古くから人々を雨から守ってきた傘。実用的なだけではなく、キラリと光るファッションアイテムでもありますね。そんな傘には京都との関わりも。使う人、作る人それぞれのこだわりや、傘にまつわるエピソードが見えてきました。
京都の傘選びは独特!? 売れ行きに見る気象変化や地域性
「傘は、気象状況や土地柄を顕著に反映する面白いアイテム」と話すのは、「大丸京都店」傘売り場担当の濱﨑光さんと津田みなみさん。洋傘売り場のスペシャリストである「アンブレラ・マスター」の資格を持ち、来店者の傘選びをサポートしています。
「例えば、近年はゲリラ豪雨などの影響で日頃から傘を持ち歩く人が増えたせいか、軽量の傘が売り上げを伸ばしています。年々強くなる日差し対策として日傘を差す男性も増加。男性用日傘も人気上昇中です」(濱﨑さん)
そして興味深いのが、京都ならではの傘事情。
「京都のお客さまの傘選びはとても慎重で、30〜40分ほど悩まれる方もいます。全体のファッションを重視される方が多く、傘を買い足してコーディネートのバリエーションを増やしたいという要望も。悩んだ末に『今度、合わせたい服を着てもう一度来ます』と購入を見送られる場合もあります」(津田さん)
京都の人たちのこだわりを物語るエピソードですね。
「和服を頻繁に着る方が多く、着物や帯の柄を邪魔しないようにと控えめな無地の傘が選ばれる傾向があるのも京都ならでは。個性と上品さを感じる、竹などの自然素材を使った持ち手の傘が好まれるのも特徴です」(濱﨑さん・津田さん)
「大丸京都店」
アンブレラ・マスター津田みなみさん(左)、濱﨑光さん
日本洋傘振興協議会が認定する「アンブレラ・マスター」。洋傘の機能やケア方法などに精通した傘のスペシャリストです。
都道府県ランキング1人何本持っている?
1位 東京都 4.1本
2位 神奈川県 3.9本
3位 京都府 3.8本
ウェザーニュースの2017年の調査(最新)では、京都府の1人あたりの傘の所有本数は全国3位。公共交通機関と徒歩での移動で傘の使用頻度が高いのが一因に。また、物持ちが良く、新しい傘を買っても古いものを捨てない人が多いことも影響しているようです。
ファッションの流行をキャッチし
それに合う洋傘を
1885年に京都・西陣で帯地問屋として創業し、1920年代から洋傘を作り続ける「ムーンバット」。
「傘には和服でいう帯のように、装いになじみつつも目を引くような絶妙な存在感が大切。傘はアクセントとなるファッションアイテムだと考えています」。そう話すのは洋傘チームのチーフ・大矢裕さん。
「国内外の洋服のコレクションやバイヤーの生の声からファッションの流行をキャッチ。それにマッチする傘を目指して皆で話し合いを重ねていきます」
骨を4本まで減らした軽くコンパクトな傘など、新しい技術を取り入れた商品も続々と誕生しています。
「一部のアイテムは、今でも京都の工房の職人による手作りです。長年培ってきた技術で新しいアイデアを形にするという、伝統と革新の両方を重んじるものづくりは、帯地問屋の頃から変わりません」
今、利用を呼びかけているというのが「通学用晴雨兼用こども傘」。
「子どもたちを雨だけではなく、熱中症からも守ります。また、傘によって人との間の距離が保てるので、ソーシャルディスタンスの効果も期待。南丹市の小学校などに寄付をし、使い心地を確かめてもらっています」
洋傘にまつわる今後の動きにも注目です。
「京都大作戦」を支えるアイテムが登場
宇治市の「山城総合運動公園(太陽が丘)」で今年も開催予定の野外ロックフェス「京都大作戦」。新たな試みとして導入されるのが「オリジナル万能傘」! 晴雨兼用の折り畳み傘が会場で配布されるのです。
その背景には、「酷暑や雨に見舞われがちな夏フェスで役立ててほしい」との思いが。加えて、「来場者のソーシャルディスタンスの確保につなげるねらいもある」といいます。
京和傘の朱や紫の色はわびさびを重んじる茶の湯と関係あり
歌舞伎や日本舞踊といった伝統芸能、祭りなど、日本文化に欠かせない和傘。
「特徴は和紙や竹など自然素材でできていることや、多いと70本にもなる骨で和紙を支えるようにして開くこと。骨で生地を押し上げて開く洋傘とは、シルエットも大きく違いますよね」と、京和傘製造元「日吉屋」の和傘職人・竹澤幸代さん。
「中でも京都で作られる京和傘は、都人たちの審美眼が磨き上げた独特の美しさがあります。わびさびを重んじる茶の湯との関係も深く、定番の朱や紫の色みは茶道の家元とともに考案したそう。装飾をそぎ落とした上品さが魅力です」
しかし、京都にたくさんいた傘職人も今では減り、分業も困難に。複雑な工程の数々を一人でこなすため技術の継承は難しいといいます。
「多くの人に和傘に興味を持ってほしい」と話す竹澤さんに、和傘を気軽に楽しむコツを聞いてみました。
「京都には和食店や祭り、最近では新しいホテルのインテリアなど、和傘と出合える場所がたくさん。そっと置かれているだけで場の風情をかき立てる存在感を楽しんでください。
また、京都の街並みの中なら、和傘を差すことへのハードルが下がるとの声も。和傘とともに街歩きするのもおすすめですよ」
彫刻職人、それとも白狐?
知恩院の七不思議「忘れ傘」
知恩院境内の御影堂の軒裏、地上約14mの場所をよく見ると、骨だけになってしまった和傘があります。なぜこんな場所に? これには二つの伝説があります。
一つは彫刻職人・左甚五郎(ひだりじんごろう)が魔よけのために置いたとの説。左甚五郎は実在の人物とも、彫刻職人の象徴ともいわれ、落語や講談などで取り上げられています。
もう一方は、御影堂にすんでいたという白狐の説。御影堂再建のため、すみかを追われた白狐はずぶぬれの子どもの姿に化けて出ましたが、霊巖(れいがん)上人の法話を聞いて改心。貸してもらった傘を軒裏に置き「知恩院を守る」と誓ったとか。白狐は濡髪童子と名づけられ、今も知恩院内の社で大切にまつられています。
切り分けてようじを刺せば
蕪村が詠んだ〝しぐれ傘〟に
和菓子店「京華堂利保」の「しぐれ傘」。優しい甘さのようかんをしっとりとしたどら焼き生地で挟んだ、上品な味わいのお菓子です。
2代目店主が与謝蕪村の「化けさうな傘かす寺のしぐれかな」という俳句に着想を得て考案したとのこと。そのままだと円形ですが、切り分けてようじを刺すと…、まるで畳んだ傘のように! 遊び心が楽しいですね。
●京華堂利保=京都市左京区難波町226
(2021年6月5日号より)
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