料理を通して、科学の不思議に触れられると話題の〝サイエンス料理〟。身近な材料で作れるレシピを、京都市青少年科学センターで教えてもらいました。
撮影/鈴木誠一
仕組みがわかると料理がもっと楽しく
「普段はなかなか意識しませんが、料理にはたくさんの科学の力が働いています」と話すのは、京都市青少年科学センター・副主任指導主事の藤田増美さんです。
「例えば『料理のさしすせそ』(※)。煮物などを味付けするとき、砂糖、塩の順で入れますよね。これは塩より砂糖の粒子が大きく、浸透するのに時間がかかるから。理にかなった順番といえます」
ほかにも、料理の食感や見た目を変えるとき、食材に含まれる成分の化学反応を利用することがあります。
「仕組みがわかると、料理をよりおいしく作れます。見栄えや時短にも活用できますよ」
今回紹介するのは、食材の特性や化学反応を体感できる4品。小学校や中学校で習う、科学の仕組みも解説してもらいました。子どもと一緒にチャレンジしてみて。
※和食に使われる調味料と、それを使う順番のこと。「さ」は砂糖、「し」は塩、「す」は酢、「せ」はしょうゆ、「そ」はみそ
3層のセパレートドリンク
飲み物の〝重さ〟を利用したおしゃれな一杯
カフェで見るようなグラデーションドリンクを自宅で再現してみませんか。
シロップ、ジュース、無糖の炭酸水の順番に注ぐと、三つの層が完成。
「ポイントは液体の〝比重〟。砂糖がたくさん溶けている飲み物はそれだけ重くなり、下に沈みます。ジュースはシロップより砂糖の含有量が少ないため、混ざらず上にとどまります」と藤田さん。
「氷やコップの縁を伝わせて静かに注ぐと、きれいな層に。果汁100%のジュースは一般的なジュースより糖分が少ないことが多いので、成功しやすいですよ。果肉入りは重さも少し変わります。好きな味で試してみて」。飲むときはよくかき混ぜて。
材料(1杯分)
- かき氷シロップ(好きな味)……20ml
- オレンジジュース(果汁100%)……50ml
- 炭酸水(無糖)……100ml
- 氷……適量
作り方
- グラスに半分程度、氷を入れる
- ❶にかき氷シロップを注ぐ
- オレンジジュースを注ぐ
- 炭酸水を注ぎ、ミントの葉(分量外)を飾る
※フルーツジュースは色が濃いものを選ぶとくっきりした層になります
砂糖を溶かすと液体の〝比重〟が変化
砂糖を溶かした水には砂糖分の質量が加わり重くなります。つまり、同じ量の水より比重が大きくなります。重い液体は下に沈むので、比重が大きい順に注ぐことで混ざらず層に。また、アルコールは水より比重が小さいという特徴が。そのため水割りではお酒の後に水を注ぐことで、水が自然に沈み、よく混ざるといわれています。
好きな飲み物を組み合わせてアレンジ!
飲み物にガムシロップを混ぜることで比重を調節できます。牛乳とコーヒー、ジュースと乳酸菌飲料の原液など好みの組み合わせとグラデーションを探してみて。リキュールを使えば色鮮やかなセパレートカクテルにも。
色が変わるカラフル焼きそば
ムラサキキャベツの色素で麺に変化が
「ムラサキキャベツに含まれる紫色の色素〝アントシアニン〟の特性を使った料理です」と藤田さん。キャベツの煮汁に中華麺を入れると、麺が緑色に!
