京都と月の今むかし

2023年9月15日 

リビング編集部

2023年9月29日(金)は中秋の名月。京都には、渡月橋や観月橋など月の名所もありますね。今回は、平安時代から現代まで、〝京都と月〟にまつわるエピソードを紹介。夜空を見上げるのがより楽しくなるかも。

人々の生活に密着 中国文化の影響も

「日本の人々にとって、昔から月は身近な存在でした」。そう話すのは、平安時代の文学や文化、社会について詳しい京都先端科学大学教授の山本淳子さん。

「明治のはじめまで、日本は太陰暦を用いていました。十三夜は13日、十五夜は15日と月の満ち欠けがそのまま日付を表し、貴族も庶民も月の変化に時の流れを感じながら暮らしていました。月の運行を把握し、私たちが時計を見るようにその位置で時間を判断していたのです。このように生活に密着した存在である月に、愛着を抱いていたと考えられます」

日本で培われたこの月に親しむ心に、中国の観月文化が加わります。

「平安期、京都で花開いた貴族文化は、中国に大きな影響を受けました。日本にはもともと月読命(ツクヨミ)という月の神様への信仰や、月を人に見立てるという考え方がありました。そこに、中国の『月には桂の巨木が生える』という伝説や、中秋に月見をする風習が宮廷を中心に広まりました。それらが地名や観月の行事となり残っていったのです」

今も続く観月祭

京都の多くの寺社で毎年行われる観月祭も、中国の月見の行事「中秋節」がもとといわれています。中でも有名な大覚寺の「観月の夕べ」は平安貴族の遊びを再現し、大沢池に舟を浮かべて月見をするというもの。

山本さんによると、「当時の貴族は豪邸に池を造り、そこに映る月を眺めるのを風流とした」そうです。

教えてくれたのは

京都先端科学大学
人文学部歴史文化学科
教授 山本淳子さん

https://www.kuas.ac.jp/

今年の観月祭をpick up

※内容は変更となる場合があります

・大覚寺「観月の夕べ」
2023年9月29日(金)~10月1日(日)各午後5時30分~9時(受け付け終了8時30分)
参拝料大人500円・小中高生300円(日中参拝した人も別途拝観料が必要)。
大沢池遊覧と観月席でのお抹茶は事前申込制で、受け付け終了。大沢池エリアへの入場・散策・お月見は可能。期日中は満月法会、法話あり。
京都市右京区嵯峨大沢町4
問い合わせ先/TEL:075(871)0071
https://www.daikakuji.or.jp/

大覚寺の「観月の夕べ」。提供/旧嵯峨御所 大本山大覚寺

・八坂神社「祇園社観月祭」
2023年9月29日(金)午後7時~
和歌の披講、雅楽や舞楽の奉納など。観覧無料。
京都市東山区園町北側625
問い合わせ先/TEL:075(561)6155
https://www.yasaka-jinja.or.jp/

・下鴨神社「名月管絃祭」
2023年9月29日(金)午後5時30分~
平安貴族舞、舞楽の奉納など。観覧無料。お茶席は有料(1000円)
京都市左京区下鴨泉川町59
問い合わせ先/TEL:075(781)0010
https://www.shimogamo-jinja.or.jp/

万葉のむかしから多くの名作に登場

「源氏物語」で、淡い月光のもとに巡り合う光源氏と朧月夜/「日本古典籍データセット」(国文学研究資料館等所蔵)

「月は日本文学において外せない存在」と山本さん。古典にもたびたび描かれています。例えば、平安時代前期に作られたとされる「竹取物語」。

「月から来たかぐや姫。翁が見つけた竹が光を放っていたり、姫がいるだけで家が光に満ちていたり。想像もつかない光り輝く世界を、月に思い描いていたのでしょう」

やがて、天空から迎えが来ます。「そもそも、かぐや姫は罪を償うために地上に送られました。対して月は、けがれのない清らかな世界と考えられていたのです」

山本さんが研究している「源氏物語」にも、月の描写は多数あります。

「『須磨』の巻で、光源氏が遠い都を思って忍び泣く場面。時は8月の十五夜。読者は降り注ぐ月光に照らされた孤独な主人公を思い描いたことでしょう。また、『花宴』の巻で光源氏と美女・朧月夜(おぼろづきよ)が出会うのは、2月20日過ぎのまさにおぼろ月夜。秘密のデートをあからさまに照らさないように、紫式部は月の動き方や時間を緻密に計算していました。いつの月か、どんな月かが描かれることで、当時の人々は情景の共通イメージをリアルに持つことができたのです」

