使いこなせてる? 砂糖を知って料理を楽しく

2021年11月5日 

リビング編集部

きび糖やてんさい糖など、〝砂糖〟にもさまざまな種類があるのを知っていますか。専門家にその特徴や、おすすめの使い方を聞きました。

撮影/武甕育子ほか
イラスト/フジー

こんなにたくさん! 日本特有の種類も

「世界で砂糖といえば〝グラニュー糖〟を指します」と教えてくれたのは、同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科教授の村上恵さんです。

日本だと、家庭で一般的に使われているのは〝上白糖〟。これは「精製したグラニュー糖に転化糖液をまとわせた、日本特有の砂糖。しっとりしているのが特徴です」

〝和三盆糖〟も日本特有。こちらはサトウキビの絞り汁から手作業で水分を抜き、台の上で結晶を研いで作られているのだとか。

樹液から作られる〝メープルシロップ〟も砂糖の一種。〝黒糖〟はサトウキビの絞り汁を煮詰めて固めたものです。褐色の〝三温糖〟は糖液を煮詰める過程でカラメル化したもの。〝中ザラ糖〟は表面にカラメルをかけているので、黄褐色に着色しています。

作り方で栄養にも違いが

最近はスーパーでも目にする機会が増えた〝きび糖〟や〝てんさい糖〟。健康を意識する人からも注目されています。

「これらはサトウキビやテンサイといった原材料の風味や栄養が残っている〝含蜜糖(がんみつとう)〟の一種。黒糖に近い砂糖です」と、村上さん。

「砂糖には大きく分けて、原材料の絞り汁を煮詰めて作る〝含蜜糖〟と、不純物を取り除き無色透明になった〝分蜜糖(ぶんみつとう)〟があります。含蜜糖はミネラル・カリウムなどの栄養があり、独特の風味や色があります。

特に、てんさい糖は腸内でビフィズス菌などの善玉菌の栄養となる、オリゴ糖が含まれています。整腸作用が期待できるため、ヨーグルトやコーヒーに加えてもいいですね」

砂糖を食生活に取り入れる目安も教えてもらいました。

「砂糖の主成分であるショ糖には、脳のエネルギー源となるブドウ糖が含まれます。疲れたときに甘いものが良いとされるのもこうした理由から。WHO(世界保健機関)が定める1日の摂取目安は小さじ6〜12杯(約25〜50g)です。

どの種類も100gあたりのエネルギー量は350〜390kcalと、大きな差はありません。風味の違いがあるので、自分好みのものを取り入れて楽しんで」

えてくれたのは

同志社女子大学
生活科学部食物栄養科学科 教授
村上恵さん

甘味だけじゃない 砂糖ならではの調理効果

砂糖には料理やお菓子に甘味を加える以外にもさまざまな調理効果が。栄養講座や料理教室を行っている「京都栄養医療専門学校 地域健康栄養支援センター 認定栄養ケア・ステーション」で話を聞きました。

「まずは肉を軟らかくする効果。下ごしらえで肉に砂糖をもみ込むと、タンパク質と水分が結びつき、水分を保持しやすくなります。加熱したときに軟らかい仕上がりになりますよ。関西のすき焼きに砂糖を直接入れるのも、これに近い効果があるのかもしれませんね」と、同センターの管理栄養士・石伏穣さん。

洋菓子作りにおいては、メレンゲの泡立ちを良くしたり、イースト菌の発酵を活発にさせ、パンをふっくらさせるのも砂糖の効果によるものだそう。さらに加熱すると温度によってシロップ、あめ、カラメルと色や形状が変化。さまざまなお菓子作りに生かされています。

実はこれも砂糖の力!

