ジューンブライドや「プロポーズの日」(第1日曜)など、結婚にまつわる記念日が多い6月。二人が思いを遂げるまでには、さまざまな形で気持ちを伝え合ったのでは。
京都は古くから和歌や手紙文化が発展し、恋文の逸話がたくさん残っています。平安時代から現代まで、各種エピソードを集めました。
イラスト/フジー
31音で相性がわかる!? 平安時代の思いの伝え方
「男女が顔を合わせられなかった平安時代。意中の人に思いを伝えるのは、五七五七七の31音からなる和歌でした」と話すのは、京都産業大学准教授の雲岡梓さん。
「教養やセンス、人柄が表れる和歌。文面から相性を確かめるのは、現代のLINE(ライン)やインターネット上のやりとりに通じますね。
また、男女とも和歌のうまさがモテる条件の一つに。和歌の代作も一般的だったようです」
ここでは、恋多き美男子として知られる平安時代の歌人・在原業平(ありわらのなりひら)にまつわるものを教えてもらいました。
復縁
野とならば
鶉(うずら)となりて 鳴きをらむ
かりにだにやは 君は来ざらむ
「伊勢物語」一二三段より
都の外れにある伏見・深草に住む女性のもとに通っていた業平が、別れをほのめかす和歌を詠みます。その返歌がこちら。
「あなたが出て行ってここが深い野となれば、私はウズラになって鳴いているでしょう。そうすればあなたは、せめて狩りにでも、仮初めにでも(深草に)来てくださるでしょうから」
相手の気持ちを受け入れつつ、自分を深草名物のウズラに例えてけなげに愛情を伝える内容に、業平は心を打たれてほれ直したそう。
両思い
浅みこそ
袖はひつらめ 涙川
身さへ流ると 聞かば頼まむ
「伊勢物語」一〇七段より
在原家の侍女宛てに歌人・藤原敏行から「あなたを思って泣いた涙が川のように流れ、袖をぬらしている」と求愛の和歌が届きます。若い女は自分の思いをうまく和歌にできませんでした。そこで、男心を知り尽くす業平が代作した返歌です。
「川の浅瀬では着物の袖しかぬれないように、私への思いが浅いから袖だけがぬれるのでしょう。涙の川があふれ体まで流れると聞いたなら、あなたの気持ちを信じましょう」
挑発するような内容で敏行の真剣さを確かめます。敏行は和歌に感動し、その後二人はめでたく恋人になったとか。
教えてくれたのは
京都産業大学 文化学部 京都文化学科 准教授
雲岡梓さん
悲恋から〝モテ自慢〟まで
恋文ゆかりの地
京都各地に残る、恋文の逸話。
ゆかりのスポットを紹介します。
小野小町に送られた恋文を供養
平安時代の歌人・小野小町。和歌に秀でた絶世の美女といわれ、多くの男性から思いを寄せられていました。小町が晩年を過ごした隨心院には、送られてきた恋文を供養して埋めたと伝わる文塚が。思いのこもった手紙を粗末に扱うと、相手から恨まれたり、たたられると考えられていたようです。
隨心院
京都市山科区小野御霊町35 、TEL:075(571)0025、午前9時〜午後5時。拝観料500円
墨染から山科まで通い続けたいちずな恋
小野小町に恋した深草少将は、熱心に恋文を送っていたそう。うっとうしく思った小町は「もし100日間通ってくれたら思いに応える」とあしらいますが、少将はその言葉を信じて墨染から山科までの道のりを通い続けました。小町も次第に気が変わっていき日数を数えて待っていましたが、99日目の夜、大雪が降り道の途中で少将が凍死。かなわぬ恋となりました。
欣浄寺(ごんじょうじ)
京都市伏見区西桝屋町1038、TEL:075(642)2147、午前10時〜午後4時30分。拝観無料
恋文を冊子に 土方歳三の〝モテ自慢〟
新撰組副長の土方歳三は、花街の女性達から人気が高く、数多くの恋文をもらっていたようです。モテた証拠として、その恋文をまとめて冊子に! 〝モテ自慢〟の手紙と一緒に、東京の親戚へ送っていたというのです。
冊子の現物は残っていませんが、親戚に宛てた手紙が仙台市博物館に今も保存されています。
壬生屯所旧跡 八木家
京都市中京区壬生梛ノ宮町24、TEL:075(841)0751(京都鶴屋鶴寿庵)、午前9時〜午後5時。拝観料1100円
ノンフィクション本になった
夫婦間のラブレター
京都で交わされた、2組の著名な夫婦のラブレターが本になっています。
熱烈な恋にドキッ 父母の往復書簡
手紙から家族の青春時代を知ることも。詩人・谷川俊太郎さんは、両親の遺品から恋文を発見。その一部を本にまとめています。
哲学者の父・徹三さんと母・多喜子さんの出会いは1921(大正10)年。大学生時代に出会い、結婚するまでの約2年間で交わされた手紙はなんと537通! 上長者町と外淀町という〝近距離恋愛〟ですが、手紙には「早く会いたい。会いたくて死にそう」と、止まらない恋心がつづられています。少しずつ距離が縮まっていく様子は、まるで恋愛小説を読んでいるみたい。
「母の恋文—谷川徹三・多喜子の手紙」
谷川俊太郎(編)/新潮社 ※版元品切れ
赤裸々につづられた歌人夫婦の愛
歌人の永田和宏さんは、同じく歌人だった妻・河野裕子さんの遺品から、二人が交わした300通を超える手紙と、彼女の日記を見つけたそう。今年3月、手紙、日記、それぞれが詠んだ短歌をもとに、出会いから結婚までをつづったエッセーが発行されました。
当時、京大生だった永田さんと、京都女子大学生の河野さん。出会ったころに河野さんが別の男性にも思いを寄せていたこと、進学と就職、中絶や自殺未遂など、切実な問題もあったよう。後におしどり夫婦として知られた二人の青春時代が、赤裸々に描かれています。
見れば手紙を書きたくなるかも?
アニメや小説の題材にも
現代にも、恋文がモチーフになっている作品が。京都生まれのアニメや小説をピックアップ。
代筆を通じてさまざまな〝愛〟を知る物語
2018年に放送されたテレビアニメ「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」。感情を持たない軍人として育った主人公の少女・ヴァイオレットが、戦後、代筆屋として働きながら、上官に告げられた「愛してる」の言葉の意味を探す物語です。たくさんの依頼者と関わる中で友愛や家族愛、恋心を知り、思いを伝えることの大切さに気付いていきます。
気持ちを伝えるため文通武者修行
「恋文の技術」は、京都から能登の実験所に送られた大学院生・守田が主人公。彼の手紙で構成された、森見登美彦の書簡体小説です。守田は恋文を書く技術をマスターして代筆屋になるための「文通武者修行」と称し、知人たちに手紙を送りつけます。しかし、自分が本当に気持ちを伝えたい相手には、思うように手紙を書けず…。ユーモアたっぷりの文面に、思わずクスリ。
(2022年6月11日号より)
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