認知症と向き合う人々

2024年9月6日 

リビング編集部

認知症と向き合う人々

9月は、国際的に認知症の啓発が行われる「世界アルツハイマー月間」です。日本では、2025年に高齢者の5人に1人が発症すると予測されている認知症。高齢社会のいま、私たちにとって身近な病となっています。現在の京都府での取り組みと、認知症に向き合う当事者や地域の人々の活動を紹介。さまざまな居場所や就労の場が作られるなど、サポートする環境が整えられていますよ。

京都府では企業との連携を強化。
当事者が〝認知症応援大使〟として活動

講演を行っているのは認知症当事者で「京都府認知症応援大使」の鈴木貴美江さん(左)

「1月、『共生社会の実現を推進するための認知症基本法』が施行されました。いま、認知症の方が希望をもって暮らせる社会の実現を目指す取り組みが、全国的に進められています」とは、京都地域包括ケア推進機構の担当者。京都府では2013年に独自の行動指針としていち早く「京都式オレンジプラン」を策定。3月、「第3次京都式オレンジプラン」として改定され、医療・介護・福祉等関係機関が連携して施策の強化を図っているそうです。

京都府では10年以上前から「京都高齢者あんしんサポート企業」の認定を実施。現在、銀行やコンビニ、スーパー、美容院など、認定企業の数は4000社近くになるとか。「研修を受けたスタッフが、各所で認知症の方を含めた高齢者全般に声掛けや買い物の手伝いなどを行っています」

「認知症にやさしい異業種連携協議会」も2019年に立ち上がり、府内の100社以上が参画。「〝高齢者や認知症の方にやさしいモノやサービス〟の企画を検討、実践しています」

「認知症にやさしい異業種連携協議会」の様子
「京都高齢者あんしんサポート企業」の認定マーク(下記「セブンイレブン京都山科百々町店」にて)

同協議会がきっかけで、私たちの身近なところで多様なサービスや活動場所が生まれているとのこと。

「基本法では、認知症の方本人の意思が重要視されていますが、京都府では以前より『日本意思決定支援推進機構』が運営する『意思決定支援研修』を開催。医療・介護関係者に限らず、民間企業の従事者、民生委員など、認知症の方の生活に関わるすべての方が受講できます」

認知症の症状は人によってさまざま。「2022年、京都府では認知症の方7人を『京都府認知症応援大使』として委嘱。ご本人による発信の機会を広げていくことで、認知症に対するイメージを変えていけるよう目指しています」

〝認知症サポーター〟が多数在籍買い物に付き添い、見守ります

セブンイレブン京都山科百々(どど)町店

「毎日同じ調味料を買うなど、どう考えても買い物の仕方がおかしいと感じたときは、『昨日も買っていたけど大丈夫?』と声をかけます」とは、「セブンイレブン京都山科百々町店」を運営する清水さん。

同店は「高齢者あんしんサポート企業」に認定されています。昼間に勤務するほとんどのスタッフが養成講座を受講した『認知症サポーター』で、サポーターの証であるオレンジリングを胸に着けて接客しているそう。

高齢者に配慮した取り組みを独自で実施していて、「弱視など配慮が必要な方がいれば、スタッフが一緒に店内を回る〝スローショッピング〟をすることも。世間話を交えながら、楽しく買い物ができるようにしています」

買い物の量が多い高齢者などにハンディレジを使って対応する〝スローレジ〟のスペースも(対応できない場合もあり)

また、「お店周辺は高齢化率が高く、認知症と思われる方を接客することがよくあります。スタッフは『放っておけない』という思いから、積極的に講座を受講するなど対応方法を学びました」とも。心配な人を見かけたら、地域包括支援センターや民生委員に相談することもあるとか。

「ほぼ毎日コーヒーを購入し、店内で新聞を読んでくつろぐご高齢の方がいらっしゃって。スタッフが意識して見守っていたところ、後日家族の方がお礼に来てくださったことも。地域の高齢化という課題を事業で解決、というとおこがましいですが、地域のお役に立てばと思っています」と、清水さんはいいます。

