かつての小学校が活用されています

2023年3月17日 

リビング編集部

統廃合などで閉校となった小学校の校舎や跡地を活用する事例が増えています。地元に愛された小学校が、再び人々の集う場に。地域住民の思いにも寄り添ったスポットをいくつか紹介します。

撮影/二階堂直敬(立誠ガーデン ヒューリック京都、京都里山SDGsラボ)、橋本正樹(質美笑楽講)

THE 610 BASE

元・中六人部小学校(福知山市)/2018年閉校

イチゴにひかれて観光客も立ち寄る町の拠点に

元・中六人部(なかむとべ)小学校は、「THE 610 BASE(ムトベース)」という、地元の人や観光に訪れる人でにぎわうスポットになっています。グラウンドに広がるのは、7棟のイチゴハウス。イチゴ摘みなどが楽しめ、校舎内にはカフェやワークショップスペース、スケートボード施設などが。

「6年前、こちらの運営母体となる『井上(株)』の70周年を機に、新事業をしようと考えたのが始まり。過疎化が進む地元福知山市のためになる持続可能な農業をということで、イチゴを育てることに。土地を探していると、元・中六人部小学校が日照条件などもぴったりで。地域の人にも後押しされ、行政も巻き込んでの跡地活用が始まったんです」。そう話す「THE 610 BASE」のリーダー・森翔平さん。

現在はイチゴだけでなく大麦とホップを栽培し、クラフトビール造りにも着手しているそう。「小学校は誰もが親しみのある場所。福知山市を楽しむ入り口として町づくりの拠点になれたらと思います」(森さん)

グラウンドを使ったハウスでのイチゴ摘み体験(右)は例年12月~翌5月に実施

グラウンドを使ったハウスでのイチゴ摘み体験(下)は例年12月~翌5月に実施

教室はカフェやワークショップに使われています
パフェやタルトなどイチゴを使ったスイーツも楽しめます

立誠ガーデン ヒューリック京都

元・立誠小学校(京都市中京区)/1993年閉校

広場、図書館は自由に利用OK 地域に開かれた複合施設

モダンな外観が印象的な「立誠ガーデン ヒューリック京都」。元・立誠小学校の校舎を保存、再生した3階建ての棟と8階建ての新棟からなる複合施設です。

「3階建ての棟は耐震補強のリノベーションを行い、廊下の天井のアーチや階段、窓枠などを忠実に再現しています」と、施設内にある「THE GATE HОTEL 京都高瀬川」の総支配人・善方健さん。そう、ここにはホテルも。学校で礼儀作法や道徳を教わる場だった〝自彊(じきょう)室〟は、同ホテル内にほぼ当時の姿のまま残されています。宿泊客向けのイベントを開催したり、地元の人に貸し出して同窓会などが行われることも。

ホテルのレストランのほか、カフェや多目的ホール「ヒューリックホール京都」「立誠図書館」など、地域に開かれた場所になっています。自治会の活動スペースもありますよ。敷地内の広場「立誠ひろば」は一般に開放。さまざまなイベントも開かれています。

約840㎡ある「立誠ひろば」。よく利用しているという地元保育園の関係者も「町中に子どもたちが体を動かせるところがあるのはありがたいです」と
入り口には元・立誠小学校の看板が残ります
〝自彊室〟の机や大正ガラスの窓が、かつての小学校の姿を伝えます
入館自由の「立誠図書館」。年会費1000円(読書会員)で誰でも本を借りられます

質美笑楽講

元・質美小学校(京丹波町)/2011年閉校

地元住民が運営 誰もが遊びにいける木造校舎

質美(しつみ)小学校が閉校になったのは12年前。「地域の人の思い出が宿る学校を残したい」との思いで、地元住民たちが1年後に「質美笑楽講(しょうがっこう)」をオープンさせました。現在は各教室に9店舗が入る名物スポットに。

「子育て世代や若い人が集う場所をつくりたくて」と話すのは、同校の図書室で読書指導員をしていた谷文絵さん。児童書専門店のスタッフ経験もある谷さんは、運営メンバーの一人。こちらで絵本や雑貨を販売する「絵本ちゃん」と、絵本とおもちゃで遊べるスペース「きのこ文庫」の店主でもあります。

