
京都に魅力を感じ、他府県から移り住んだ芸術家たちがいます。移住に至った理由。そして、地域への思いやつながり方。芸術家4人が選んだ〝京都暮らし〟とは。
撮影/深村英司ほか
〝落ち着いて創作活動ができること〟が、移住の理由に
さまざまなジャンルの芸術家が移り住む京都。中でも、京都市は芸術に関する仕事をする人が多いという統計があるのだとか。芸術家の制作活動を支援している京都芸術センターの担当者に話を聞きました。
「比較的コンパクトな町にたくさんの芸術家が暮らすため、京都市では現代アートと茶道のようなジャンルを超えたコラボレーションが生まれやすい。そういった点に魅力を感じる人もいます」
他府県出身で京都の芸術系の大学を卒業後、そのまま残って活動する人がいる一方、海外で活動していた人などが、日本での拠点として京都を選ぶケースも。「京都は落ち着いて仕事ができると、好まれています」
選ぶ居住地は、分野ごとに特徴が
京都市の中でも、芸術家が居住地として選ぶエリアは多様で、その分野ならではのポイントがあるとのこと。
「染色家であれば、材料となる植物が調達しやすい、京北などの自然豊かな場所に。大きな作品を手がける画家や彫刻家であれば、南区、伏見区など、広いスペースを確保しやすい中心部から少し離れたエリアが人気です」
汚してもOK、音を出せるなどの条件で家を探すと、工場用物件などが合うことも。ギャラリーへの出展や公演などで全国に移動する機会が多い人は、京都駅へのアクセスの良さも決め手になるそうです。
大山崎町
〝三川合流域〟の自然が作品にも影響しています
画家木村達彦さん

画家・木村達彦さん(47歳)は鳥取県出身。大山崎町を最初に訪れたのは、大学生の頃だったといいます。
「『アサヒグループ大山崎山荘美術館』や『聴竹居』などの名建築に触れ、文化的な魅力を感じました。町のゆったりとした雰囲気も気に入り、いつかここで創作活動をしたいと思うようになったんです」
約10年間、小学校で教師を勤めた後、画家を生涯の仕事とすることに。念願がかなって、大山崎町に活動拠点を置きました。
桂川、宇治川、木津川の三川合流域である同町の自然が、作品にも影響を与えたそうで…。
「元々、空気の流れや感情の移り変わりを抽象的に表した画風でしたが、大山崎町で暮らし、川に触れる機会が増えたことで〝水の流れ〟に興味を持ち、作品のテーマに選ぶようになりました」
現在、自宅で子ども向けの絵画教室「Art Labo遊び場」を運営。
「地域の子どもたちや大山崎町に、何か貢献できないかという思いで始めました。子どもたちが日々いきいきと過ごせるよう、〝自分の好きを尊重した作品づくり〟を教室のコンセプトにしています。さまざまな個性を持つお子さんが、心地よく過ごせる場所になればうれしいですね」

京都市上京区
町家での日常を体に染み込ませて表現
ダンサー増川建太さん

西陣にある築100年を超える町家で暮らす、増川建太さん(31歳)。振り付けや表現方法に決まりがないコンテンポラリーダンスと呼ばれるジャンルのダンサーです。東京都出身で、京都に移住をしたのは2022年。きっかけは、2019年に京都で行われたイベントに参加したことだといいます。
「10日間ほどの短い滞在でしたが、京都は劇場が多く、鴨川があって自然も感じられる、良い場所だと思いました」
その後、コロナ禍に「東京を離れ、自然との距離が近い地域で暮らしたい」との思いが強くなり、京都への移住を決意。北区の原谷などに居を構えましたが、京都で活動をするうちに町家での生活にひかれるようになったそう。
というのも、増川さんのダンスのテーマの一つは「昔と今の食文化」。実際に料理をしながら踊ることもあるため、昔ながらの〝台所〟に立つことが作品づくりに役立つと考えたと言います。
現在の町家に転居してから、土間で料理をすることが日常になった増川さん。「日々の調理の動作を体に染み込ませ、振り付けに昇華していけたら」。
作品で用いる包丁や器などの道具は、北野天満宮の天神市で調達することも。「掘り出し物があって、面白い」と話してくれました。
現在は「京都芸術センター」主催の公演で振り付けを担当したり、ダンサーとして出演したり。ワークショップを開催するなど、活躍しています。


京都市東山区
絹糸がすぐ手に入る立地と路地裏の〝ひっそり感〟が決め手に
指ぬき作家志知(しち)希美さん

奈良県で生まれ育った志知希美さん(35歳)は、手芸道具のメーカーに勤めていた頃、金沢を訪問。そこで裁縫道具の一つである「加賀ゆびぬき」に出合い、魅了されたといいます。太めのリング型の土台に色とりどりの刺しゅうを施したもので、アクセサリーとしても使われています。
志知さんは本業の傍ら、「加賀ゆびぬき」に加え、その技術や糸使いを応用したイヤリングなどの作品を制作するように。形はリング型や四角形、ひし形などさまざまです。手作り市などへの出展を重ねた後、2021年に住まいも兼ねた「アトリエ立夏」をオープンさせました。
アトリエの場所に選んだのは、京都市東山区・六原。
「金沢ではなく京都を選んだのは、なじみの深い関西で、なおかつ絹糸を生産・販売する手芸店が多く、種類豊富な糸を実際に見て購入できるから」と話します。
「六原は、下京区の松原通沿いに複数そろう、有名な手芸店へ徒歩で行ける立地です。さらにこの場所は、路地を一本奥に入ったところにあるのでひっそりとしていて。制作に没頭できそうだと感じました」
志知さんは、近隣の店舗のオーナーとともに、地域を盛り上げる取り組み「京都東山路地裏ディスカバリープロジェクト」を進行中。「〝新参者〟の私を優しく受け入れてくれた地域の恩返しがしたいと思うように。まずは六原の地図を作って、新しいお店を広めていきたいです」


宇治市
窯元が集まる山里で、信楽焼の制作に集中
陶芸家橘功一郎さん

宇治市の中心部から北東に約4km。山あいに広がる炭山(すみやま)は、窯元が集まる〝陶芸の里〟として知られています。
1960年代、陶芸家がより良い創作活動の場を求めて移り住んだことで、生まれた同地域に、約30年前、移住してきたのが陶芸家の橘功一郎さん(56歳)です。

「妻の両親がこの山のふもとに住んでいて。陶芸の仕事場に使えそうな物件があったので、結婚を機にこちらへ」と話します。
「窯場で火を扱うことや作業時に音が出ることなどが、住宅街では敬遠されがちで。ここは山の中ですし、住民も陶芸家が多いので迷惑になる心配がなく、新しい人を迎え入れてくれる雰囲気もありました」
清水焼の窯元が多数を占める炭山ですが、橘さんはここで、信楽焼を作陶しています。
炭山での暮らしについて尋ねると、「窓から見える山の色に季節の移り変わりを感じたり、鳥のさえずりを聞いたり。生活面でも、ふもとのスーパーまで車で10分なので買い物にも困りません」と笑顔。
宇治の小学校などで陶芸を教える橘さん。「陶芸の授業を通して、自分を表現する方法は言葉だけではないよと伝えたいです」
(2025年5月31日号より)
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