アップサイクル 〝もったいない〟から生まれるもの

2023年2月24日 

リビング編集部

アップサイクルで再び輝きを〝もったいない〟から生まれるモノ

アップサイクルを知っていますか。捨てられるはずの物を、新たな価値を持った物に生まれ変わらせる取り組みです。花や野菜、古着など、京都でもさまざまなアップサイクルに挑戦する企業があります。〝もったいない〟という気持ちから生まれた商品や活動を紹介します。

撮影/舟田知史(Lápiz Private、sampai、colourloop)、瀬田川勝弘(HOZUBAG)

生花→遊び道具

香りも触感も生かされる 五感を使う自由な遊びに

色とりどりの花が香る久御山町の生花店。「仕入れの調整などロス削減を意識していても、約2割の花は売れ残りとして廃棄になってしまいます」と「フラワー&グリーンSAHO」店長の人長(ひとおさ)佐保さん。

「咲いた花を役立てたい」と昨年5月に、商品として販売できなかった生花を活用する事業を立ち上げました。市場に出回る前に捨てられる、規格外の花も生産者から買い取っています。

例えば、段ボールいっぱいの花を届ける「花遊びボックス」。保育園や幼稚園からの注文が多く、「この花なら何をしても良いですし、ちぎって学ぶこともありますよね。花を筆にして絵を描く子もいました」。

フラワーシャワーイベントや、高齢者施設での花びらを使ったアート活動なども実施。

「五感に響くフラワーシャワーは、寝たきりの方や目の不自由な方にも、香りや触感を楽しんでもらえています」

久御山町との共催で実施したフラワーシャワーイベントにて。「家族に連れられて来たような男性が、意外と一番笑顔になったりするんですよ」(人長さん)
「花遊びボックス」は予算に応じて発送。中身の花も季節によってランダムとか
花遊びに興じる園児と先生。「施設のスタッフにも体感してもらい、癒やされてもらっています」
野菜→絵の具

〝へんてこりん〟は個性や強み 自然由来の色を楽しんでほしい

「形が〝へんてこりん〟な野菜、農家さんはどうすると思う?」

子どもたちに問いかける「Lápiz Private(ラピスプライベート)」代表の山内瑠華さん(立命館大学4回生)。百貨店で行われたイベントでの一場面です。

「実は捨てられてしまいます。そこで、私たちはそうした野菜を絵の具に変えています」

同社は各地の農家から廃棄野菜を買い取り、乾燥させて粉末状に、樹液と混ぜて絵の具にしています。随時ワークショップを行い、前述のイベントでは2日間で計20組の親子が参加。絵の具作りや、トートバッグへの色塗りを体験しました。

起業のきっかけは、コロナ禍で家にいる時間が増えたこと。「実家が農家で、規格外の野菜が捨てられる現状を目の当たりにしたんです。食べる以外の活用方法を考えたとき、色がきれいだから絵の具にしようと。

〝へんてこりんでもええやん!〟をモットーにしていて、野菜も人も、普通とは違うことが個性や強みになるというメッセージも伝えたいです」

イベント中、絵の具の粉と樹液を混ぜる工程。珍しい体験に子どもたちも夢中に(取材協力/大丸京都店)
紫イモ、ビーツ、バタフライピーなどからできた粉末状の絵の具。品種や糖度によって色みも変わるとか。粉と樹液のセットをホームページで販売
子どもと関わることも好きという山内さん。手にしている野菜も絵の具に生まれ変わります
残糸→アクセサリー

素材の歴史や文化も伝えて地域の産業を身近に

西陣織の残糸を紡いだイヤリングやピアス。「sampai(サンパイ)」のハンドメイドアクセサリーです。

「学生時代、西陣の工房で話を聞く機会がありました。伝統文化の重要性と衰退を実感し、地域の産業を若い世代に知ってもらう必要があると思いました」と同ブランド代表の宮武愛海(まなみ)さん。注目したのが、一度絡まってほどかれた絹糸などの産業廃棄物。

「アクセサリーとして西陣織などを日常に取り入れることで身近に感じ、地域や産業に関心が向くのではと。捨てていた物が生まれ変わり、材料を提供してくれる企業にも喜ばれています」

