに使っていましたね」とは、「五右衛門」の大家で水車復活にも携わった林憲子さん。「水車町」という地名も残る上高野ですが、時代とともに水車は姿を消してしまいます。

そんな中、約50年間放置されていた水車を、「再び地域のシンボルに」とTAKEさんらが奔走。

「専門家の先生に指導をしてもらい、車部分を製作。設計図は地域の子どもたちと作ったんですよ。次は水力発電に挑戦します!」(TAKEさん)

24年ぶりに区内を走行、防災面も重視

京都市バス特80号系統(山科区)
山科区で運行されている市バス特80号系統

山科区を京都市バスが走るのは24年ぶりのこと。河原町三条~国道東野を結ぶ特80号系統の運行が、昨年12月から始まっています。

1997年の地下鉄東西線の開業を機に、山科区内の市バスの路線が廃止。地下鉄や京阪バスが地域住民の足を支えていました。ところが、コロナ禍で利用客が減り、京阪バスが減便。

これを受け、「四条河原町方面へ市バスを運行してもらえないかとの要望が西野学区から寄せられました。さらに、防災面も考慮。災害が起こり地下鉄が不通となった場合、山科区に市バス路線があれば代替ルートをスムーズに確保できます」(京都市交通局担当者)。

こうした理由から、特80号系統が新設。停留所の共用など京阪バスの協力もあり、夜に2便が運行されています。

約100年前の暮らしに触れられる交流の場

旧上田家住宅(向日市鶏冠井町)
「青い壁や欄間のデザインがおしゃれですよね」と山田さん。靴を脱いで上がり、中まで見学できます
玄関奥の台所。かまどが6口という数の多さに驚く人も
阪急「西向日」駅から徒歩約5分の「旧上田家住宅」。2016年に向日市に寄贈され、3年前、国の有形文化財に登録されました

かまどで煮炊きをしたり、蔵に家財をしまったり。そんな暮らしを伝えるのが、向日市の国登録有形文化財「旧上田家住宅」。昨年から地域の交流施設として開かれています。

「建てられたのは100年以上前。土間があり4室で構成された伝統的な農家住宅です。住人がいない数十年の間も大切に守られ、再びにぎわうように。地元以外の方も来ています」と、向日市教育委員会文化財調査事務所の山田久美子さん。

一部リノベーションされているものの、建物はほぼ建築当時のまま。「地域の方から『昔はうちもこんな感じだった』と言われることもあります」

見学は無料。内蔵は貸しギャラリーになっていて、向日市ゆかりのアーティストの個展が開催されていました。※2022年11月3日(祝・木)まで

「ほかのスペースも貸し室利用OK。親子のグループがかまどで炊き込みご飯を作るなど、いろんな使い方をしてくれているんです」。借りる場合は有料、申し込み要。

また、この住宅は史跡「長岡宮跡」の一部に位置。訪れた人が町の歴史を知る機会にもなっています。

足利義満が認めた茶園を現代へ
宇治・興聖寺
鈴木さんと、山門に続く「琴坂」の脇に自生する茶の木。「ゆくゆくは台風で木が倒れてしまった裏山にも茶園を広げられたら」
栽培中の茶の木の苗

室町幕府第3代将軍・足利義満が認めた茶園「宇治七茗園(しちめいえん)」の一つ「朝日園」。その復活に興聖寺が取り組んでいます。

「朝日園」があった場所に再興された同寺。境内の一角では、500ほどの茶の木の苗が育てられています。「来年3月ごろに植樹予定です」と、同寺の鈴木泰道さん。「もともと境内にはわずかに茶の木が自生していました。数年前に調べると在来種だと分かり、『朝日園』を復活させて保存していくことに」。近くの朝日焼の窯元をはじめ、地域住民も協力。いずれは来訪者などに「朝日園」のお茶を振る舞えたら、と考えているそうですよ。

幕末の興聖寺の絵図。右上部分などに茶園が描かれています

(2022年10月29日号より)