寒さが厳しい今の時期でも、京都府内ではさまざまな農作物が収穫されています。春や夏の収穫に向け、準備を進める農家も。おいしい野菜や果物を食卓に届けるため、農家が冬季に行っていることは─。作物ごとに畑で話を聞きました。
撮影/深村英司
根菜類や葉物野菜が旬に 土づくりや勉強会も
京都府の冬季における農業や農作物について、「京都府農林水産部農産課」に取材しました。
「府内で冬の時期に収穫されるのは、京都の代表的な野菜でいうと、水菜や花菜といった葉物野菜や聖護院だいこんをはじめとする根菜類、エビイモ。ユズも冬に旬を迎えます」と教えてくれたのは、同課の藤井拓也さんです。
では、春から秋に収穫する作物を作っている農家は、冬の間はどんなことをしているのでしょうか。「春夏に向け、じっくりと数日かけて堆肥を加え、耕すといった土づくりが大切な仕事です。有益な微生物を増やすため、土壌改良資材を入れることも。反省会や勉強会もよく行われています。積雪量が多い北部地域では、露地栽培ができない冬の間だけ農業以外の仕事をする例も」
また、地域によっては、食べ物に困ったクマやシカが人里に下りてくるため、畑などが荒らされる被害が増えがちに。獣害対策の柵の点検や見回りなどの対策に追われる農家も少なくないといいます。
温暖化による冬野菜の生育不良が課題
「近年は11月ごろまで気温が高いことが、冬野菜の生育不良につながり、品不足や値段の高騰を招いています」
また、資材費の高騰によって、さらに農家の負担が増している実態も。
「京野菜を次世代へ残すためにも、ぜひ地域の農作物を積極的に食べてほしいです。その土地のことを知るきっかけにもなりますよ」
聖護院だいこん 11月〜2月が旬
「冷水で一つひとつ洗ってから出荷します」
久御山町 鵜ノ口承太朗さん
伝統的な京野菜である冬が旬の「聖護院だいこん」。昭和初期から久御山町の一口(いもあらい)と呼ばれる一帯でも作られるようになったそう。「このあたりは土が粘土質なので、聖護院だいこんの栽培に適しているんですよ」と話すのは、農業歴60年以上の鵜ノ口(うのぐち)承太朗さん。
取材に訪れた昨年12月中旬は、収穫の真っ最中。毎日100個ほど収穫するそう。すべて洗い場に運んで冷水で一つひとつ泥を落とし、乾燥させた上で丁寧に拭いて箱詰めします。そうして、一つあたり4〜6個が入った約15㎏ある箱をトラックへ。
「収穫はもちろん、洗い場での一連の作業が重労働。若い頃は1日で済ませていましたが、今は娘と一緒に半日かけて収穫して、洗うのは翌日にしています」
聖護院だいこんの種をまき始めるのは9月。旬の間ずっと収穫できるように、種まきは時期をずらして何度か行うのだとか。芽が出た後は、消毒や肥料の散布をしながら成長を待ちます。例年、鵜ノ口さんの畑では11月から収穫を行っていますが、今年は残暑が長かったため発芽も成長も遅く、12月上旬からスタートし、2月下旬頃までを予定しているそう。
鵜ノ口さんが育てた聖護院だいこんは、京都のほか首都圏の市場にも出荷。主に料亭で使われ、「京のブランド産品」として認定も。「煮炊きすると、白豆腐のようなとろっとした舌触りに。長年の経験から生み出した肥料の配合が秘訣です」
水菜 12月〜3月が旬
「寒い時期は、成長スピードもゆっくりに」
久御山町 加護弘高さん
久御山町で農業を営む加護弘高さんは、妻とともに、水菜をはじめとする葉物野菜やブロッコリーなど、多種の野菜を栽培しています。水菜はハウスで通年栽培していますが、他の冬野菜と同様、寒さで凍ることがないよう糖が蓄積され、味わいが増すのは冬の寒い時期。