「中華麺に含まれるアルカリ性の塩水『かん水』に反応し、色素の色が変わるのです。酸性のレモン汁やウスターソースを加えると、さらに変化が。何色になるか観察してみて」
実験のあとは、塩味、塩レモン味、ソース味と3種の焼きそばにしていただきましょう。
材料(2人分)
- 中華麺(かん水入り)……260g
- ムラサキキャベツ(千切り)……140g
- 水……120ml
- ニンジン(細切り)……30g
- ピーマン(細切り)……30g
- 豚バラ肉(一口サイズ)……120g
- もやし……100g
- 塩、こしょう……少々
- サラダ油……小さじ2
- レモン汁……小さじ1
- ウスターソース……大さじ2
作り方
- フライパンにサラダ油をひき、中火でAを炒める。塩こしょうで味付けし、一度取り出す
- ムラサキキャベツと水をフライパンに入れて弱火で加熱。煮汁が紫色になったら、ムラサキキャベツを端に寄せ、中華麺を加えてほぐす。麺に煮汁が絡んで緑色になったら、2/3の量を別皿に取り出しておく
- 残った麺にレモン汁をかけて混ぜる。麺がピンク色になったら別皿に取り出す
- ❷で取り分けた緑色の麺の半分に、ウスターソースを加えて混ぜると、麺が茶色に
- ❷❸❹で取り出した3色の麺にそれぞれ❶と❷のムラサキキャベツを加え、塩こしょう(分量外)で味を調えて炒め直し、盛り付ける
※煮汁が足りなくなったら、少しずつ水を足す
※レモン汁の代わりに酢を使ってもよい
水溶液の性質が〝色素〟そのものに影響
アントシアニン色素が溶けた水溶液は、その性質(アルカリ性・中性・酸性)によって色素の化学構造が変化し、色が変わります。これは、小学校の理科の実験で水溶液の性質を調べる「リトマス紙」と同じような仕組み。中性なら紫のまま、アルカリ性なら青みが強くなり、酸性なら赤みが強くなります。
冷凍庫を使わないアイスクリーム
氷と塩を使うと温度が急低下
「冷凍庫で冷やさなくても、氷と塩を使うと30分ほどでアイスクリームが作れます」と藤田さん。
「氷は、解けるときに周りの熱を奪う性質が。塩がその効果を早めてくれます。塩が付着する面が広いほど氷が早く解けて温度が下がるので、粒の細かいクラッシュアイスを使うのがおすすめです。室温によって固まりやすさは変わりますが、固まりづらいときは、少しずつ氷と塩を足してみて」
材料(作りやすい量)
- 生クリーム……200ml
- 卵黄……2個
- グラニュー糖……25g
- バニラエッセンス……4滴
- 氷……300g〜1kg
- 塩……90g〜180g
作り方
- ボウルに生クリームを入れる。ボウルを氷水(分量外)にあてて冷やしながら、全体にとろみがつき、リボン状になるまで泡立てる
- 別のボウルで卵黄とグラニュー糖をすり混ぜる
- ❶に❷とバニラエッセンスを入れて優しく混ぜる
- 大きなボウルに冷却用の氷を入れ、まんべんなく塩を振る。❸のボウルを重ね底を冷やしながら、アイス液を混ぜて凍らせる
- アイスが固まったら器に盛り付け、ミントの葉(分量外)を飾る
※ステンレスかアルミ製のボウルを用意。とても冷たくなるので、タオルや軍手越しに持つとよい
〝融解熱〟と〝溶解熱〟で温度が低下
氷は、解けるときに周りの熱を奪って冷やす性質(融解熱)を持っています。そして塩(塩化ナトリウム)にも水に溶けるときに周りの熱を奪う性質(溶解熱)があるため、氷が早く解けます。この相乗効果で急速に温度が下がります。本来、真水は0℃で凍りますが、解けた水分に塩が混じることで固体になる温度(凝固点)も降下するため、0℃以下でも氷が解け続けます。氷と塩の比率が3:1のとき、−20℃くらいまで下がります。
シュワシュワ手作りラムネ
ラムネの清涼感は口の中で発泡するから
さっぱりした後味が夏にぴったり。
「重曹とクエン酸の化学反応を利用したお菓子です。だ液の水分に反応し、シュワシュワと発泡します。食べたときに口の中が一瞬ひんやりするのも、化学反応によるものなんですよ」
お菓子の型を使ったりり、計量スプーンを二つ重ねてボール状に作ってもかわいいですね。
材料(作りやすい量)
- クエン酸……2g
- 重曹……2g
- 粉糖……50g
- コーンスターチ……10g
- かき氷シロップ……数滴
(色付け用。イチゴ味はピンク色、ブルーハワイは水色、メロンは薄緑色になる)
作り方
- Aをボウルに入れ、よく混ぜる
- ❶を三つの容器に取り分ける。それぞれ違う色のかき氷シロップを加え、粉が色づきダマがなくなるまで混ぜる
- ❷の粉を小さじの計量スプーンでたっぷりすくい、ギュッと押し固める
- スプーンから取り外し、一晩乾燥させる
※スプーンにラップを敷いてから粉をすくうと、固めた後で取り外しやすい
シュワシュワ感の正体はクエン酸と重曹の〝中和反応〟
重曹とクエン酸を一緒に水に溶かすと、互いの性質を打ち消し合う〝中和反応〟を起こして二酸化炭素の泡(炭酸ガス)が発生します。同時に、周囲の熱を奪う〝吸熱反応〟も起こるため、ひんやりと感じるのだとか。
(2023年8月5日号より)
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