コンビニでは珍しく買い物カートを導入。よく使われているとか
「認知症サポーター」の証であるオレンジリングを着けて接客

※この取り組みは「セブンイレブン京都山科百々町店」独自のものです

収穫した野菜の仕分け、販売も。参加者は役割を持って活動

チームFCいわくら

8月のある金曜日の午前10時過ぎ、「京都市岩倉地域包括支援センター」を訪れると、「チームFCいわくら」が主体となって近くの農園で収穫されたオクラやキュウリの仕分けを行っていました。作業しているのは、地域に住む高齢者やボランティアたち。「ここで作業の手伝いをして、役に立つことにやりがいを感じます」(参加者)

野菜はセンターの玄関で販売。すぐに売り切れました。

認知症当事者で「京都府認知症応援大使」の鈴木さんも活動に参加。主に作業をする人たちにコーヒーを入れる役割を担っているとか。「やることが増えて、友人が増えて。認知症になってからの方が幸せです」と、話します。

仕分けの様子。収穫したイモのつるを使ってリース作りを行うことも
温度や時間にこだわり、丁寧にコーヒーを焙煎する鈴木さん

「ここでは認知症の方もそうでない方も、皆が役割を持って活動を行います」とは、同センターの主任介護支援専門員・松本さん。「最初は認知症の方のための『オレンジカフェ』を開催していましたが、コロナ禍を機に新たな集まりの場として、『いわくら農園倶楽部』を企画。自分たちで収穫した野菜を調理するなど、活動の幅が広がっていたこともあり、全体を集約して『チームFCいわくら』が誕生しました」。ほかにも廃棄される消防ホースを使って小物を制作するなど、週2〜3回の頻度で集まりがあるといいます。

「認知症の方を含め、地域の高齢者が気軽に集まれる場所になれば」と、松本さん。なじみのある地で気軽に楽しめる場所を用意して、地域で見守っているのですね。

作業の後は、コーヒータイム。「年配の方の人生経験を聞くのが面白いです」と参加者
月に1回開催している「オレンジカフェ」では、地域の子どもたちも参加
  • 京都市左京区岩倉中町403 京都市岩倉地域包括支援センター内(叡山電鉄「岩倉」駅から徒歩8分)
  • TEL:075(723)0800
  • ※‌受付時間/月〜土、午前9時〜午後5時 (祝日、年末年始を除く)

利用者の新たな一面を引き出す常設型認知症カフェでの多様な催し

カフェほうおう

手芸や歌、ものづくりなど、ほぼ毎日催しを開催している「カフェほうおう」。月に一度、地域の子どもと認知症当事者の交流のために〝子ども食堂〟が開かれています。こちらを手伝っているのが、認知症を患う公代さん(87歳)です。野菜の下ごしらえをしたり、子どもの食事をサポートしたりと活躍。「これ切ってとか、何でも言えば丁寧に調理するんですよ。私より上手」とは、娘の加代さん。

きれいにオクラのガクをとる公代さん。多いときは25人分の食事の下ごしらえをするとか
公代さんは子どもと接するのが楽しいようで、「気付いたら子どものそばにいる」そう

公代さんが認知症の診断を受けたのが、約6年前。加代さんが、「同じような食材が冷蔵庫にたくさん入っているなど、おかしいと思うことが色々とあって。かかりつけ医に相談したのがきっかけ」だったとのこと。

はじめは自分が認知症だというのが認められなくて、専門の窓口に行くと泣いてしまうこともあったそう。「けれど、ここなら楽しめているようです」(加代さん)。

以前より出かける回数も増えたとか。「『母ってこんなに良い声で歌うんだ』と、新しい一面を知ることができました」と笑顔に。

運営している「京都認知症総合センター」の相談員・田中さんは、「こちらは全国的にも珍しい常設型の認知症カフェです。病院などに行くのがハードルが高い人でも、気軽に来てもらえたら」と話していました。

