京都の桜シーズンの到来を告げるのが、平野神社の魁(さきがけ)桜。早咲きで知られるこの桜を含めて、平野神社の境内には60種約400本が植えられ、1カ月以上にわたり華やかな景色が見られます。同神社と桜の関係は、さかのぼること約1000年前―。
「平安時代、花山天皇が当神社に桜の木をお手植えしたと伝わっています。それに倣い、臣籍降下した公家がよみがえりや繁栄を願って希少な桜を奉納しました」(権禰宜・中村聡朗さん)
江戸時代には、公家だけではなく庶民にも親しまれるように。夜桜が開放され、屋台とともに花見を楽しむスタイルが定着したといいます。
「境内のさまざまな桜を眺めてみてください。寿命が短い里桜は頻繁に接ぎ木をし、新たな苗木は枝や根の成長を考慮し、植える場所を選定。将来に引き継いでいくためにも、職員や職人が日々手入れをしています」
〝桜の名所〟を守り続けてきた平野神社。その背景には、歴史や人々の工夫がありました。
有名な桜といえばソメイヨシノ。ですが、成り立ちは多くの謎に包まれているのだとか。
「その謎を解く鍵が〝ゲノム〟です」と、京都府立大学教授・板井章浩さん。何だか難しそうな言葉ですが…。
板井さんによると「ゲノムとは、DNAの配列で表される遺伝情報全体のこと。生物を形作る設計図ともいわれます」。京都府立大学や島根大学、かずさDNA研究所の研究グループは、昨年ソメイヨシノのゲノムDNAの解読に成功しました。
「開花前1年間の1カ月ごと、開花前1カ月間の2日ごとにつぼみを解析。数億以上に及ぶ転写産物の配列を読み取りました」
結果、ソメイヨシノはエドヒガンとオオシマザクラという2品種を祖先に持つと判明。552万年前に異種に分かれたこの2種が百数十年前に再び一つになり、ソメイヨシノが誕生したのです。
「開花につながる遺伝子を特定する研究が現在進行中なので、より正確な開花予測ができるようになると思います。新品種の開発も進め、咲く時期が異なる〝ソメイヨシノシリーズ〟を生み出したいです」
ゲノムの解読により、今後の桜事情も変わってきそうですね。
〝桜ソング〟と聞くと、印象的なヒット曲がパッと頭に浮かぶのでは。
「私は森山直太朗さんの『さくら(独唱)』ですね」とは、京都文教大学准教授の山崎晶さん。
「情緒的な恋の歌が目立つJ―POPは、桜を取り入れやすい傾向があります。特によく結び付けられるのが春の別れ。また、〝ひらひら〟〝舞う〟といった耳に残るフレーズは、サビに多用されますね。ドラマチックな曲調にも合います」
「さくら(独唱)」は2003年発売。ほかにも、河口恭吾さんの「桜」、ケツメイシの「さくら」、いきものがかりの「SAKURA」…、これらの共通点は、いずれも2000年代にリリースされたということ。
「90年代後半、CDは低迷期に突入。ヒット曲をどう作るかが課題になる中、日本人に愛される〝桜〟が注目され、多数の桜ソングが生まれたのです。別れのテーマに限らず、盛り上がるハッピーな曲も作られました」
2010年代にはいったんの落ち着きを見せた桜ソングブーム。2020年代は果たして?
ふんわりと漂う独特の香りに、豊かなうま味。チーズやベーコンなどの食材をスモークする〝燻製(くんせい)〟は、ファンも多いですよね。
燻製を作るのに欠かせないのがスモークチップ。桜は、その代表的な樹種でもあるんです。
「桜をよく使うのは日本ならでは。アメリカだとヒッコリーが主流のようです」と教えてくれたのは、燻製料理専門店「燻製マーケット」の石本久子さん。
「桜チップは強めの香りが特徴。肉、卵など、幅広い食材に合いますよ。私はお菓子を燻製するときにも使います。リンゴなどのチップと混ぜる場合も。試行錯誤するのも燻製の面白さです」
桜がポピュラーな理由としては「やはり日本で身近な木だからでしょう」とのこと。
「桜チップはソメイヨシノで作られます。手に入りやすいのはもちろんですが、なじみが深いというのも理由なのでは。桜チップで作られた燻製を味わい、花をめでるのもいいですね」