あの町、この町でベンチを置く活動が広まっています

2024年2月2日 

リビング編集部

ベンチを置く活動が広まっています

京都市で、市民団体が町のあちこちにベンチを置く活動が広まっています。伏見区と上京区の3団体を取材し、その目的と町に起こった変化を聞きました。

※公道や公共のスペースに無断でベンチは置けません

伏見区深草休む場所をつくって出かけやすい町に

伏見区深草の町を歩いていると、「お気軽にお掛けください」とのプレートが付いた竹のベンチが所々に置かれています。

深草の個人宅に置かれたベンチ。買い物途中の人や中学生などさまざまな人が利用しているそう

「これらは『おでかけベンチ』。個人や店舗の敷地のほか、高齢者施設の前など21カ所に設置していて、誰でも利用できます」。そう話してくれたのは、深草商店街振興組合の代表理事で、「深草・竹やすらぎの会」の代表・三林裕明さん。

坂道の多い同エリアは、高齢者や子育て中の人が歩いて出かけるには不便な部分も。休む場所が少なく商店街を訪れる人も困っていたそう。

「それならば、町にベンチを置こう」。高齢者福祉の関係者や商店街の人々、地元の竹林の整備などを行うNPO法人といった有志が同団体を結成。まちづくりを専門とする大学の研究室とともに、2018年からベンチの製作と設置場所の検討を開始しました。

座面や背板に用いるのは地元産の竹。年に1度開催するベンチの製作会には地元住民も参加して、年々認知度は高まっているようです。

「座りに来る人と設置している家の人がおしゃべりするなど、ベンチを中心に小さなコミュニティーが生まれています」

●問い合わせ/三林さん=TEL:090(3359)9800

「深草・竹やすらぎの会」の会議。新しいベンチのデザインについて検討中

伏見区藤森・藤城学区高齢者の外出を後押し現在34台を設置

伏見区藤森・藤城学区もきつい坂道が多く、高齢者の外出を難しくしていたといいます。

「道の途中で座り込んでいたり、立ったまま動けなくなったりしている高齢の方がいたことも」と、永野勝次さん。同地区でベンチ設置の活動をしている「とまり木休憩所実行委員会」の代表です。同団体は、「京都市深草・南部地域包括支援センター」が主催する地域ケア会議で結成。自治連合会や民生児童委員会、自主防災会など地域住民を中心に構成されています。他地域で行われていたベンチを置く活動を参考に、2019年より始動しました。

お祭りで子どもたちと一緒にベンチを作ったり、子ども食堂でプレートを作ってもらったりと、地域で協力しながら進め、現在34台が設置されています。

藤森学区で行われたベンチ製作会には近隣住民も参加

「道路沿いの個人宅や店舗に設置を依頼したほか、郵便局や薬局などにもともと置かれていたベンチも、〝とまり木〟として客以外でも使えるように交渉しました」

「深草・竹やすらぎの会」との協働プロジェクトを結成し、ベンチマップの作成、ベンチをめぐるウオーキングイベントなども実施。

「将来的には、お地蔵さんのように町内に1台は置けるといいですね」

●問い合わせ/京都市深草・南部地域包括支援センター内同会事務局=TEL:075(641)9301

「とまり木休憩所実行委員会」の永野さん(中央)。ともに活動する大阪工業大学の吉田さん(右)、京都市深草・南部地域包括支援センターの武田さんと

上京区住民が気軽に交流できるきっかけに

「地域の関係性を取り戻したい」。そう考えて自宅の道路沿いにベンチを置く「置きベン」を始めたのは、上京区に住む任意団体「対話之町京都ヲ目指ス上京」主宰の小畑あきらさん。

「今は隣人のこともよく知らない、言葉も交わさないという時代。でも、ベンチに座ってあいさつしたら道行く人も気軽に返してくれる。顔見知りになれば、次に会ったときはもっとコミュニケーションが取れるんです」

自宅前に設置したベンチに座る小畑さん。「おはようございます」と道行く人に声をかけます

ビールケースに廃材の板を取り付けたベンチでは、学校帰りの子どもたちが宿題をしたり、置かれた本を読んだりも。

「近所の子らはベンチ作りも手伝ってくれます。それをまた近隣の人が見て、声をかけてくれる」。そんな連鎖の中で口コミが広がり、「自分も『置きベン』がしたい」という声が。上京区内の個人宅や寺院など約20軒に設置しました。「ベンチは縁側や井戸端のようなもの。気軽なおしゃべりから、人々がより深くつながっていければ」

●問い合わせ/小畑さん=obata@studiofit.co.jp

(2024年2月3日号より)