作業工房では、受注を受けて制作。報酬も得ています
  • 宇治市宇治里尻36-35 京都認知症総合センター内(JR「宇治」駅から徒歩5分)
  • TEL:︎0774(25)1125
  • ※‌受付時間/月〜土、午前9時〜午後4時30分(祝日、年末年始を除く)

洗濯物をたたむ仕事を通して交流。若年性認知症当事者が中心に参加

OTOKUNIシゴトバ

「OTOKUNIシゴトバ」は、衣類やタオルなどの洗濯物をたたむ作業を通して報酬を得る場所。昨年10月、向日市に開設されました。「家でもやっていたことなので、抵抗なく取り組めました」と話すのは、こちらで働いている木内さん。4年ほど前に61歳で若年性認知症(※)の診断を受けました。

木内さんは、「自分では単なる記憶力の低下だと思っていて。話したことを忘れるなど周囲に指摘されるようになり、専門医療機関を受診して認知症だと発覚しました」。

車の部品を分別する仕事をしていましたが、診断を受けてからは〝マイペースに仕事ができるように〟と会社が配置換えを行い、65歳の定年まで勤務を続けることができたのだといいます。

木内さんをサポートしているのが、「京都府こころのケアセンター」で若年性認知症支援コーディネーターをしている木村さんです。「私が心配していたのは、定年後のことです。やることがなくなれば、認知症の症状が進行してしまうのではないかと」。そこで、木村さんが清掃会社「アグティ」に呼びかけ、この事業の実施にいたったそう。

「洗濯物をたたむという作業は、機械ではなく人の手が必要。誰もが取り組みやすく、仕事内容としてぴったりだったのだと思います」とは、「アグティ」の社長・斎藤さん。

木村さんは、「仕事だけで終わるのではなく、地域のつながりの場にもなれば」という思いから、今後は交流会なども計画しているとか。

(※)65歳未満で発症する認知症のこと

  • 日時/第2・4火曜の午後1時30分〜4時
  • 会場/株式会社リヴ 1階「ラボスバコ」(阪急「洛西口」駅から徒歩5分)
  • 問い合わせ/京都府こころのケアセンター
  • TEL:︎︎0774(32)5885
  • ※‌受付時間/月〜金、午前10時〜正午、午後1時〜3時(祝日、年末年始を除く)

学生と〝eスポーツ大会〟を実施

昨年12月には、木内さんなどの若年性認知症当事者と、「京都府こころのケアセンター」のスタッフ、佛教大学で理学療法や看護などを学ぶ学生とで〝eスポーツ大会〟を開催。「当事者の〝eスポーツをやってみたい〟という声から始まりました。学生と当事者とで何度か会議を重ねて、最終的には『サンガスタジアムby KYOCERA』のeスポーツ専用のスタジオを借りて約40人で対戦。eスポーツ初心者でもある当事者たちは学生のフォローを受けながら、勝負を楽しんでいました」(木村さん)

・・・ 相談窓口 ・・・

自分や家族が、「認知症かも」と悩んでいる人が相談できる窓口があります。利用できるサービスや介護の方法などを教えてくれますよ

■京都府認知症コールセンター
TEL:0120(294)677
受付時間/月〜金、午前10時〜午後3時 ※祝日、8/13〜8/16、12/27〜1/5を除く

65歳未満の人はこちらまで

■京都府若年性認知症コールセンター
TEL:0120(134)807
受付時間/月〜金、午前10時〜午後3時 ※祝日、12/29〜1/3を除く

■その他
「地域包括支援センター」や「認知症カフェ」「認知症地域相談窓口事業所」などあり。詳細は「きょうと認知症あんしんナビ」のホームページをチェック
https://www.kyoto-ninchisho.org/

(2024年9月7日号より)