施設内にはほかにも、手作りおかきや古道具のお店などが。「入居テナントは、木造の元教室をそのまま生かし大切にしてくれる方に貸しています」と谷さん。窯焼きピザやパスタのお店「pandozo cafe(パンドーゾカフェ)」では、地元の食材など素材にこだわったメニューも提供されています。

教室をリノベーションし、懐かしさと居心地の良さが感じられる「pandozo cafe」。季節の野菜がトッピングされた「オルトラーナ(野菜のpizza)」(サラダ付き)は1925円

「絵本ちゃん」の椅子や机は、小学校の図書室で使われていた物を使用しています
古道具を販売する「ケセラセラ」などユニークなお店が入居

京都里山SDGsラボ(ことす)

元・京北第一小学校(京都市右京区京北)/2020年閉校

テレワーク施設として整備 クリエーティブな活動の場にも

自然豊かな京北地域に誕生した「京都里山SDGsラボ(愛称ことす)」。元・京北第一小学校を活用したテレワーク施設でありながら、イベントなどで地域の人や文化と関わる体験もできます。

アップサイクルの取り組みの推進や地域課題と向き合った活動など新たな〝ことをおこす〟施設。管理を行うのは京都市や京都大学、各企業、京北自治振興会が参画する運営協議会です。

「京北は過疎・高齢化が進み、文化や歴史が失われる危機感があります」と運営協議会のメンバーでもある開心舎代表の梶谷彰宏さん。「自然に囲まれながら市街地からも比較的近い京北。知的欲求も満たせる拠点として人が集える、帰ってこられる場所になればと思っています」

オフィス以外にも各教室の特色を生かし、図工室と図書室は「アップサイクルファブラボ」に。工具や手芸用品が一通りそろい、端材で制作活動ができます。地元の女性たちも利用する「キッチンラボ」は家庭科室、動画配信が行える「DXスタジオ」は音楽室でした。一日1100円で、テレワークエリアも含め各部屋を利用できます。

取材時は毎月第4土曜日に行われている「京北めぐる市」(入場無料)が開催。地元グルメも楽しめます
京北の立地を生かしたあたたかみのある木造校舎。「京北めぐる市」では、展示やフリーマーケットなども実施
アップサイクルで生まれた品が並ぶギャラリースペース

淳風bizQ

元・淳風小学校(京都市下京区)/2017年閉校

※期間限定の活用

オフィス兼交流スペース 入居企業によるイベントも開催

スタートアップと呼ばれる、革新的なアイデアや技術で社会課題の解決を目指し、新規事業を起こす企業。そうした企業のための、オフィス兼交流スペースが「淳風bizQ(びずく)」です。元・淳風小学校内の一部の教室と、隣接する旧・下京図書館が期間限定で活用されています。運営しているのは、京都市や各民間事業者からなる運営協議会。

「歴史ある建物に若者が集まることで、インスピレーションを生み出すきっかけにもなるのではと思います」と、京都市産業観光局産業イノベーション推進室の金﨑大輔さんは話します。同校には「淳風bizQ」のほかに、地域住民が利用するスペースなどもあります。

現在は9社が入居し、交流スペースではビジネスイベントのほか、入居企業同士の交流会を定期的に実施。各社のつながりや新しい企画が生まれる仕掛けづくりの場にもなっているとか。

また、ドローン体験教室やカードゲームイベントなど、入居企業の事業や特色を生かして、地域の人たちとの交流も図っています。昨年夏には小学生向けのワークショップイベントを開催。元小学校に子どもたちの楽しげな声が響く一日になったといいます。

元・淳風小学校(写真左)と旧・下京図書館
旧・下京図書館に入居する企業の一つ。建物はそのままの形で利用されています
カードゲームで海洋ゴミ問題を学ぶイベントの様子。地域の人が参加しました
「夏、アート、淳風アトリエ」と題されたワークショップイベントでは、入居各企業が参加。地域の人々で盛況だったそう

(2023年3月18日号より)