素材は他にも、西陣に拠点を置く企業のレースや京友禅の端切れなど。提供企業や産業の歴史、文化を伝えることにもこだわります。

「アクセサリーを気に入り、西陣に足を運んでくれたお客さんも。地域の産業を知る糸口になれたらうれしいです」

西陣織の残糸やレースの端切れを使ったアクセサリー。随時イベントを開催して販売しています。3月まではネット販売も
素材を前に話す宮武さん。「西陣織の捨て耳を使ったカバンや残布のゴルフマーカー作りも計画中です」
古着→雑貨

キーワードは〝色〟 繊維ならではの新素材へ

独特の風合い、触り心地のある雑貨は、不要となった衣料品から生まれたもの。これらの素材を製作する「colourloop(カラーループ)」の代表・内丸もと子さんは、テキスタイルデザイナーとして仕事をしてきました。「リサイクルされにくい廃棄衣料の現状を知り、物をただ作り続けることに疑問を持つようになったことから、研究を始めました」

京都工芸繊維大学大学院で繊維リサイクルを研究し、2019年に同社を設立。特徴は、繊維を色で分けてアップサイクルするシステムです。さまざまな繊維が混紡、混織し、見た目や手触りだけでは判別が難しいことも衣料品のリサイクルが進まない一因。そこで、繊維の色で分ける方法を考案。着色も、環境負荷の大きい脱色もせず、繊維そのものの色を生かします。ビーガンレザーや圧縮フェルトなど、色合いや風合いの個性的な素材が生み出されました。

「商品を魅力的にするには、色が重要。繊維を使っているからこその魅力ある素材を提供していきたいです」

廃棄繊維を使った素材から、マグネットや手帳ケースなどオリジナル商品を展開。「コクヨ」や「アーバンリサーチ」などとのコラボ商品も
ポリエステルや綿など、原料となる繊維の種類はさまざま。色で分けられて新しい素材に
廃棄衣料を50%使用した糸(開発中)を手にする内丸さん
着られなくなった服→黒染め服

伝統技術を残していくため 大切な洋服を着続ける提案

和服の正装・黒紋付きを染め続けてきた「京都紋付」。プロジェクト「K」と題し、洋服の黒染め事業を行っています。

社長の荒川徹さんによると、プロジェクトを始めたのは、「黒染めの伝統技術を残そうという使命から」だそう。「染め替え事業を始めたのは2013年。黒く染めると、やはりかっこいい。日常に役立たせることで、伝統技術を必要とさせようと考えました。技術を守るために始めたことが、時流に合ったようです」

天然繊維50%以上のものなら対応でき、樹脂加工やラバー加工など染まらない部分は結果的にアクセントになることも。「染めてどうなるかはお楽しみ」といいます。

「汚れや色落ちも黒は全部消してくれる。大切な服を着続けることができます。お父さんのコートを染め替えて、思い出がよみがえりましたという方も。黒染めによる服の再生が、新しい文化になればと思います」

白ブラウス(左)を黒染めした例(右)。化学繊維部分が白く残り、模様のようになりました。注文は同社のホームページから受け付け
100年以上続く同社伝統の黒染め技術

パラグライダー→バッグ

姿を変えて空から手元に 地元の雇用創出も

空を飛ぶパラグライダーが、カラフルなバッグに変身。「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を行った亀岡市発のバッグは、「(一社)きりぶえ」と「㈱シアタープロダクツ」によるもの。同市で行われている「かめおか霧の芸術祭」のイベントから生まれました。

「亀岡にはパラグライダースクールがあり、パラグライダーを生地に使えないか考えたところ、安全基準により定期的に廃棄されると知りました」と同社の武田幸子さん。「廃棄される機体を譲ってもらいバッグに。薄くて軽くて丈夫です」

バッグの名前は「HОZUBAG(ホズバッグ)」。同市を流れる保津川にちなみ、空と川の水の循環を表しています。色使いやステッチなど元のデザイン性が高いのも特徴で、おしゃれだと思って買った物が、実は資源循環に取り組んだ物と知り驚く人も。

製作は手作業で、地元の雇用創出にも貢献。端切れを使ったワークショップも始めています。

持ち手やタグはペットボトルのリサイクル素材を使用。バッグは4サイズ展開で、ホームページや取扱店舗で購入できます
重ねられたパラグライダーの生地。各地のスクールや個人から年間約50機分が届きます
一機から約200枚のサコッシュ(幅23cm、高さ25cm、奥行8cm)が作れるそう(写真提供/きりぶえ)

(2023年2月25日号より)