新たな取り組みも続々 認知症と共生するまちへ

2020年9月11日 

リビング編集部

9月は「世界アルツハイマー月間」。京都では、認知症の人も共に参加し、活躍できる場が増えています。その取り組みを取材してきました。

オンラインカフェが新たな交流の場に

会場のスクリーンには、他の施設から参加した人の姿も。8月の「れもんカフェ」にて

認知症の人とその家族が、地域の人と交流する「認知症カフェ」が各地で開催されています。宇治市の「れもんカフェ」もその一つ。こちらは宇治市が推進する「宇治市認知症アクションアライアンス〝れもねいど〟」の取り組みの一環。認知症当事者の声を反映したカフェ運営をしているそう。

「コロナ禍でカフェを中止した期間、認知症のみなさんから孤独や不安の声を聞きました。こんなときこそ、交流の場を維持することが大切」と話すのは、同カフェに立ち上げ当初から携わる、医師の森俊夫さん。そんな声を受けて始めたという、オンラインカフェを8月に訪ねました。

この日は13人の認知症当事者とその家族が参加。森さんが一日店長を務めています。会場に集まった参加者たちは密集を避けるため、貸与されたタブレット端末を手に場内の好きな場所へ。別室の森さんからオンライン開催の経緯を聞き、カフェの今後について一緒に考えました。

1組に1人のスタッフが付き添い、使い方を教えます

参加者は「顔が見えるので、離れていてもつながりを感じた」と好反応。一方で「音の聞こえづらさや、機器の使い方など技術面は不安が残る」と、当事者とスタッフが真剣に課題を話し合う場面も。自宅から参加できる日を目指して、これからも試行錯誤を続けていくといいます。

「れもんカフェ」は毎月2回ほど、宇治市民を対象に開催。問い合わせは、宇治市健康生きがい課=TEL:0774(22)3141(代表)=へ。

野菜の収穫・販売で地域ぐるみの〝付き合い〟を

収穫したばかりの万願寺とうがらしを手に、にっこり。医師や福祉スタッフもそばで見守ります。7月の収穫より

7月末、宇治市内の農園「京野菜いのうち」で認知症の人とその家族を対象にした、万願寺とうがらしの収穫・販売体験が行われました。こちらも〝れもねいど〟の就労支援のひとつです。4年目となる今年は、万願寺とうがらしを2日間で155キロ収穫。中宇治地域包括支援センターで、地域の人たちに販売しました。

収穫は体を動かすきっかけになり、コミュニケーションの場にもなっているそう。「今年も暑いね」「楽しかったからまた来たよ」と、毎年参加する人も。こちらのとうがらしは地元飲食店でも購入され、メニューに使われています。恒例行事として地域に根付き始めているようです。

同農園の井内徹さんは「父が認知症になったとき、地域の人に助けてもらいました。その恩返しができたら」と提案したのだそう。冬は小カブの収穫体験も予定されています。

袋詰めも参加者で行います。メッセージカードを入れて完成

ものづくりで社会参加 福祉施設発の商品ブランド

イベントの景品として依頼されたツボ押し棒を制作中。両端の反りをバランスよく整えていきます

働くこと・ものづくりを通して〝高齢者・認知症の人にもできることがあると知ってほしい〟との願いから生まれた福祉施設発のブランド「sitte(シッテ)」。右京区の「デイサービス西院」が発案し、施設を利用する、認知症の人を含む有志が参加。企業と連携したものづくりに取り組んでいます。

彼らが作っているのは木製の生活用品です。現在メンバーは12人。毎週月曜に集まり、原型となる木の板をやすりで丁寧に磨いていきます。中京区の雑貨店「mumokuteki(ムモクテキ)」とのコラボレーション商品カッティングボードは、デザインから一緒に決めたそう。同店のオリジナル商品として販売され、贈り物としても人気なのだとか。

「mumokuteki」の一角には「sitte」の商品コーナーが。オンライン販売もあり

「働いて得た対価を使うことも、社会参加を実感する上で大切です」と話すのは、同施設の所長・河本歩美さん。三条会商店街に協力してもらい、「sitte」の売り上げは商店街で使える金券として制作者に渡されます。メンバーからは「買い物やランチも活動の楽しみ」との声も。

「良いものを作りたい」「仕事があるから健康にも気をつけなきゃ」と、働くことが日々の活力になっているようです。


全国縦断タスキリレー「RUN伴」


認知症の人が介護・福祉施設と自宅の往復だけになると、地域との関わりが薄くなり、周囲も認知症を理解する機会が得られないそう。

「RUN伴(ランとも)」は地域住民と、認知症当事者、支援者が一緒にタスキリレーで全国を縦断するイベント。京都府内でも6年前から各地で開催されています。前出の河本歩美さんは京都市エリアの実行委員長。話を聞きました。

「認知症だから特別な人と思わず、同じ街に住む〝隣人〟だと感じてもらえたら」と、河本さん。イベントを通じて、認知症の人たちのいきいきした姿に「イメージが変わった」という地域の人もいるのだとか。

今年はコロナ禍で中止となりましたが、来年は開催予定。ルートや距離は参加者の希望に合わせて設定され、車椅子での参加もできます。街頭応援も歓迎だそう。

2018年の様子。京都市長の門川大作さんや、俳優で認知症当事者の芦屋小雁さんがゲスト参加

「認知症の深刻なイメージを変えたい」 −当事者の日常を写真で発信−

仕事帰りに感動した夕日や出かけた日の風景など、写真に残して思い出します


「インスタグラム」に投稿された写真の数々。写っているのは京都の風景や、ときには買い物のレシートなど何げない日常のワンシーンです。投稿しているのは下坂厚さん。2019年、46歳で若年性認知症と診断されました。

「〝作品〟として撮っていたものが、今では〝記憶〟になりました」と、下坂さん。学生時代から趣味で写真を撮り続け、一時期カメラマンとして活動していたことも。認知症で短期記憶が難しくなった現在は、日々の出来事をスマートフォンで撮影し、記録しています。

「〝認知症になったら終わり〟という深刻なイメージを変えたい」と、撮りためた写真で本の制作も企画中。「認知症になってもできることはまだあるんです」と、下坂さん。得意の写真を生かし、当事者目線で前向きなメッセージを発信しています。

下坂厚さん
インスタグラムアカウント
@atsushi_shimosaka


9月21日(祝・月)は〝世界アルツハイマーデー〟

シンボルカラーはオレンジ 京都でライトアップも

全国各地のランドマークが認知症啓発カラーのオレンジ色にライトアップされます。9月21日(祝・月)の午後7時から、京都では京都タワーと京都市京セラ美術館で実施。今年はインターネットで全国の様子が同時配信されます。無料で視聴できますよ。

主催/認知症の人と家族の会
配信時間:午後6時40分〜7時30分
配信URL:https://youtu.be/Mpl33PM8dmY

昨年のライトアップの様子
写真協力/認知症の人と家族の会

(2020年9月12日号より)