伏見「鴨川運河」の橋をまとめて事典に

2020年10月9日 

リビング編集部

京都の生活を支える琵琶湖疏水。そのうち夷川から伏見までの約9キロの区間は「鴨川運河」と呼ばれています。この運河を調査し、魅力を発信している市民団体「鴨川運河会議」が〝橋の事典〟を制作中。その取り組みを取材しました。

採取した「きとろ橋」の拓本

この日は藤森の「きとろ橋」で、事典に収録する〝拓本(たくほん)〟の採取が行われました。これは橋の親柱や欄干に彫られた文字や模様を紙に写し取るというもの。

「鴨川運河会議」が調査している塩小路通から伏見上ダムの区間には30の橋が架かっており、「きとろ橋」は1924(大正13)年に建てられたもの。一部改築されていますが、親柱は当時と同じものです。

「橋の中には地元書道家の署名や、陸軍のシンボルマークが残るものも。当時の様子を知る手がかりになります」と、同団体の代表を務める鵜飼実幸さん。しかし、老朽化や周辺道路の変化から、橋の取り壊しや建て直しが検討されているといいます。現代の耐震基準では同じ姿に再建できないため、記録として事典制作を始めたのだとか。

「橋の特徴や、鴨川運河とともに発展した伏見の歴史を伝えたいですね」と鵜飼さん。事典には拓本だけでなく、建設時の設計図面や古写真など、市内各地を訪ね歩いて収集した貴重な資料も掲載される予定です。

「紙を水で張り付けて型を取るんです。彫ってある部分がへこむから、墨が付かずきれいに写せます」と、辻野さん
「きとろ橋」前にて。左からメンバーの辻野隆雄さん、杉田鈴子さん、代表の鵜飼実幸さん、上野善久さん

写真で見る「きとろ橋」のいまむかし

建設当時は運河沿いに柵がなく、上流へ船を引いて歩くための小道がありました。橋の下を人が通るため、橋は小高い三角形で、小道もくぼんでいます。現在もその面影が残っていますね。

京都市上下水道局所蔵

〝当たり前〟になっていた魅力を再発見

「鴨川運河会議」は現在15人のメンバーを中心に「地域の人と一緒に鴨川運河を知り、考え、行動する」をテーマに、運河の調査・保全活動、散策イベント、講演会などを行っています。鴨川運河の魅力をまとめた冊子や、年1回リーフレットも発行。

「運河を知ることで、まちの魅力にも気づけました。住んでいると〝そこにあって当たり前〟のものだったけど、愛着が湧いてきます」と話すのは、メンバーの杉田鈴子さん。同団体が主催するイベントに参加したのをきっかけに、伏見の歴史や鴨川運河の景観に心ひかれたといいます。

鴨川運河は遊歩道が整備されて歩きやすく、沿道の桜並木が四季折々の表情を見せます。杉田さんは「事典が完成したら、本を片手に運河散策を楽しんでほしいですね。実物と古写真と見比べて」と期待。

事典は配布のほか、市内図書館や役所への設置を予定しているそう。2021年2月の完成を目指しています。

活動の様子はフェイスブック「鴨川運河会議」で発信しています。問い合わせは=TEL:080(5438)3806(鵜飼さん)=へ。メールも可。メール:kamoun.ukai@gmail.com

(2020年10月10日号より)