「万葉集」では、「あしひきの山より出づる月待つと人には言ひて妹待つ我れを」(※)など月が出てくる和歌が200首以上あり、「徒然草」「枕草子」「古今和歌集」など多くの作品にも登場。秋の夜長、月にフォーカスして古典に触れてみるのもいいかもしれません。

※現代語訳「山から出る月を待っている、と人には言っているけれど、本当はあの娘を待っている私です」

月をめでるために築かれた建築物

茶室「月波楼」から見た池。天井は舟底を逆さにしたような形状
池近くまで張り出した「月見台」(桂離宮)。中秋の名月が正面に見えるそう

京都には月の名所だけではなく、〝月を眺めること〟を前提に造られたとされる建築物もあります。

江戸初期、月の名所で知られた桂に築かれた「桂離宮」。中央に大きな池があり、周囲に御殿と茶屋が配されています。池近くまで庭に張り出した「月見台」は、中秋の名月が池に映るのを眺められるよう計算されたもの。池のすぐそばに立つ茶室「月波楼(げっぱろう)」は舟底天井(舟の底のような形状)になっていて、池に映る月を舟から眺めるような気分で楽しんだといわれています。そのほか、月の字形の引き手や月の字をデザインした欄間など、室内装飾にもモチーフとして取り入れられています。

室町幕府第8代将軍の足利義政により造営された「銀閣寺(東山慈照寺)」にも、月に関連する造形が。白砂が波紋状に盛り上げられた「銀沙灘(ぎんしゃだん)」は月光を反射させて本堂を照らすため。砂を円すい台形に固めた「向月(こうげつ)台」は、その上で月の出を待つため、という説があるそう。

いずれにしても、当時の人々がいかに月見を重んじていたかが伝わってきます。

※取材協力/銀閣寺、宮内庁京都事務所

未来の居住地に!?
課題となる重力などを研究中

巨大なグラス型の居住空間「ルナグラス」(イメージ)。中は一部が地上と同じ重力なので、出産なども可能と想定されているそう/鹿島建設提供
人工重力交通システム「ヘキサトラック」のイメージ/京都大学提供

月を、人類の居住地や宇宙基地に―。その実現に向けて研究を行っているプロジェクトチームが京都にあります。京都大学SIC有人宇宙学研究センター長・山敷庸亮(ようすけ)さんに話を聞きました。

「地球外の移住先として、月はもっとも近い星です。重力は地球の6分の1で大気はほとんどないので、ロケットを飛ばすにも有利。例えば火星への中継地としても活用できるでしょう」

居住にあたり問題になるのが重力。「人は6カ月以上無重力の状態にいると、運動していても筋肉が衰える」そう。同センターは鹿島建設・大野琢也さん(SIC特任准教授)らと協力し、人工重力を発生させる居住空間「ルナグラス」の構想実現のために研究を進めています。

「ルナグラスは高さ約400メートル、直径約200メートルのシャンパングラスのような構造です。20秒に1度回転することで、地球と同じ重力が発生。その中に生態系を作り、人々が生活できる環境を整えます」

合わせて、惑星間の長距離移動で重力を1Gに保つ交通システム「ヘキサトラック」の構想も練られているそう。

また、住友林業と協働して進めているのが、「宇宙植林」の研究。

「木材は宇宙の過酷な環境にも強い素材。月で木が育てば基地や住居を造るにも便利だし、酸素も生み出してくれます。月の低圧下で木を育てるための方法を、現在探っているところです」

山敷さんは、「2050年には何らかの形で月面居住を実現したい」と話してくれました。

教えてくれたのは

京都大学大学院総合生存学館
SIC有人宇宙学研究センター長
教授 山敷庸亮さん

https://space.innovationkyoto.org/

歩いて月をめざす
「ウォーキングチャレンジ2023 Walk To The Moon」

「月まで歩いて健康になろう!」というユニークな取り組みも行われています。京都市内の9大学で作る団体「ヘルシーキャンパス京都ネットワーク」が「ウォーキングチャレンジ」として2018年から行っているイベントで、参加者が1カ月間に歩いた距離を合計して、地球から月までの距離である約38.4万㎞をめざすというもの。昨年度は全国から25の大学・組織が参加し、結果は目標の1.6倍となったそう。今年は地球と月の往復が目標とか。学生に限らず京都市民も参加可能です。受け付けは2023年10月1日(日)から、実施は2023年11月。詳しくは下記ホームページから。

https://www.juha-webforum.jp/wc/2023

「ウォーキングチャレンジ2023」のフライヤーの一部

(2023年9月16日号より)