昨年12月中旬に加護さんのハウスを訪れると、10月中旬に種をまいたという水菜が、ちょうど収穫時期を迎えていました。「水菜は、季節によって成長スピードが異なります。春から秋にかけては種まきから1カ月ほどで収穫できるのに対し、寒い時期は2カ月弱かかります。ただ、冬は害虫が発生しにくく土も乾きにくいので、害虫対策やひんぱんな水やりの必要がなく、夏に比べると手はかからないんですよ。特に10cm程度に育ってからは、肥料切れを起こしていないか様子を見るだけです」と加護さん。
収穫した水菜のほとんどは京都市中央市場に出荷されますが、一部は直売所にも。「消費者と顔を合わせて直接販売するのは、生産者として喜びを感じられる貴重な機会です」
シャキシャキした食感で、癖がなく食べやすいのが水菜の魅力。サラダはもちろん、煮物や炒め物、鍋物にもぴったりなのだとか。加護さんが作る水菜は、加入しているJA京都市上鳥羽支店のパッケージで出荷されます
イチジク 8月〜10月が旬
「バランスよく実らせるため、日々の剪定が欠かせません」
城陽市 北口圭さん
気候が温暖で地下水が豊富な城陽市は、イチジクの一大生産地。毎年8月に旬を迎え、10月頃まで出荷されます。
「冬は、次のシーズンに向けた準備の時期。例年12月中に地面の落ち葉や雑草を鎌で刈り取った後、年明けから1月中旬頃まで、伸びた枝や不要な枝を切り落とす剪定(せんてい)という作業を行います」と話すのは、北口圭さん。両親とともに、約3000㎡の畑でイチジクを栽培しています。「剪定作業は、果実がバランスよく実るように、全体像や枝の伸び方をイメージしながら慎重に進めます。判断を誤ると枝が重なって収穫しにくくなることも。寒いなかで作業しなければならないのも大変です」
1月下旬には肥料をまいて土作りを行い、2月には地面に新しいわらを敷き、シートを張り替えます。わらやシートで地表を覆うのは、主に地中を保温するため。保温することで、健全な成長を促すのだとか。「新芽が出てくるのは5月。6月、7月には、大きくなった実の重さで垂れ下がらないように、枝を紐で吊り、8月の収穫時期を待ちます」
完熟したイチジクの果実は、柔らかく甘味が濃厚。主に京都市中央市場に出荷しているそう。「直売はしていませんが、友人に分けてあげることも。『城陽のイチジクは味が違うね』と言われるとうれしいですね」
京ラフラン 3月〜5月が旬
「京北特有の気候を生かし、露地で栽培」
京都市右京区 水上文彰さん
中山間地域にあり、日中と夜間、夏と冬の寒暖差が激しい右京区京北。冬は雪が積もる日も少なくありません。
農業を始めて13年になる水上文彰さんは、この地域で唯一の京ラフランの生産者。京ラフランは、大根とキャベツの仲間であるコールラビを掛け合わせた葉物野菜で、「新京野菜」(※1)の一つです。「ハウス栽培が一般的ですが、京北の気候を生かすために露地栽培にしています」(水上さん)
作物は光合成で養分を作り、それを使って呼吸します。昼夜の寒暖差が大きいと、日中に作られた養分が夜間に多く使われずに貯め込まれるため、ぐっと甘みが増すのだとか。
10月上旬に肥料を加えて栄養豊富な土壌を作った上で、10月下旬に畑に植えたという京ラフランの苗。昨年12月末の取材時には、10cm前後の高さに成長していました。「雪が積もると凍結や生育不良のおそれもあるので、1月中にハウスに植え替えます。その後は様子を見ながら追肥や葉かき(※2)を行い、3〜5月に30cmほどになる頃、茎が柔らかいうちに収穫します」(水上さん)
(※1)京都市が学術機関や生産者と連携して開発・導入を進めている新しい品種の野菜
(※2)無駄な葉を摘み取ること
直売所中心に販売されている水上農園の京ラフラン。水上さんに農業を教わりながら作業を手伝う川邊慎也さんは、初めて京ラフランを食べたとき、「こんな野菜は食べたことがない」と感動したそう。「葉は大根の葉、茎はアスパラのよう。ほどよい甘味と歯応えがたまりません」(川邊さん)
(2025年2月1日号より)
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