かむ、飲み込むといった口腔機能が低下する「オーラルフレイル」。高齢者だけではなく、若年層も知っておきたいその予防法とは。
イラスト/スケラッコ
長かった外出自粛で若者も口が衰えている?
「お茶や汁物でむせる」「薬が飲み込みにくい」「口が乾く」「電話でよく聞き返される」「食欲がない」……。そんな症状がある人は、口の機能が低下した「オーラルフレイル」かも。
「以前は高齢者が主でしたが、昨今は若者や子どもでも十分に口が開かない、食べこぼすといった症状がみられるように。社会情勢により長らく外出を控え、人と話す機会が著しく減ったこと、黙食や孤食、偏った食事内容などが原因と考えられます」
そう話すのは、京都府歯科医師会の岸本知弘先生です。会話する機会の減少のほか、加齢による歯の喪失や口まわり・舌・のどの筋肉の衰え、だ液の分泌の減少などが要因となるそう。
「食べる、飲み込む、話す、といった口腔機能の低下を放っておくと、栄養バランスの乱れ、低栄養、身体機能低下とドミノ倒しに衰えが進むことに。オーラルフレイルは、ケアしないと心身の機能低下(フレイル)に繋がる、〝プレフレイル〟の段階なのです。
まずは口の健康を保つことが、全身の健康への第一歩になります」
高齢者だけではなく、すべての年代で対策の必要性が高まるオーラルフレイル。日常に取り入れたい四つの予防ポイントを、岸本先生が教えてくれました。
ポイント1セルフケアとプロのチェックで歯と口内の清潔をキープ
歯を失うと、食べることはもちろん会話によるコミュニケーションにも支障が出ることに。虫歯や歯周病による歯の喪失を防ぐには、「まずは、日々のセルフケアから」と岸本先生。
「毎食後に歯磨きをしているという人も、実はきちんと磨けていないことも。歯の状態は一人一人異なります。大切なのは、その人に合った道具と磨き方を知ることです」。そのためにも、歯医者で定期健診を受けることが重要だそう。
「健診では、自分では取りにくい歯垢(しこう)など汚れの除去のほか、個人に合わせたケアの方法も指導してもらえます。虫歯になったら行くのではなく、ぜひ予防のために活用を」
また、入れ歯や舌の汚れは口内の雑菌増殖のもとに。「歯磨きと同時にきれいにする習慣を付けてくださいね」
歯医者の〝かかりつけ〟を
〝かかりつけの歯医者〟を持つことで、定期的に歯の状態をチェックできます。歯並びや歯茎の状態のほか握力などに合わせた歯ブラシの選択、磨き方、歯間ブラシやフロスなどの使い方も教えてもらえますよ
舌や入れ歯の手入れも忘れずに
入れ歯をしている人は手入れや除菌をしっかりと。また、舌に汚れがたまると口臭のもとにも。市販の「舌ブラシ」や軟らかい歯ブラシでやさしくブラッシングを
ポイント2わっはっはと笑って口まわりの筋肉を鍛えよう
口やあご、舌、のどなどの筋肉が衰えると、十分に口が開かない、かめない、うまく飲み込めないなどの症状が。飲食物が気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」により肺炎を引き起こしてしまうことも。日々意識的によく動かし、鍛える必要があります。
岸本先生のおすすめは「わっはっは、と大きな声で笑うこと。口の筋肉はもちろん、だ液腺も刺激を受けてだ液の分泌がよくなります」。
「あいうべ体操」(下図参照)も口まわりや舌のストレッチとして気軽に取り組めるものだとか。また、京都市のウェブサイトでもさまざまな口の体操をチェックすることができます(下コラム参照)。自宅でチャレンジしてみては。
口まわりを効率よく動かせる「あいうべ体操」
①のどの奥が見えるくらい、普段より大きく口を開く
②口をできるだけ横に広げる。首に筋が張るのを意識
③唇をとがらせ、思い切り前に突き出す
④舌を思い切り下にのばす。あご先をなめるイメージ
口の形を意識しながら発音することで、口輪筋、唇、頬、舌などが鍛えられます。舌力が付くと、口呼吸を鼻呼吸に改善することも期待できるそう(※)。毎食後10セットが目安です
※口で息をする口呼吸は、ウイルスに感染しやすくなる、虫歯・歯周病のリスクが上がる、口臭の原因になるなどの影響があります。マスク着用で口呼吸の人が増えているそう
ポイント31口30回を意識して食事はバランスよく、しっかりかんで
「本当は好物なのに、かみにくいからと食べなくなったものはありませんか」と岸本先生。歯を失うなどしてかめなくなると、うどんなど軟らかいメニューに偏りがちに。
「子どもでも家では菓子パンのみなど偏食になっていることも。小さいころからさまざまな食材をバランスよく食べることを習慣づけましょう。あごの発達のためにはよくかむこと。1口30回が目安です。食材を大きめに切る、かたい食材を食べることもいいですね」
高齢でかむ力が弱っている場合は、無理にかたいものを食べるとあごなどを傷める場合も。「食べられる範囲で栄養バランスを整えること、よくかむことを意識してください」
さまざまな栄養素を取り入れて
食べる量が少なくても、多彩な食材を使うことで栄養バランスが保てます。また、〝ながら食べ〟はあまりかまずに飲み込んでしまうので、食事中はテレビやスマートフォンをなるべくオフに
ポイント4なるべく外に出て人とのつながりを持とう
岸本先生は、「社会性がなくなり、孤立するのが一番のオーラルフレイルの要因」といいます。人と話さない、一人で食事することは口腔機能の低下、食生活の乱れ、そしてからだ全体の機能低下のもとにも。
「外に出て、人と出会い、人と話しましょう。そうすることで全身の運動にもなり、精神的な刺激にもなります」
外出しづらい場合は電話などの活用を。「声を出して話すことが大切です。家族をはじめ友人同士で連絡を取り合うなど、適度な人付き合いを心がけて」
おしゃべりも大切
無理のない範囲で外出し、会話の機会を。「歯医者も活用して。入れ歯の掃除をしてもらいたい、など気軽に来院いただいてOKです」と岸本先生
ビデオ通話も活用を
家族や友人とのやり取りは、メールではなくビデオ通話がおすすめ。声だけではなく表情全体を使ってコミュニケーションを
ウエブサイトを参考に自宅で〝お口の体操〟を始めよう
京都市ではオーラルフレイル予防のための口の体操をウェブサイトで公開中。スマートフォンやパソコンでチェックしてみては
- 京都市 お口の体操
(頰の体操、舌の体操、唾液腺マッサージ) - https://www.city.kyoto.lg.jp/digitalbook/page/0000001505.html
- (問い合わせ/京都市保健福祉局健康長寿のまち・京都推進室健康長寿企画課)
- 北区健康体操
Happy☆キタエちゃん体操~口腔編~ - https://www.city.kyoto.lg.jp/digitalbook/book_cmsfiles/985/book.html
- (問い合わせ/京都市北区役所保健福祉センター 健康長寿推進課)
教えてくれたのは
京都府歯科医師会理事
歯科医師 岸本知弘先生
(2021年11月20日号より)
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