果物がとろりとしたジャムに

砂糖を果物と一緒に煮ると、砂糖の働きで果物に含まれるペクチンと水分が結びつき、ゼリー状のとろりとした質感に。これを生かして作られるのがジャムです。さらに防腐効果があるため、長期保存が可能になります。

卵をふっくら、軟らかく

プリンのぷるんとした軟らかさも砂糖の効果。卵のタンパク質と水分を結びつけ、タンパク質が固まるのを防ぎます。これを生かすと、やや甘めの卵焼きはふっくら仕上がり、冷めても硬くなりにくいとか。弁当に活用できそう。

もち菓子の軟らかさをキープ

砂糖には、小麦粉や白玉粉に含まれるでんぷんが加熱後にカチカチになってしまう〝老化〟を遅らせる働きが。時間がたってもカステラやもち菓子が軟らかいのは、この効果を利用しているからなのだとか。

焼き色が付いて見た目もおいしく

パンやクッキーにこんがりした焼き色が付くのは、加熱によって、小麦粉や牛乳、卵に含まれるアミノ酸と糖が反応するから。これを「メイラード反応」と呼ぶそう。グラニュー糖より上白糖の方が焼き色が付きやすく、生地にコクが出ます。

素材の味を生かす 和食に欠かせない調味料

「西洋では砂糖を料理に使うことはほとんどなく、主にデザートの甘味付けや風味付けに使われます」と石伏さん。

一方、日本では料理の下ごしらえや煮炊き物の味付けにも使いますね。これは食材の〝うま味〟を引き出す役割があるから。

和食で甘味を出す場合は砂糖だけでなく、みりんも使いますが「煮崩れを防いだり生臭さを取るときはみりん、食材を軟らかく仕上げたいときは砂糖が向いています。食材と調理方法に合わせて調味料を少し変えるだけで、凝った仕上がりになりますよ」とか。

食材に合わせて使い分けて

いつもの味をワンランクアップさせる、砂糖の使い分けを四つ紹介します。

個性の強い食材は黒糖で風味出しを

豚の角煮やニシンの煮物など、食材そのものの味に個性があり煮汁が濃いものには黒糖を。コクが生まれ、照りも美しく仕上がります。ただし、量が多いとミネラルがえぐ味に変わってしまうので注意。

クセの少ない上白糖は淡泊な食材と好相性

エビやアナゴを煮たり、タイのあら炊きには上白糖がおすすめ。甘味と香りのバランスが良く、クセが少ないので、淡泊な味わいの食材と相性が良いとされています。

食材を引き立てるザラメ糖やグラニュー糖

すっきりした甘さのザラメ糖やグラニュー糖は蜜煮に。純度の高い砂糖ほど甘味が淡く香りも弱くなるので、食材そのものの甘味を生かす黒豆、栗などに向いています。

酢の物は食材に合わせて上白糖と黒糖を使い分けを

酢の物は上白糖と黒糖を使い分けてみて。上白糖で作る合わせ酢は透明感があるので、大根など色の薄い食材向きです。黒糖を使うと食材によっては着色する場合もあります。

京都の菓子とも深い関係が

秋色の生菓子。鮮やかな色の表現のため、砂糖にもこだわりが

京都と砂糖、特に和菓子との関係には長い歴史があるようです。

京菓子協同組合の理事長・石原義清さんによると「京都では茶道とともに和菓子が発展。貴族や社寺に重用され、〝京菓子〟として確立しました」。

砂糖は、そんな和菓子の三大原材料(小豆、寒天、砂糖)の一つ。

「主流は純度が高く、熱で変色しにくい〝白ザラ糖〟。粘りが出て味に深みが出るので、餡(あん)や求肥に使います。和菓子は色で四季を表現するので、素材の色や風味を邪魔しないものが好まれます。

砂糖そのものの風味を生かす場合は黒糖や和三盆糖を使うことも。和三盆糖はほどけるような口どけなので、干菓子にも使われますね」

さらに、時代によって和菓子界にも変化が起きているそう。

「砂糖には防湿・防腐効果があるので、昔は保存食として〝糖度〟の高いものが一般的でした。しかし近年は控えめな甘さが好まれる傾向に。

また、お茶席の菓子は、主役のお茶を引き立てるものです。甘味の強いお茶も増えているので、合わせて味を調整をすることも。和菓子に使う素材や職人技を受け継ぎながら、時代に合った糖度が求められています」

京菓子協同組合
理事長
石原義清さん(「京菓子司 俵屋吉富」9代目当主)

(2021年11月6日号より)